ウルトラマン&ウルトラセブン

1.ニュース

 「ニュースの時間です。先日、大阪市内に出現した宇宙人に向かってウルトラ警備隊が発砲した事に対し、この度大阪市がTDFに対し、正式な抗議を致しました。これにより、TDFが抗議を受けた地方自治体は、全部で十四団体となりました。」
「今度の抗議は、大阪市長の名前でなされ、”建物の密集した地域での発砲の禁止”を始め、”民間人誘導の優先”など、全部で8項目に分けてなされました。これに対しTDFでは”市街での発砲は非難されて当然だ。しかし、隊員達も必死になって頑張っているので、市民の皆さんも理解して欲しい”と大阪市民に呼び掛けました。」

2.後始末

 隊長「皆、よく聞いてくれ。今回は長官直々の命令だ。」
それを聞いたウルトラ警備隊の面々の表情が曇った。
隊長「実は我がウルトラ警備隊に、今大変な事態が起こっている。」
フルハシ「今度は一体何なんです?前は山の木々を燃やしたら地崩れが起こったっていう、付近住民からの苦情でしたけど。」
隊長「うむ、諸君はこの間のボーグ星人の一件を覚えていると思う。どうやらあの時熱ミサイルで水を蒸発させてしまった旭沼は、釣りの名所だったらしい。」
アマギ「という事は、今度は釣り人達からの苦情ですか?」
隊長「そうだ。それとあと、自然保護団体と動物愛護協会からだ。」
アンヌ「そう言えば旭沼は日本百景の一つですわ。」
隊長「長官はそれを憂慮し、旭沼を元通りにせよという命令を我々ウルトラ警備隊に出したんだ。」
ソガ「そんなもの養殖屋さんにでも任せれば良いものを・・・」
隊長「まあそう言うなソガ。宇宙人を倒すのも我々の任務だが、かと言って自然を破壊して良という訳ではない。」
ダン「一理ありますね。」
隊長「よし、ではダンとアンヌはホーク1号で円盤の残骸の片づけ、ソガとフルハシは魚の放流と養殖場の設置、アマギは私と水溜めと水質改良だ。魚はもう届いているそうだ。皆行くぞ!」
皆「ふぁーい。」
ウルトラ警備隊の尽力により、1ヵ月で旭沼は元通りに戻った。だがまだ雪崩で崩壊したスキー場の復元が待っている。彼らはこのまま第二の自衛隊となってしまうのか?頑張れTDF!負けるなウルトラ警備隊!未来は君達にかかっているのだ!!

3.ニュース 2

 「ニュースの時間です。今朝未明大阪市内で酒に酔ったTDF隊員が数人で、『阪神優勝ばんざい!』と叫び、食い倒れ人形を抱えて道頓堀に飛び込むという事件が発生しました。この日は在阪球団である阪神タイガースが21年ぶりに優勝した事もあり、多数のファンが道頓堀に飛び込みましたが、市民からは『こんなんで大丈夫なんやろか?』という不安の声があがっています。」
「これに対しTDF首脳部は、『隊員もファンには違いないので、規制は出来ない。ただ注意と後は本人達の自覚次第です』と渋い顔で、歯切れ悪く答えました。」

4.宣戦布告

 ここは科学特捜隊指令室。常に宇宙空間及び地上の状態を映し出し、事件の発生を素早くキャッチする大スクリーンには、今とあるTVスタジオが映し出されていた。
「うう、やっぱり大スクリーンは迫力が違うな。あっそれ、しっずかちゃーんっ!」
「こらっイデ、アラシ、お前ら、何をしている!」
とそこには腕を組み、凶悪な顔をした隊長の姿があった。
「あっ隊長、すみません、つい出来心で・・・」
「すぐに元に戻しますから・・・」
「ばかもん!工藤静香が出てるんなら何で早く言わないんだ。俺は自分の部屋の16インチで見てたんだぞ!あっそれ、しっずかちゃーんっ!」
その時いきなり画面が乱れ、どこぞの宇宙人のアップが映し出された。
「〒*@$#%☆★。/=¥¢£!→§※△▽◎□∞∴○●◇◆△▼?!」
「なっ何だ、こいつは?」
彼らが度肝を抜かれ、目を丸くしていると、指令室の扉が開き、ハヤタ&フジ両隊員が姿を現した。
「大変です隊長。宇宙人による電波ジャックです。」
「そうです隊長、あいつらこの地球に宣戦布告してきたんです。」
それを聞いた三人の顔に怒りが浮かんだ。
「何?宇宙人!」
「許せんっ!宣戦布告でも何でもいいから、早く画面を元に戻せ!」
「そうだそうだ!静香ちゃんが見れないじゃないか!」
「あのねぇ・・・・・(×2)」

5.ニュース 3

 「最後にほのぼのとしたニュースです。この度、TDFは”子ども一日隊員”として、小学6年生までを対象に、体験入隊を行う事と決定しました。
これはTDFの仕事を子ども達にも体験させて、何かを学んでもらおうという企画で、一般の子ども達は喜んで自分の名前や住所を記入した募集用紙を提出しています。中には『息子にせがまれて』と笑いながら募集用紙を出しに来たお父さんまでいました。
しかし一部には、『子どもを使ってまで、反感をなくしたいか』という市民もいました。」

南の島のフローネ

1.RP・名作劇場 1

 「私達は住み慣れたベルンの街を離れて、遠くオーストラリアに移住する事になりました。そしてもうすぐオーストラリア!というところで、私達の乗った船が嵐にあったのです。」
「うわっ、デッキの上まで水が!」
「だめです、船長。この船はもうもちません!」
「ううむ、これまでか。止むを得ん、全員救命ボートに搭乗、船から離れろ。」
「せっ船長も早く!」
「いや、私は船と運命を共にする。」
「こうして私達は急いで船から離れようとしたのですが・・・・・」
「なんて事だ、ボートが全部流されてしまっている!」
「ちゃんと繋いでおかないからだ!一体誰が繋いだんだ!」
「もうだめだぁ!」
「予定より一週間も経つのにまだつかないなんて、一体どうしたんでしょうねぇ?」
「どうせ大方遭難でもしたんだろうよ。ところで次の予定はいつだったかな?」

2.RP・名作劇場 2

 「私達は住み慣れたベルンの街を離れて、遠くオーストラリアに移住する事になりました。そしてもうすぐオーストラリア!というところで、私達の乗った船が嵐にあったのです。」
「うわっ、デッキの上まで水が!」
「だめです、船長。この船はもうもちません!」
「ううむ、これまでか。止むを得ん、全員救命ボートに搭乗、船から離れろ。」
「せっ船長も早く!」
「いや、私は船と運命を共にする。」
「こうして私達は急いで船から離れました。が・・・・・」
「だめだ、行けども行けども見えるのは大海原ばかり。この辺には無人島の一つもないのか!」
「いや、諦めるのはまだ早い。希望はいつも持っておかなければ・・・」
「しかしこんな状態ではなぁ・・」
「ふっふっふ、安心したまえ。実は私は遭難以来、ボートの流されている方向を常に調べ続けて来た。そしてこの秘蔵の海図によれば、まもなく小さな島が見えるはずだ。」
「おおっ、それは凄い。してその海図というのは?」
「うむ、我が家に代々伝わるフェニキア商人による信頼できるものだ。」
「・・・・・・・・・・」

3.RP・名作劇場 3

 「私達は住み慣れたベルンの街を離れて、遠くオーストラリアに移住する事になりました。そしてもうすぐオーストラリア!というところで、私達の乗った船が嵐にあったのです。」
「うわっ、デッキの上まで水が!」
「だめです、船長。この船はもうもちません!」
「ううむ、これまでか。止むを得ん、全員救命ボートに搭乗、船から離れろ。」
「せっ船長も早く!」
「いや、私は船と運命を共にする。」
「こうして私達は急いで船から離れたのでした。」
「やった、島だ!」
「おお、これで助かったぞ!」
「早く上陸しましょう。」
「やっとの思いで辿り着いた島で、私達が一息ついていたその時・・・」
「グルルルル・・・・・」
「えっ、何か言ったか?」
「いえ、何も・・・・・・・」
「グルルルル・・・・」
「ほら。一体何が・・まさか猛獣か?」
「まさかそんな事・・・うわっ、熊だ!」
「何故こんな島に手負いの熊なんかがいるんだ?!」
「わあっ、たすけてくれーっ」
「いやぁ、咄嗟の事だったからなぁ、こんな事になるんなら銃を用意しておくんだった・・・今後の課題だな・・・・・」
「納得している場合かっ!」
「ぎゃあっっーーーっっっ・・・・・」

あのねぇ・・・

 目が覚めた。
そこは暗く、何も視界には入って来なさそうな寂れた空間だった。
周りをキョロキョロと見回してみたが、やはり第一印象に違えずそこには何も見出せなかった。
と、不意に若い女の泣き声-それも啜り泣き-が耳に飛び込んできた。
(誰が泣かせたんだろう?それよりも何処にいるんだろう?)
そんな事を考えながらもう一度周囲を丹念に、そして注意深く見回してみると、さっきも見て探した筈の真後ろに、着物を着、頭を結い上げて簪を刺している若い女の姿があった。うずくまり、両手で顔を覆って泣いているその姿は、おそらく誰が見ても
「どうしたんですか?」
若しくは
「何を泣いているんですか?」
という風な声を掛けずにはいられない様な雰囲気を持っていた。
(一体どうしたんだろう?)
俺は先程も出てきた極ありきたりの、そして完全に使い古された陳腐な言葉を脳裏に浮かべながら、彼女の肩を叩きながら声を掛けてみた。
「もしもしお嬢さん、一体こんな所で何を泣いていらっしゃるんですか?」
すると彼女は顔から手を離し、こみあげて来ものを抑え、何度もしゃくりあげながらこう言った。
「お、おとっつぁんが・・殺されて・しまったん・・・です。」

がっちょおぉーん!
てな風に俺は驚いた。何処のどいつがそんな酷い事をしたのか!こんなに若く可愛い娘に・・・。
「ゆるせん!」
自然にそういう怒りの言葉が口から発せられていた。俺の心からの怒りがはっきりと伝わったのか、彼女はこちらに顔を向けた。その顔はやはり想像を裏切る事なく大変美しいものだった。やはりこういう美少女(?)は畳の上に少し正座を崩して、そんでもって小さい弟や妹が・・・・あれ?
「姉ちゃんかわいそう。」
「為五郎、それは言わない約束でしょう。」
(いつの間に・・・)
見ると彼女と俺しかいなかった、しかも何もない空間だった筈の周りが、昔風の時代劇でお馴染みの長屋みたくなっていた。おまけに小さい、五・六才の弟と三・四才の妹とがいた。(顔はどう見ても五十六才と三十四才だったが)
(この世の中には説明不可能な事が多々ある。)
そう思っていると、俺の顔をじっと見ていた彼女の表情が、ぐっと険しいものになった。そしておもむろに口を開き、
「お、お父っつぁんの敵。」
と叫んだかと思うと、すっくと立ち上がり、どこからともなくひっぱり出した短刀を振りかざして、俺に切りかかってきた。俺は
「何かの間違いだ!」
と叫んだが、彼女は
「お、お父っつぁんの敵!」
の一点張り。俺は
「何かの間違いだっっ!」
の一点張り。しかも彼女は短刀で突きかかってくる一点張りで、俺は避けてばかりの以下同文。しかしなにしろただでさえ狭い長屋の一室、逃げ続けるにも限界がある。そのうち逃げきれなくなり、部屋の片隅に追い詰められるのは必至。しかも俺はフェミニストだから女性には絶対に手をあげないというのをモットーとしている。
(こ、このままではヤバイ。ここはやっぱり逃げの一手あるのみ。)
障子を突き破って表へ転がり出ると、そこはいかにも何か出そうな陰気な、そして生温かい風の吹く、薄暗い墓場だった。何でこんな所にばっかり縁があるのだろうか?などと考えながら、しかしまだ彼女が追っ掛けて来るので必死になって逃げた。不思議な事に、”何故部屋の外が墓場なのか?”という問いは浮かばなかった。すると目の前に提灯を持った一団がいて、俺の走る予定の道を完全に塞いでいた。
「どぉけどけどけどけどけぇーっ!」
俺はそうわめき散らしながら集団に突っ込んだ。が・・・そのつもりだったのだが、彼らに手が触れる寸前、俺の手は何か妙な気配でも感じたのか、あらぬ方向へと飛んでいた。
でもそれは正解だったのだ。なぜなら、振り向いた男の内の一人には顔がなかった。又、その隣に日傘を(夜なのに)さしていた女性は首が異様に長かったし、三つ目に一つ目もそこにはいたし、傘は下駄を履いてるし、とどめに彼らの連れている馬は首だけだった。
「な、なんだ?おまえら・・・・・」
舌が回らなかった。思考が麻痺していた。頭では逃げる事を考えているのに、足が全く言う事を聞かない。その上、後ろからは
「お父っつぁんのぉーっ敵いぃーっっ!」
という声が近づいて来る。このまま行けば事態は完璧なまで典型的な”絶体絶命”ってなやつになる。俺は意を決して彼らの間―俺の唯一の逃げ道に逃げ込んだ。事態が更に悪くなっていくとも知らずに・・・。
俺が走り抜ける後から後から墓石が倒れ、もっと醜悪な妖怪や化け物、もののけ、物体Xにエイリアン達が飛び出しては俺を追い掛け始めた。その後方には
”ニッタァー”
と笑った先程の連中が立ってこちらを見、少女が声を張り上げて追っ掛けていた。

 あれから一体何時間たったのだろうか?俺はまだ走っていた。予告通りさらに悪くなった状況の下で。なんと言ってもあれから追手の増えること増えること、騎馬隊、肉食恐竜、インディアン、翼の日の丸も鮮やかな大日本帝国陸軍最強の戦闘機、四式戦”疾風”、スターウォーズでお馴染みの宇宙戦闘機、今時テレビの子ども向け番組にも出て来ない様な派手なデザインの巨大ロボット群、そしてさらに、特撮戦隊ものに出てくる下っ端戦闘員を甲板の上に整列させた、空一面を圧する超巨大宇宙戦艦”まぐろず”etcetc・・まだ核ミサイルを搭載したF―十五イーグルや、F―十六ファイティング・ファルコンがいないだけまし、といった状況だった。核ミサイルなんぞ発射された日には、いくらなんでも逃げきれる筈がないからだ。
だからと言ってこの俺が何もせず逃げまわっていただけ、と思われては困る。いくら鈍い俺でもここまでくればこれが夢である事ぐらいさっしがついていた。ので具体的にどうしたかと言うと、
「夢ならば自分の思い描いた事が実現しても不思議ではない!」
という理論(?)を使い、
ある時は手榴弾、マシンガンにバズーカ砲を駆使して追って来る敵を粉砕し、
またある時は聖剣”キッチャウンデス”と聖楯”マモルンデス”などのアイテムで妖怪変化共を蹴散らし、
そしてまたある時は「天地爆裂」で巨大ロボットをぶっとばし、
そしてまたまたある時は衝撃波や電撃を放ち、空をマッハ二で飛んで戦闘機をうるさいハエよろしく叩き落としてきたのだ。
とはいえ何と言っても多勢に無勢、そこで今は必殺の一撃を与える事の出来る位置まで戦術的撤退をしている最中なのだ。
駄菓子菓子いや、だがしかし、それも遂に終わる時がやって来た。突然俺の目の前に現れた崖の上には、俺の頼もしい仲間である4人が立っていた。それを見つけた敵が、俺を何としても止めようと突進して来たが、寸前のところでそれを”加速装置”を使ってかわすと、彼らの真ん中に立ち、言った。
「待たせたな、みんな。よし、行くぞ!」
「オーッ!ダイキョー・・じゃなくて変身!」
俺たち五人はまばゆいばかりの光に包まれ、そして変身した。
「スペオペ・レッド!」
「ハード・ブラック!」
「サイバー・ブルー!」
「ニューウェーブ・イエロー!」
「ファンタジー・ピンク!」
「我等、空想戦隊エスエフ5!」

どっかぁぁーんんっ!
見事な迄にポーズが決まった。一回でいいからこんな事をやってみたかったんだよなぁ、崖の上でポーズを決めて、その後飛び降りる、これがヒーローの醍醐味だよなぁ・・ああ、生きてて良かった、などと思いながら俺は今迄追って来ていた連中を倒していった。
アイテムは”RIGHTサーベル”。襲い来る妖怪共を右に左にとバッサバッサとなぎ倒し、アンドロイド&ロボットのタッグコンビを一刀の下に切り伏せと、正に獅子奮迅の大活躍。俺の右隣りではブラックが”理論固め”でサイボーグを傷めつけ、左隣りではピンクが”魔法の杖”を振るって猛獣を子豚に変えていた。そして首なし美女死体には、
「合体、マーカライト・バズーカ!発射!!」
とよくある話の必殺秘密最終兵器で止めを刺した。
「おのれおのれ、お父っつぁんの敵。いでよ!ハチャメチャ獣、オタクコミケ!!”」
俺をしつこく追って来ていた少女がそう叫ぶと、地面が波打った後大きな地割れを生じ、その中から巨大なハチャメチャ獣が現れた。それを見た俺は少しも慌てる事なく、仲間達を振り返ってこう言った。
「よし、みんな、コテンロボに搭乗だ!」
「オーッ!」
その後は言わなくても分かってもらえると思う。ちゃんと一度は押され気味を演出し、続いて反撃へのお馴染みの連続パターン!遂にハチャメチャ獣はヨロヨロ、必殺技の出番となった。
「行くぞ!空想剣、異次元ブラックホール返しっ!!!」

ちゅっどーんんっっ!
「おのれおのれおのれ、お父っつぁんの敵。この次こそは必ず仇を打ってみせるからな!」
再び盛大な爆発が起こり、その煙が晴れた時
にはもうその姿はそこにはなかった。

 平和がやって来た。だが、父の復讐に燃える美少女がいる限り俺には休む暇などないのだ。ああ、明日も予備校が待っている。頑張れ俺!俺こそは明日のヒーロー、世界の平和は俺の双肩に!

 

 


性格検査結果

 使用したテストの方式・・・催眠イメージ・テスト

 検査の結果、貴方は非常に特異な思考の持ち主であると
いう事が判明致しました。大阪教育大学入学の暁には、是非SF研究会に入部する事をお勧め致します。

                 09,12,1989
大阪教育大学保健管理センター

 

宇宙戦艦ヤマト

1.もしもデスラーが立派な戦略家だったら

 デスラー「何、十日前に冥王星前線基地が全滅しただと?何故私に知らせない?]
ヒス「はあ・・・つまりあまりいい話ではありませんし・・・・・・総統のお耳に入れる程もないと私が・・・・・・」
デス「ヒス、一体お前は何ガミラス年私の副官をやっておるのだ?地球最後の戦艦があの太陽系から離れた今、一気に総攻撃をかけて地球を奪うチャンスではないか!」
ヒス「おお、なるほど!それでは早速艦隊の出撃準備を致します。」
デス「うむ、こんな年老いた星は捨てて、さっさと移住してしまおう。」
ヒス「ところで、ヤマトは一体どうなさいますか?」
デス「放っておけ、どうせ何もできん。」
こうして地球はガミラスの手に落ち、ヤマトは帰るべき星を失ったのでした。

 

 

2.もしもスターシァがとんでもない女だったら

 スターシァ「守!」
守「スターシァ、お別れだ。」
古代守はタラップを駆け上がった。そして弟進の隣に立ち、おもいっきり手を振った。
守「スターシァ、君の事は忘れない(夢でうなされて)。さようならぁーっ!」
青いイスカンダル星を見ながら古代守は呟いた。
守「あー、やっと解放された。この半年は地獄だったもんな。あんなんと二人きりで・・・」

3.白色彗星

 真田「見たまえ古代。これが突然三日前から見え始めたんだ。」
古代「どこにあるんです?この光球は?」
真田「現在太陽系外一〇〇〇パーセク(三二六〇光年)、六〇万宇宙キロの位置にある。」
島「突然見えだした理由は?」
真田「加速して太陽系に迫り、前面に発光ガスを伴った動力波が発生しているからだ。今スクリーンに拡大投影する。」
古代「これは彗星じゃないか!しかも大彗星だ!」
島「こいつは今、どこかの太陽系にいるんですか?」
真田「いや・・・。なんでだ?」
島「だってこいつ尾を引いてますよ。」
真田「そういえば・・・・・」
三人「・・・これは怪しい!」
古代「ところで真田さん。こいつのスピードはどれくらいなんですか?」
真田「一日一万宇宙ノット(宇宙キロ/DAY)だ。まあ、五〇億四九五〇万km/秒だな。」
島「ますます怪しい。光速度不変の法則を完全に無視している。」
古代「まったくだ。まるで真夏のくそ暑い日に、上下とも黒のスーツを着、黒い帽子を被り、さらにはサングラスをかけて尾行をしている探偵ぐらい怪しい。よし、明日の防衛会議にこの事を提出しよう。」
翌日、防衛会議に於いて白色彗星破壊命令が採択され、その2週間後、地球防衛艦隊の奇襲攻撃により、彗星は完膚なきまでに叩き潰された。

4.もしもスターシァがとんでもない女だったら 2

 デスラー「ああ、なんという事だ。イスカンダルが軌道からはずれてしまった。」
タラン「総統、スターシァがまだ残っておりますが一体如何なさいますか?」
デス「うむ、一応通信回線を開け。」
スクリーンに映し出されるスターシァ。
デス「スターシァ、イスカンダルはもう駄目だ。私の艦隊に乗り移れ。」
スター 「いいえ、私はこの星と運命を共に致します。」
スクリーンから消えるスターシァ。
デス「仕方がない(良かった)。私の艦隊が気に入らなかったようだ(来られたらかなわん)。地球にも念の為に通信を入れておけ。」
数日後、イスカンダルを追尾していたデスラー艦隊にヤマトが追いついた。
デス「久し振りだね、ヤマトの諸君。」
古代「うむ、デスラー。ところでそちらはどうするつもりなんだ?」
デス「勿論無視するのさ。何度通信を入れても同じ返答しか返って来ないんだ。これ以上義理立てする必要もあるまい。」
こうしてスターシァはイスカンダルと運命を共にしたのだった。
 

島流し片道切符 ~イマジノ・スコープ~

 おや、あなた見かけない顔ですね。ああ成程、今日着いたばかりですか、道理で・・・。私ですか?そうですね、もうかれこれ3週間ぐらいになるんじゃないかな。まあここでは日付けなんて関係ありませんがね。お互いこの世界へ来た者同士、どうです、一つ身の上話でもしませんか?ここでは唯一の娯楽ですよ。とてもそんな気分じゃない?じゃあ聞くだけでも聞いて下さい。

 私はね、平凡な公務員だったんです。市役所の民生課に勤務していました。名前ですか、そんなものはここではどうでもいいものですよ。家族?残念ながら縁がなくてね、この年で独身なんです。
そんな生活の中で楽しみと言えば、テレビのサスペンスドラマと好きな球団の勝った記事が載ってるスポーツ新聞、それとあいつぐらいでしたなぁ。この世界へ来たぐらいだからあなたもそうだったんでしょう?やっぱりね。
あなたは何をなさってたんです?ああ、学生さんですか。人生も半ばを過ぎた私ならともかく、まだまだお若いのに・・・お気の毒です。
えーっと、どこまで話しましたっけ?ああ、娯楽までですか。年をとるとどうも物覚えが悪くて・・・。そう、あいつは私を非常に楽しませてくれました。腹の立った時にはなだめてくれましたし、悲しい時にはなぐさめてくれ、嬉しい時には更に喜ばせてもくれました。でもどうやら、そうこうしているうちにあいつの虜になってたみたいですね。朝出かける前に眺め、晩帰って来てから眺め、寝る前にもう一度眺め、一日に三度あいつを眺めるのが日課になってました。そう考えてみるとどうです、確かに私達をここへ追いやった張本人ではあるけれども、なんとなく懐かしく親しみがわいてくるでしょう。え、全然だ?まあ昨日来たばかりではね・・・・でもそのうちにそう思う様になりますよ。私を含め、ここにいる全員がそうなんですから。
しかし、とにかくあいつは素晴らしかった。その都度変わる白黒の模様は山々の様にも砂丘の様にも、更には霧深い谷の様にも見え、しかも同じ形をしたものはただの一つもない!気泡と砂を使った大きく、そして静かな脈動感、刻々と変化する風景、砂を使った最高の人工風景でしたよ。そういう意味ではあいつは正に名前の通りのものでした。

 ん?また砂が降ってきたようですよ。ここでは当たり前の事でしてね。生き埋めにならないかって?大丈夫ですよ。私もここへ来た当初はそう思ったんですが、不思議な事に常に地面の上に立っていることが出来て、決して埋まることはないんです。どうやら砂の奴は我々の体をすり抜けるみたいでしてね。まあ気味悪がるのも無理はありませんが・・・そう、すぐに慣れますよ。
話の続きをしようって?そうですね、確かいつもあいつを眺めていたところまででしたね。どうも最近物忘れがひどくて・・・。まあ、そうこうしているうちに、私は三日間程出張に出かける事になりまして・・・ええ、そうなんです。行きがけにいつも通りあいつを眺め、「行って来るよ」と声をかけてから出かけたんですが・・・・・結局その日は帰らない、そして次の日も帰って来ない。おそらく見捨てられたと思ったんでしょうね。無事仕事を終えて家に帰ってみると、あなたもわかるでしょう、ドアを開けると中は一面灰色なんです。恐る恐る入ってみると、何やら一つだけ光っているものがある。そう、よく見るとあいつだったんです。何というか、私を恨むような感じでじぃーっと見ているみたいなんです。一応いつも通り「ただいま」と声をかけても変化はなし。薄気味悪くなって思わず声をあげかけた途端、そう!そうですよ、足下がいきなり消えてしまったみたいに・・・気が付いたらこの世界でした。おそらくあいつの世界に取り込まれてしまったんでしょうね。それからは・・・・・そうですね、別に言う必要もないでしょう。あなたもこれから経験するんですから・・・・・。

 ここから出ることは出来ないかって?さあ、今まで出て行けた人は一人もいないと思いますよ。でもね、時々行方不明になる人がいるらしいんですよ。結構古参の人達らしいんですがね。
その話が出ると皆は、怒りがおさまったので帰してもらったんだと希望を持ちますがね、中には単にこの世界は広いからどこかで彷徨っているんだって言う人もいましてね。ここでは腹も減らないから死んじゃあいないでしょうが。しかしその中でもね、ほら、あそこに座っているあの男。彼に言わせりゃ、一定期間この世界にいた人間は砂雨の時に砂に同化するんだってことです。この世界へ来る事はそれ自体、今までいた世界からの片道切符で、ここに来てしまえば残りの人生なんて・・・・・はっきり言えば死か消滅への片道切符らしいですよ。
でもね、人間てのは希望を持ちたがるもので、彼はかなりの反感をかってますよ。あなたもですか?まあまあ、そう怒らないで、何と言っても別に証拠はありませんし・・・。

 この辺で私の話は終わりです。さあ、今度はあなたの話を・・・そうですか、まだ話したくありませんか。ま、いいでしょう。そのうち聞かせて下さい。

おやぁ、それはそうと、あなたの後輩がもうやって来たようですよ。さあ皆さん!次は誰が身の上話をしますか?え?楽しみは後にとっておきたいって?そうですか、結局は一緒なのになあ。それでは私からしましょうか。何しろここでは唯一の娯楽なんですから・・・・・・・
 

ケサランパサラン

そいつは不思議なものの様に僕の目には映った。白くてふわふわした毛玉の様なもの。小さくて手の平の上で転げ回る不思議なもの。人知れず、どのようにかして仲間を増やすもの。何を食べているのかは誰も知らない、どういった行動を行うかも全くわからない、全てが謎に包まれている生き物の様な奴。
(おなかがすかないのかな?)
(喉は乾かないのかな?)
(一日中じっとしてて、退屈しないかな?)
子どもながらにそんな事を考えていた様な記憶が、十数年経った今でも残っている。
当時はだまテレビゲームやファミコンなんて気の効いたものはなく、子ども達は自分で自分の好奇心を満たすものを求めては満足するという生活を送っていた。
―純真な子ども―そういった形容があてはまるかも知れない。しかし、僕自身がそうだったかどうかは、肯定するのははばかれるし、否定する程捨ててはいないために、何とも言い様がない。
とにかくそいつは不思議な奴だった。そいつは初めて知ったのは、おそらく何かのテレビ番組だったと思う。どうやら友達も皆、その番組を見ていたらしく、翌日にはそいつの話題でクラスは持ち切りになり、その後しばらくは僕達の話題のナンバーワンだったと思う。
はや
さらに、不思議なもの、訳のわからないものだったそいつを使った言葉遊びも流行った。
”全然ケサランパサランや”
意味がわからない時にこの言葉を使ったのはおそらく母親だったのだと思う。
そうそいつは”ケサランパサラン”と呼ばれていた。

朝午前八時三十八分、角のコンビニエンスストアを横目に見ながらそこを曲がると、僕の通うS大が見えてくる。冬のさなかで吐く息が白い中を、僕はいつも自転車で通学する事にしている。家からの距離を考えると、昨今の学生ならばまずバス通学を選ぶであろう距離であるが、
「バス賃がもったいない。」
という貧乏根性丸出しの言葉一つで、その可能性を一蹴してしまった僕は、毎朝少々古ぼけてキコキコと軋む音をたてながら走る自転車を漕いでいる。
(そろそろ油を差さなきゃいけないな。)
そんな事をぼんやりと考えながら正門をくぐると、左に曲がってすぐの所にある自転車置き場に駐輪する。はずした鍵を投げ上げては手で受け止めして、弄びながら学部の研究室へ向かう。
(今日は午前中だけだったな。)
そう思うと早く帰れるという思いで心が軽くなる。こんな日だと授業なんぞサボって、(特に今日の様に天気の良い日だと)どこかに遊びに行く(彼又は彼女と一緒に)という学生の多い近頃では、一般に学生というのは暇な職業だと思われがちである。が、実際はというとそうでない学生もいる訳で、かく言う僕も後者の”貧乏暇なし”を絵に描いて額縁をつけた様な男だと、よく悪友達に言われる。という訳だから世の学生諸君、あまり悪い噂をたてない様にお願いしたい。

研究室に顔を出し、”帰宅”という欄にかかっていた自分の名札を”講義中”の欄に移し、教授はまだ来ていない時間のはずなので、卒論のために徹夜を敢行したらしい勇敢な四回生に、
「おはよう」
とあいさつをすると、そのまま講義室に向かった。今日の一コマ目は”遺伝子学”のはずだ。
ロッカーから”遺伝子学”の教科書を取り出すと、研究室の真向かいにある講義室へと足を運ぶ。するとすでに悪友が二人程姿を見せていた。どうやら僕を待っていたらしい。
「よお京二、お前まだ例の装置造ってんだって?」
「そうそう、良美嬢『最近全然自分の方を向いてくれないの』って怒ってたぞ。」
良美というのは僕が現在つきあっている娘で、活発だがその分口もうるさいという女性だった。フルネームは安岡良美といい、目の前にいる二人の悪友、尾崎信彦・山本秀勝の両人に言わせれば、
「お前にゃもったいないぐらいの美人」
なのだそうだ。
だが、良美本人はというと、その様な意識は別に持っておらず、むしろ、そんな彼女のさっぱりとした性格が僕は好きだった。
何かに対してこだわる訳でもなく、自分の長所を自慢したりはせず、終始控え目でいてそれで別の意味で活発な娘、そんな彼女は陰気な僕となぜか気が合い、僕も彼女もお互いに、相手のそんな所が好きなのだと言う。確かに周囲の人間にしてみれば僕ら二人は何かと目立ち、奇異な人間に映るらしい。

一コマ終了のチャイムが鳴った。僕も隣りの講義室で受けていた悪友二人もこれからそれぞれの研究室においてゼミとなる。僕ら三人はS大の大学院生で、共に大学いや、高校からのくされ縁だった。元々はと言えば理系志望のコンピューター好きが集まってワイワイやっていたのが最初だから、全員が根暗の様に思われがちだが別段そういう訳でもないとは言え、妙な情熱の持ち主であった事は間違いないので、院まで不思議と縁があった訳だが、僕は理学部生物学科で遺伝子研究室に入り、あとの二人は工学部電子工学科であった。他にも――不幸な事に――高校からのくされ縁の者は数人いるのだが、今日は”サボった”らしい。もっとも、ゼミにはいくらなんでも出席しているだろうが。
悪友と後程一緒に昼飯を食う約束をしてから別れると、我が愛すべき教官、赤沢平八郎教授はすでに研究室にいらっしゃっていた。大変貴重な昭和元年生まれにして、頑固・厳格・質素という戦前教育の影響から来る三本柱に、度を超した現実主義というもう一本の柱を加えて、我々は”元帥殿の性格四天王”と呼びならわしている。ちなみに元帥というのは「東郷平八郎旧帝国海軍元帥」と同じ名前であることに由来する。過去「元帥殿」の単位を取得するために涙を流した学生の数は数知れぬと言われる。
「おい川田、お前まだ例の機械を造っているのか?」
「はい。」
我が元帥殿は僕の造っている物に大変興味を持っていた。もちろん彼は現実主義者であるため、その興味は悪い方向にではあったが。
「いいか川田、お前の言ってるそんな機械は絶対にできっこない。少なくとも現在の技術ではな。悪い事は言わん、そんな機械の事なんぞすっぱり忘れて専門の研究に打ち込め。その方がお前の能力を生かせること確実だ、な。」
「ありがとうございます。」
僕は心からそう思い、その思いをそのまま言葉とした。だが、僕の考えはいかなる言葉でも変えることが出来なかった。
「ありがとうございます。でも折角ここまでやってきたんです。あと少しだけ頑張らせて下さい、もうすぐ完成するんです。」
しばらくの間、教授と睨み合った。そして後、おもむろに溜め息をついた。
「そうか、仕方がない。それまで言うならもう少しだけ待ってやろう。だが、自分に納得がいったら研究に打ち込むんだぞ。もちろん今まで以上にだ。」
(すみません、先生)
僕は教授の不機嫌な声を聞きながらそう思っていた。教授に対して悪い事をしているのは十分わかっていた。何しろ専門の研究そっちのけで、学校で暇な時には工学部の講義を聴き、研究室へおじゃまし、家に帰れば一日中飽きもせず装置を組み立てているのだから。
(デートの一回もまともにしてないもんな。これじゃ良美も怒る訳だ。)
横では赤沢教授が、
「ゼミを始めるぞ。」
の一声と共に、今日の発表者の確認と参考資料の配布を始めた。その面倒見のいい教授を尻目にして研究室を後にした。しかし、必修のゼミを見逃してくれるのは、僕の書くレポートが他学生のそれよりも群を抜いて評価される程のものだからである。もっとも、自分はそうは思ってはいないが。
そう、一度たりとも自慢した事は過去なかった。そえが一体どうしたというのだ?確かに僕のレポートは素晴らしいという批評を受けている。成程そうかも知れないが、単に消費活動であるにすぎず、別に何かを生産して社会の役に立っている訳ではない。あんなレポート一つよりも、町工場で造られるソケット一個の方がよほど値打ちがあるだろう。
そんな僕の考え方を”素直じゃない”と言う者が多い。では尋ねるが”素直”とは一体何なのか?いや、やめておこう。こんな事を議論しても得るものはないであろうから。

午前中を工学部の研究室を荒らしまわって過ごし、昼御飯を近くの喫茶店で終えて、電気関係の店でICチップなどをいくらか買った後真っ直ぐに家へ帰り、”研究室”と名付けた一室
で仕事の続きを始めた。
まず昨日までに配線の終わっている場所を確認し、配線途中及びこれから配線を接続する箇所を確認する。その後、白衣を着た上で帽子とマスクをつけ、ピンセットで作業を始める。最初のうちは慣れず、さらに一番の難関がすぐに控えていて大変だったが、今ではもう面倒な所は全く残っておらず、目をつぶってでも出来る程のものしかない。とはいえ、細かい作業であることには違いはないため、大体三十分に一回は目を休めないといけない。そして目を休め終わったらもう一度作業に取りかかる。
こうして、たった一人の肉親である妹―早苗―が作ってくれる晩御飯と風呂に入る時間を除いては、日によっては夜中三時ぐらいまで作業を続ける。そしてその間に学校へ行き、数本のレポートを書きあげる。それがもうここ数年の日課となっていた。
僕が作っているのは高性能のコンピューターだった。これまでにない大容量のメモリー、少々複雑な問題でも瞬間的に答えを出せるぐらいの演算速度、その他大きな解析能力など、数多くのものを僕はこいつに要求していた。従って従来の方式ではスピードが全くお話にもならない程遅く、仕方なしに一から全てを設計する事になってしまった。
作り始めた当初はそれでもこんな事になるとは露とも思わず、お陰でこの事に気付くまでに高価なコンピューターを数台無駄にしてしまった。今さらながらに勿体ない事をしたと思う。
一旦手を休めて瞼を閉じて目を押さえる。しばらくの間そのままの姿勢でじっとしておいて、目の疲れがとれたところで机の引き出しを開けた。いくつか箱が入っているその中から少し大きめのものを取り出すと蓋を開ける。すると中に白くフワフワしたものが三つ程入っていた。
「おや、また一匹増えたな。」
僕は一人ごちた。そう、それは正に”ケサランパサラン”だった。
僕がこいつを見つけたのは一年程前の事である。ある日タンスを整理していた時、端っこの方でシャツとシャツの間にはさまっていたそいつを偶然見つけたのである。最初は何かわからず、一度はゴミ箱に捨てようとしたのだが、その何かしら心細そうなものが一瞬何かを囁きかけて来た様な気がしてずっと大切にしまっておいたのである。もっともしばらくの間、そのまま忘れてしまっていたが。
次に見たのは6ヶ月後だった。この時もほんのたまたま開けてみたところを見つけた訳で、大きいのが一つに、子どもの様に小さいのが一つ。この時僕は昔テレビで見た”ケサランパサラン”という生き物を思い出した。
「あんなものは嘘っぱちだ。」
つい先日まで事あるごとにそう言っていたそいつが僕の目の前に出現したのである。
しばらく呆然と立ち尽くしていたのを思い出し、自分でもつくづく情けない事をしたものだと、くすっと笑った。今では毎日の様にそいつの姿を見ることにしているが、どうやらこいつは僕がしばらく見ていないうちに仲間を増やすらしい。
「お前な、たまには俺の目の前で分裂しような。ちょっと愛想が足りないぞ。」
少し笑いながらそう言うと、白いフワフワを手の平にのせて弄ぶように転がしてみると、やわらかくて気持ちの良い手ざわりが手の上に広がった。
僕は再びそいつを箱に戻し、机の上に置くと、作業を開始した。今日のノルマを果たすまではあとまだ5時間ぐらいはかかる計算になっていた。

「ねえ、少しは時間をあけてくれてもいいんじゃない?あまりにも冷たすぎるわよ。」
良美はそう言った。月に一度のデート、映画を見終えてから入った喫茶店である。
「そうかな、これでも結構気を使っているつもりなんだけど。」
「よく言うわ。電話をかけても『今は忙しいから後で』の一言でしょう。学校でだって一緒に帰ったことなんてここしばらくないし、大体今日のデートだってしぶしぶだったじゃない。いくら忙しくてもね、女の子にはもう少し気を使ってもきっとバチは当たらないと思うわよ。」
「成程ね・・・・」
彼女は文句の多い女性ではなかったが、ここしばらくの僕の行動にはいい加減腹が立ってきたらしい。ここまで言わせてしまった事を反省しながらも、今日帰ってから行う作業の手順が気になるのは、仕事が佳境に入り、もうすぐ完成するという意気込みからである事に間違いないだろう。
「悪い事をしているとは思っているんだ。でもね、もうすぐ完成するんだ。もう少しだけ、ほんのもう少しだけ待ってくれないかな?」
「もうここ二ヶ月の間ずっと同じ事をきいているわ。そんなにそれ、大切なものなの?」
「うん・・・」
気まずい沈黙が二人の周囲を取り囲んだ。長い間わがままを僕が言ってきた故の沈黙なので、僕の方から打ち破らなければならないのだが、いざとなるとね・・・・
(人間てのは全くうまく出来てるよな。)
「まあいいわ、今日のところは許してあげる。でもね、来月からは駄目よ。もうその頃には完成してるとは思うけど、いい加減こっちを振り向いてくれなきゃ愛想尽かしちゃうからね。」
「ああ、もちろんだよ。愛想尽かされちゃ、こっちもかなわない。」
肩をすくめておどけた素振りで言うと、この言葉が意外とうけた。さほど広くはない喫茶店の中に、二人のプッと吹き出した笑い声が響いた。寛大な彼女に感謝!

「お兄ちゃん、晩御飯出来たわよ!」
コンコンというノックの音に続いて聞こえた早苗の声に、
「今行く。」
という返事を返す。
五年前に両親を亡くしてからというもの、家事一切は皆妹が取りしきっていた。とは言っても妹も今や大学生、講義もあるため、家事は講義のない日か休講になった時に行うこととなる。そういう意味においては、何もしていない僕は非常に情けない限りだが、そのお陰で何から何までやらされる妹は将来いい嫁になれそうである。
僕はうきうきした気分で食事をしている。今まではいつできあがるかわからない装置のあがり具合にやきもきさせられたものだったが、それも今日で終わりだ。遂に完成だ!
早苗もそうやらこの気配を僕の感じから受け取ったようだった。
「良かったわね、兄さん。」
その一言を始めとして今日大学であったこと、最近の愉快な出来事を面白おかしくアレンジして聞かせてくれた。僕もその話にずっと聞き入っていた。ここしばらく世の中の動きに対してかなり鈍感になっていた僕には、そのうちの大半が耳新しいものだった。
(そうか、レーガンも遂に退陣か・・・)
(内閣の汚職?そんなのあったのか・・・)
(etc、etc・・・)
政治的な話題の他にも楽しい話もあり、久し振りに心の底から笑う事が出来た。こういったなごやかな雰囲気の食事は数ヶ月振りだったろう。

「なあケサパサ、遂に完成したぞ。僕はうれしいよ。そうか、お前も喜んでくれるのか、じゃあ一緒にこいつの働き振りを見ような。」
ケサランパサランのフワフワした毛の揺れ具合を喜んでくれているものと解釈して僕は言った。
ところがそこで一つ、ふと思いついた事があった。
(一、二、・・・おや、二匹しかいない。前に見た時は確か三匹いたはずだ。もう一匹はどこへ行った?)
僕はうろたえて、その付近を探しまわった。机の上をひっかきまわし、机を始めとする家具類の下をかがみ込んではのぞき込み、挙げ句の果てには引き出しの中さえもひっかき回してみた。そんな事はかれこれ三十分も続けたろうか。とうとう残りの一匹は見つける事が出来なかった。
「仕方がないな。なあお前たち、あとで残りの仲間にもどんな風だったか教えてやれよ、な?」
そう言うと電源のスイッチをONにし、これも苦労の結晶のディスクをセットする。プレシグナルが出て来た時点で、前々から準備していた問題をキーボードを使って打ち込む。
しばらくするとカタッカタッという柱時計の振り子の様な作動音がし、それが止むと同時に答えが表示された。その結果はそのままプリンターで打ち出される。
こんな事を十回程も繰り返しただろうか。もちろん段階を追って徐々に複雑な問題に変えていき、少なくとも今までのところは、それをパーフェクトにこなして来ている。まずは申し分ない処理演算能力を持っているという事が出来るだろう。
(頼もしい奴だ。こいつならいけるだろうな、十分に。)
そんな期待とも自信とも言えるものが湧いてきた。残る問題はあと一問だけ。こいつの解が得られれば、世界中を
”アッ!”
と言わせる事が出来るはずだ。
それは僕自身が考え出したもので、自分では”進化方程式”と呼びならわしていた。こいつをコンピューターに見つけさせ、特殊解を、いやゆくゆくは一般解を求めさせてやろうというものだった。
この方程式を使えば生物のこれからの進化過程の推測を示す事が出来るというしろ物だった。
もちろん教授は反対していた。”その様な解が存在するとは到底思えない”というのがその主張の根拠だった。だが僕はその考えにとりつかれていたのだろう。もしこいつが発表されれば生物学界だけでなく、世界中に大きな波紋を投げかけ、なおかつこいつの恩恵で遺伝子工学もかなりの発展を遂げ、おそらくは難病といわれていた病気のワクチンも続々と完成するだろうと見込んでいた。
かと言って地位や名誉を欲する気持ちはあまりない。これは嘘偽りのない気持ちである。皆が幸せに、生活に困る人がなくなればいい、そう思っての事だけだ。例えばボランティア活動をしている人々が今大勢いるが、彼らは地位や名誉とは言わないまでも、何かそういう、人間の俗物的な面の物を手に入れるためにやっているだろうか?否、そんなもののためにではないはずだ。その力の源となっているのは他人を思いやるいたわりの心であると思う。もしかしたらキリストもそんな人物の一人だったのかも知れない。
「なあケサパサ、俺の成功を一緒に祈ってくれ。」
そんな事を言いながら、コンピューターにデータを次々と打ち込んでゆく。現在までに解析されている遺伝子構造にその他のものを系統立てたものである。その生物の特徴なんていうのもデータの中には入っている。もっとも個体差を消すために一種当たり複数の個体分を打ち込むので相当なデータ量となる。並のコンピューターなら一発でメモリーがパンクするであろうその量を、しかしこいつは全て順調に受け入れて記録していっている。
やがてデータの打ち込みが終了した。すでに夜は明けていて、午前六時を三分程経過していた。どうやらデータの打ち込み作業に没頭している間に夜が明けていたらしい。心なしかケサランパサランも眠たそうに見える。
「おいケサパサ、起きろ!これからこいつを動かすぞ。」
ケサランパサランが身震いした様な気がした。もちろん目の錯覚だという事はわかっているが、何かしらこいつには人間臭いところがあり、僕は生き物の様にかわいく見えて、仕方ないのだ。
だが今日のケサランパサランは何かに怯えているように思えてならなかった。それが何に対してかはわからなかったが。そんなそいつの姿を見ていると、僕の方も何かしら訳のわからない不安にかられた。僕の頭の中に”崩壊するコンピューター”という最悪の事態が浮かんだ。
(いや、そんな事があるものか。こいつは僕が3年かけて造ったんだ、そんな簡単におかしくなるものじゃあない。)
そう自分に言いきかせると、演算開始の命令をキーボードで入力した。
カタッカタッカタッ・・・
今までと同じ様に小さな作動音が伝わってくる。しかし今度は今までの様にすぐに答えは出て来なかった。データの量や計算の困難さを考えると当然といえば当然な事だ。こいつは今、過去に誰一人としてやったことのない大規模な問題の解を求めているのだ。そして当面の間は、この問題を解かせるために作ったコンピューターなのだ。
五分経ち、十分経ち、やがて三十分経った。間もなく7時になる。そうすれば妹が起き出して朝食を作り出すだろう。そんな事を頭のすみで考えながら見ていたのだが、そのうちに何やら妙な臭いがしてきた。最初は気にならなかったが、しばらくしてその正体に思い至った。
(ビニールコードの溶ける臭いだ!)
僕は大急ぎで演算を中止させ、一時待機を入力して後、一気に本体のフタを開けて配線を調べてみた。
「あった!」
そこはどうしても光ファイバーを使う事の出来ない場所だった。故に、仕方なしに一般の銅線を何重にもして使っていたのだが、どうやら過負荷に耐えられず、オーバーヒートを起こしたらしい。
「ん?」
ふと何かが気になってよくのぞき込んでみると、そこには少し毛のコゲたケサランパサランが一匹いた。振り返って箱の中を見ていると先程の二匹はまだそこにいる。ということは・・・・・・・
「なんだお前、そんなところにいたのか。」
ホッとしてその一言だけを口に出すと、一旦コンピューターの電源をOFFにし、そいつを指でつまんで引っぱり出した。
「心配かけたらだめだろう。しかしまあ、一体どうやってこの中にもぐり込んだんだ?」
僕はそう言ってケサランパサランをつつくと、まるでダルマの様に一度向こう側に傾いたかと思うと、次はこちらに身をすり寄せてきた。
「プフッ、やっぱりお前達はかわいいなあ。そらっ、仲間のいる所へお帰り。もう勝手に転げ出ちゃダメだぞ。」
箱の中をころころと転がるそいつの姿は滑稽でもあり、しばしそいつらに見とれていたが、重要な問題を無視する訳にはいかなかった。
「さてと、銅線では間に合わなかったか。一体何を伝導体に使えばいいのやら。」
階下から妹の呼ぶ声が聞こえた。どうやら朝食が出来たらしい。

翌日、研究室で待っていたのは教授の辛辣な一言だった。
「それ見た事か。だからそんなものは作れんと言っただろうが。人の忠告の意味をもっと深く考えないからそんな事になるんだ。」
今日の教授は機嫌が悪かった様だ。研究室の人間は誰一人として近づこうとはしない。皆が皆、目をそらしたり、わざと知らんぷりをしたり、さも忙しそうに振る舞ったりして、関わり合いにならない様にとしている。
「どうだ、これで目が覚めただろう。だからだ、目が覚めた今の時点で自分の本職へ戻れ。」
「いいえ、教授、お言葉ですが僕はまだ失敗してはいません。あの部分、あの部分さえ何か別の物に取り換えさえすればいいんです。教授、何か伝導率のいい物質を知りませんか?」
その言葉を聞いた教授の顔が真っ赤になり、その後続いて青く、いやどす黒くなるのを僕は目撃した。
(テレビアニメでよくやってるあれは、嘘じゃないんだな。)
そういう妙な所に感心していると、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、いきなり大声で怒鳴り始めた。
「いい加減にしろ川田!伝導物質だと?そんなものこの儂が知っている訳がなかろう!いいか、お前は一体何の研究者だ?」
「生物の遺伝子です。」
僕はやわらかに答えてみせた。
「そう、その通りだ。生物の研究者なんだよ、お前も、そしてこの儂もだ。それが何故コンピューターを作らにゃならん?」
「それは・・・・・」
僕は唇をかんで口ごもった。どうも僕の方が旗色が悪い。
「お前の言う”汎進化方程式”とかいうもののためか?前にも言ったはずだ、そんなものは存在しない。いや、存在するはずがない。理由は言わなくてもわかるだろう。そろそろ本当に目を覚ませ。」
「しかし・・・」
「しかしもへったくれもない。大体お前の好き勝手を認めているのは何故だと思う?お前の書く論文があまりにも優秀だからだ。しかしな川田、それも度を越せばそれまでだ。ここで白黒をはっきりさせろ。研究室に戻るか否かだ。もし戻ればそれでよし、そうでなければこちらにも考えがある。さあ、どっちだ!」
僕と教授はしばし睨み合った。教授の顔をじっと見ていて気の付いた事だが、怒りの中にすでにあきらめの心が見え隠れしていた。おそらく僕の返事の内容には、もう見当がついているのだろう。
「・・・・・残念ですが教授、僕はあきらめ切れません。許して下さい。」
「・・・・・・・・・・」
教授は黙っていた。しばしの間僕を睨みつけた後、気がすんだという風にがっくりと肩を落として疲れた様にこう言った。
「川田、本当に、お前本当に後悔しないんだな?それでいいんだな?」
「・・・はい。」
僕は少しためらってからそう答えた。教授の姿を見て心が揺らいだからであるが、この返事を聴いた教授は怒鳴った。
「そうか、残念だがやむを得まい。川田京二、お前は破門だ!卒業だけはさせてやるが、その後は二度とここへは顔を出すな!いいな、川田!」
だがその声にはもう先刻までの迫力はなかった。教授はそのまま顔を背けて僕に背を向けたが、僕はその姿に気の毒な感じを覚えた。
「失礼しました。」
その声と共に退室した僕はすでに教授に言った言葉などすでに忘れて後悔を始めていた。その時の教授の顔には――おそらくは僕の才能を惜しんでであろうが――涙がにじんでいた。僕の才能を一番認めていたが故に破門せざるを得なかったその気持ちを思んばかると少し心が重かった。

「こいつもう治ってやがる!」
家に帰った僕は心の底から真剣に驚いた。あれだけ毛のこげていたケサランパサランが、もう元通りに戻っているのを発見したのだ。
「昨日の今日でよくもまあ。」
僕の驚きは時間と共に感嘆の思いにとってかわり、そして大きな興味へと発展した。
(こいつ、一体どんな遺伝子構造を持ってるんだろう?)
僕の疑問は生物をやっていないものでもきっと持つと思う。たった一日程でケガの治る人間を、あなたは見た事がありますか?人間でなくとも動物でも良いのですが。
つまりはこうである。人間やその他の動物、植物にもそんな種族はまだ発見されていないはずだ。マンガの世界でを除けばではあるが・・・・・。
(こいつの遺伝子構造を解析する。)
この事は僕の心を大きく惹きつけた。何かしら、こいつを知る事が、僕の夢に大きく近づくための道しるべになる様な気がしたのだ。
僕は以前よりも一層研究に打ち込んだ。ただでさえ見えづらかった周囲の出来事がほぼ完全にみえなくなった。今の僕はもう”研究の亡者”という形容が一番ふさわしく思える様になっていた。あのやさしい早苗までが僕を恐れているかの様だった。
何度か良美から電話がかかって来ていたのは知っていたが、忙しいという理由だけで取りあわなかった。そしてそんなある日、ついに彼女は怒りの電話をかけて来た。だが、その日の僕はやはり何も聞いてはいなかったのだ。
「ちょっと、聴いてるの?」
「え?ああ、もちろんだよ。」
「いい、次の日曜日は絶対に家に来るのよ!わかった?」
「ああ、わかった。で、次の日曜日って何があるんだ?」
一瞬沈黙が支配した。しかし受話器越しに伝わってくる凶悪な雰囲気からして、彼女が相当怒っているであろう事が伺えた。
「あなたね、次の日曜は私の誕生日でしょ!バースディよ、バースデー!恋人の誕生日も忘れてしまってるの!」
そう言われてみればそうかも知れなかった。だが、曜日はおろか、日付けすらすでにわからなくなっている僕にはそんな話はピンと来ず、ただ単に何も仕事をせずに過ごしている今のこの時間を惜しむ気持ちしかなかった。
「そう言われてみればそうだったかな?」
不用意にも僕はそう言ってしまった。それが失敗だったのは、ほんの〇・一秒後にわかった。「あなたって人はそんな薄情な・・・・恋人の誕生日も忘れる程薄情なんだったのね。もういいわ、あなたなんか知らない!これでお別れよ、さようなら!」

気が付いた時には、切れた受話器を耳を押しあてたまま、ボーッとつっ立っていた。何も覚えていないその状態で一体何分間つっ立っていたのだろうか?僕はそれを本体の上にのろのろと置くと、そのままのろのろとした状態のまま階段を上り始めた。
最近二つ目の大きな打撃だった。この二つは意識してはいなかったが、かなり効いた。頭の中がボンヤリしていて、何も考える事が出来ない。考えようとする気力さえ失っていた。
(教授には破門され、良美には離縁され、一体このしばらくの間僕は何をしていたのだろう?)
ありとあらゆる神々を呪いたかった。もしいたらの話だが。
部屋に入ってドアを閉め、ディスプレイに目をやると、ケサランパサランの遺伝子構造解析結果が現れていた。それがもし目に映らなければ、本当に大声で神々に対して呪いの言葉を吐いていたかも知れない。
「こ、これは・・・・」
僕は絶句した。それはとんでもない結果を示していた。
「こいつは・・・地球上のいかなる生物の遺伝子とも異なっている。バカな、それじゃあ全く違った発生をし、違った進化をしたというのか?それとも地球外から持ち込まれたのか?」
そしてもう一つ、恐ろしい事を示す数行の文をディスプレイの中に見いだす事が出来た。
「この構造はもしかしたら伝導体になり得るんじゃないか?それじゃあ、こいつは自然が生みだしたまさしく天然の伝導体・・・」
僕は恐ろしさの中に一つの希望を見いだした。
(もしかしたらこいつをコンピューターの伝導体として使えるんじゃなかろうか?)
僕はチラッとケサランパサランを見やった。そのかわいらしいものは、そんな思いなど露知らずという風に、ぐっすりと眠っているみたいに思えた。それは平和な光景だった。

二回目の試験を行う準備が出来た。今回はすべての配線、基盤やLSI類をすべてチェックし直し、前回銅線でまかなっていた部分をケサランパサランに置き換えた。
あの日から数えてわずかに4日。最近の出来事を忘れようとして全てをかけて、全てをつぎ込んで完成させたものだった。
「もう後戻りはできないんだ。それにもうお前を除いては僕には何も残ってはいない。頼むぜ、相棒。」
僕は最後のチェックの時、ケサランパサランにそう言っていた。これ程の願いを込める事はもう一生ないだろう。
手順は前回と同じ手順を踏んで行う事にした。入力を終了したらすぐにディスプレイと並べて置いてあるモニターを見た。そこにはいろんな結線を施されたケサランパサランが映っていた。つまりはコンピューターの内部である。
今回は大丈夫だろうとは思っていたものの、やはり不安感はぬぐい切れず、内部に細工してカメラを仕込んでおいたのである。このカメラにはコンピューターとは別の配線を施し、決して故障が及ばない様にした。そのモニターに映る内部には今のところ別に異常は見つからない。

最後の問題になった。前回ついに解く事の出来なかった問題”進化方程式”を求める問題である。
僕は念を入れて内部をチェックした。
”オーバーヒートはどこにもないか?”
”配線はうまく接続されているか?”
そして
”ケサランパサランに異常はないか?”
だがすべてに異常は見られなかった。
カタッカタッ
という作動音は異常なく続いており、心の中で全てがうまく行く様に祈り・・・・
コンピューターディスプレイ上には
「現在演算実行中」
の文字と時折途中経過を表示する。現在まではうまくいっている様だ。生物ごとに発生・進化を系統づくり、一通りすんだところで今度は過去に遡って、絶滅した生物達の遺伝子を組み合わせで表示、及びプリンターによって結果は打ち出される。それらの神は机の上に、いや部屋の中に床の上といわず椅子の上といわず紙溜まりをつくっている。

プログラム実行開始後すでに半日、間もなく全ての系統樹が出来あがるはずだ。もし僕の理論が正しければ、進化方程式はあと一時間足らずで完成する。僕は興奮に胸が躍った。
(素晴らしい。このままなら大丈夫だ。演算能力は前回よりもあがっている。もうすぐだ、もうすぐ”解”が見つかるはずだ。そうすれば僕の理論が、理論の正しさが証明される。)
後に妹に聞いてみたところ、この時の僕は何かに取りつかれた様子で、恐ろしい形相をしていたらしい。それ程までに僕は陶酔しきっていた。
(まだか、まだか、いやもうすぐだ、もうすぐだ。)
はやる気持ちを押さえて、プリンターから流れ出すデータの量はいつまでたってもきりがない。もしかしたらそう思っただけかも知れないが、一体何回インクリボンを取り換えたかもう忘れてしまっていた。それでもまだ飽きる事なくデータははき出し続けられていた。もうまさしく”紙の洪水”の様相を呈していた。

いつの間にやらプリンターが止まっていた。外もいつしか夜となり、サラリーマン達が帰路を急いでいる。不思議と空腹感は感じなかった。
「熱中もそこまでいくと病気だな。」
友人達は後にそう言って笑った。
コンピューターは最後の演算に入っている様だった。それもほんの数分で止まり、遂に結果が表示される様だった。僕は思わず叫ばずにはいられなかった。
「結果は?解は見つかったんだろう?早く出せ!早く表示するんだ!」
次の瞬間、ディスプレイとモニターが同時に光った。いや、光っているのはモニターだけで、ディスプレイはその光のために見えないだけだ。
光っているのはケサランパサランだった。そいつが今、部屋中を照らし出すぐらいのまばゆい光を放っていた。何かを怒っているかの様だ。
コンピューターがカチッという音をたて、プリンターがほんの数行、動く音が聞こえた。どうやらこの異変の中でも求める答えをはき出したらしい。
やがて光がおさまった。恐る恐る目を開いてみると、コンピューターは止まっていた。ディスプレイの表示も消えている。見ると電源自体は切れていない様だから、どこかおかしくなったのかも知れない。
あれほどの光を放っていたケサランパサランは消滅していた。が、プリンターの文字は残されていた。手にして読んでみる。するとこうあった。
「自らの力で求めよ、我は全てを知り、知らない方が良かったと思った。知らない方が良い方の部類だろう。
我は姿を消す。君は君のための努力をしなさい。」

後には何も残らなかった。手の平を広げてじっと眺めやる。
「ふう。」
結局は何だったんだろうか?もはや何が何でも良かった。僕には何も残らなかった。でも一つだけわかった事があった。
「そう、全ては終わったんだ。僕はこれから全てを一からやり直さなければならない。」

廊下で妹が晩御飯が出来たことを告げていた。
 

黄昏の街に日は暮れて

 「お久し振りね。何年振りなのかしら?」
それが数年ぶりに再会した彼女の最初の言葉だった。
「さあ、二年か三年か・・・忘れちまったよ。」
実際は忘れようのない年月だが、あの日のことがあるが故にそう言わざるを得なかった。俺達は静かなクラシックと少し薄暗い照明とが独特の雰囲気をかもし出しているとあるバーのカウンタースツールに、並んで腰かけていた。活気とはかけ離れた、静けさを求めるための場所だ。
「そう・・そうね、もう過ぎたことだものね。」
そう、今もあの時も・・もう二度とこんなことはないだろうから。

 勝手知ったる地下鉄の改札を出て、ある特別な出口を通って地上へ出る。そこはなつかしく、そして見馴れた街、そう俺は数年振りに生まれ故郷であるこの街に帰って来た。何年経ったのかなんて忘れたつもりでいたが、このにおいのせいで結局は思い出してしまった。従軍中に聞いた話では、この街も何度か爆撃をうけたらしいが、その様な気配はまるでない。日が暮れればあいも変わらず車のクラクションが鳴り響き、呼び込みをする派手な格好の男達、今夜の連れを探す厚化粧の女達、警官の吹く笛、何ら変わるものはなかった。
(なつかしいな、この空気。)
俺はこの街が大好きだった。別に生まれ故郷だからというわけではない。ただ単に・・そう、土地柄というか、その土地の持つ独特の雰囲気を気に入っていたのだ。少なくとも俺をこんな気分にしてくれる場所は他には見当たらなかった。これまでいくつもの街を渡り歩いたにもかかわらずだ。もしあったのならばそこに腰を落ち着けたであろうから。そう、ただ単に見つからなかっただけのことだ。
信号が青に変わる。ざわめきあう人々が横断歩道を埋める。
「あのホロディスク買った?」
「ほんでさー、あいつったらよー・・」
「あの課長、好き放題言いやがって・!」
何世紀も前から変わらないであろう日常的な会話が交わされ続けている。今までそうだった様に、これからもそうだろう。何一つ変わることはない。世の中は「日常」という名の下に流れを止めてしまっているのだから。

 ダウンタウンに入るには古い橋を渡らなければならない。もとは名前があったのだろうが、プレートは俺が子どもの時分にはとうに風化してしまっていて、今では何という名の橋だったのか知る者は誰一人としていない。忘れられてもう何世紀もの時がたつのかも知れない。
通称「別れ橋」
この橋から二本目の道を左に折れて二~三分歩くと見慣れた光景に出会うことが出来る。数年振りに見る街並、俺の生まれ育った街、仲間達と走り回った街角、恋人と語り合った赤レンガ造りの階段、そしてライバルと議論を交わした街灯の下etc・・それら全てが走馬燈であるかの様だ。いや、この街、俺の街そのものが巨大な走馬燈なのだ。
(連中は元気なのだろうか?)
(あの娘は今、どうしているのだろうか?)
(頑張り屋のあいつ、博士号を取ると言ってたっけ。)
いろいろな想いが胸に満ちてくる。昔のなつかしい記憶、そして一番楽しかった時の記憶。今の俺は傷つき疲れ果てた心をひきずっているだけのしがない犬っころ。あの頃の夢は何処へ行ってしまったのだろう?あいつと語り合った俺の夢は?あの娘に得意気に話した俺の未来は?
(もうどうでもいい事だ。)
最近になってからはそう思えるようになってきていた。
(今さら人生を変えることなんて出来やしない。俺は最初の段階で間違ってしまったのだ。後はその間違ってしまった道、いや川をただされるがままに流されて行くだけ・・・。)

 彼女と会ったのは偶然だった。あの時俺が立ち止まらなければ彼女とは行き違いになっていただろう。
そこは俺の生まれた家だった。その事実は俺が立ち止まってしげしげと眺めるには十分だったし、誰しもがそうする当然の行為だったろう。
買い物の帰りらしい彼女――俺の幼なじみで、いつでもどこでも俺と一緒だった――はパンやカンヅメのはみ出した大きな買い物袋を抱えており、俺の姿を見つけると「まあ!」とでも言い出さんばかりに目を見開いて驚いてみせた。
「少しの間、いいかな?あの店で。」
彼女は俺から目をそらすと、こくりとためらいがちに頷いた。
(変わらないのは横暴さだけだな。)
その認識がチクリと胸を刺した。

 ”あの店”こと”ヴィア ヴァイン!”はまだ時間が早いためか空いていた。ここが混雑し始めるのは真夜中を過ぎた頃で、朝方まで多くの常連客とほんの一握りの外来客とが店の雰囲気を楽しむのである。
客達は店の中に入った俺達に奇異なものを見る様な視線を一瞬投げかけ、(なぜなら、彼女は買い物袋を抱えたままだった。)そして例外なくすぐに興味を失ったかの様に目を元に戻した。
カウンターの一番端に自らの席を確保すると、とりあえず再会を祝するための酒を注文した。その間、いやここまで来る間、彼女は一言も喋らなかった。というよりかは喋ってくれなかったと言うべきかも知れない。一体何を不満に思っているのだろうか。一体何がわだかまっているというのだろうか。俺の中に何かしら”焦り”に似たものが増加していくのがわかった。
(不満なら)
俺はいらだちの中でそう思った。俺には覚えがある。あの日、必死になって止める彼女を結果的には振り切り、しまいには一言もなしに姿を消したのだから当然とも言えるだろう。もしかしたらその事を責めて欲しかったのかも知れない。この焦りに似たもやもやも、もしかしたらそのことで解消するのかも知れなかった。かと言ってそれを強要する様な資格が俺にあるだろうか?
(不満ならさっさと吐き出せばいい。わだかまりなら水に流せばいい。ただそれだけのことではないか。)
彼女が何を考えているのかは全然わからなかった。祝杯が運ばれて来た時、あまりの長い沈黙に堪え切れず、思い切って自ら切り出した。こうする以外どうすることも出来ないと判断したからである。
「元気そうで良かった。空襲が何度かあったとニュースで聞いていたし、心配してたんだ。」
彼女の表情が微かだが変化したようだった。今までぴたりとくっついていて、一言も発さなかった口も何かしらの言葉を紡ぎ出す兆候を見せている。だがそれも妙にさびしそうなものだった。
「そうね、お久し振りね。何年振りなのかしら?」
「さあ、二年か三年か・・・忘れちまったよ。」
彼女の声、久し振りに聞く彼女の声の(たとえその内容がどうであったにせよ)なんとなつかしいことか!
「そう・・そうね、もう過ぎたことだものね。」
だが俺とて、いつまでも熱くなっている歳ではない。彼女の雰囲気からこの科白が出てくるこ
とは最初からわかっていたはずだが、そう、なんとなく聞いてみただけなのだ。
再び沈黙が訪れた。形容するにふさわしい言葉の見つからない、不思議な沈黙だった。”一度も誰も望みはしない沈黙”
おそらくは世界で一番迷惑な沈黙。

 そんな間でも店の入り口が開き、数人の客が入ってくる。
ギィー、バタン!コツコツコツ
スッ、カツッetc・・・・
いろんな種類の音が、ゆったりとしたクラシック音楽が流れるだけの静かな店内に一種不釣り合いな音を提供し、わずかな時間、この空間の性質を少しだけ変えた。そして再び同じ音達の連続。
時計を見ると、店に入ってからさでに一時間半以上経過していた。妙に時間の経つのが遅いような感じがしたが、別にとりたてて気にはならなかった。何かを待っている訳でもなく、かと言って何かしなければいけない訳でもなし・・。戦場で、待つことには馴れてしまっていたが、――なにしろ、いつ来るかわからない補給と援軍を敵の包囲網の中で待ち続けたりしたのだから――俺は別段どうということはないのだが、彼女はよくもまあ、これだけの時間を気まずい沈黙の中で過ごせるものだ。
三度目のドアが開く音が響き渡り、四人の男が入ってきた。そいつらは俺達の沈黙をあっさりとやぶってくれた。俺の破れなかった沈黙を破ったのだ。結果として俺は彼らに負けたのだろう。
「よおマユミ、なんだ、今日は男連れかい?ん、おやぁマックじゃないか!久し振りだなあ。」
「エリックか!そういうお前も元気そうじゃないか。」
エリック・バーランド、俺の親友だった男。いや、今でも少なくとも俺は親友のつもりである。彼に会うと妙に心が和む。
「おいおい、俺達のことをお忘れでないかい。」
アーネスト、ウェストン、カーネル、エリックの横合いから声をかけてきた俺の親愛なる悪友たち。こいつらはいつまで経っても変わることはないだろう。
(いつまでも変わらない、か・・俺なんか一体どのくらい変わってしまったか・・・)
俺の暗い表情に反応してか、一瞬の空白が生じた。それを利用するかの様にバーテンが入り込んでくる。
「お客様方、申し訳ございませんが、当店は静かさの店ですので。」
事実、店の客らは冷たい視線を投げかけて来ていた。まるで我々のために折角の雰囲気が台無しだと言わんばかりに。実際少しはしゃぎすぎたらしい。俺達の再会の声は彼らの回顧の想いを断ち切ってしまっていたのだ。
「それからご注文は何になされますか?」
「あ?ああ悪い、スコッチをくれ。」
「はい、かしこまりました。」
俺は声を殺して笑った。エリックの声がやたらとおかしく聴こえたからである。沈着冷静なエリックにしては、やたらと上ずったその声が。
「ひでぇなあ、別に笑わなくたっていいだろう。」
怒ったような拗ねた様な不気味な声を出してみせた。かと言って実は冗談だ、などといういつものパターンかも知れないから、迂闊な事は言えない。

 酒が運ばれてくるまでの間、そして運ばれてからも、俺達は思い出話だけに花を咲かせた。俺が”今”を語りたがらなかったからで、結局のところは”今”に行きついてしまったものの、その時は「かなりわがままだな」と自分でも思ってはいた。だが、だからと言って何だと言うのだ。少しぐらいは俺の言うことをきいてもいいではないか、大体俺はこの世界の・・・

(はっ!)

俺は何を考えていたのだろう。いや、なんてことを考えたのだろう。こんなことを考えてはいけないのだ。

 「あの頃は良かったよなあ。みんなで近所にいたずらして回ったものだ。ジョンじいさんの所とかな。」
「ああ、そうだったな。よく怒られたもんだ。で、じいさんは今どうしてる?」
皆の顔が「何を言ってやがるんだ!」と言わんばかりに曇った。俺が不思議そうな顔をしていると、
「何言ってんだ。半年前お前に送った手紙に書いたじゃないか。死んじまったんだよ、肺ガンでさ。もう手遅れだったんだ。いい人だったのになあ」と。
「そうだったのか・・・」
手紙をもらった記憶はある。なのにそんな文面はどうしても思い出せなかった。そのことに関連して、何かもっと大切なことを聞いたことがある様な気がしたが、同じく思い出せなかった。何かが思い出させまいと記憶をブロックしているかのようだ。
「おいおい、記憶力が鈍ったか?」
そんなつもりはなかった。俺は昔から記憶力が良く、軍でもそれを見込まれたため、いろんなものを使わされた。それにまだボケるほどの歳ではない。
「ああ、どうやらそうらしい。」
とは答えたものの・・・

 「俺、結婚してねぇ。」
「そうなんだ。こいつ一人で抜けがけしやがったんだ。」
「そうそう、しかもかなりの美人だぜ。」
「そりゃ許せないなあ。」
薄い煙草の煙とグラスの中で揺れる氷の音。少し暗めの照明と静かに流れるクラシック。
4人が来てくれたのは非常に有難かった。次第にマユミも口を開くようになり、もうだんまりを決め込むのをやめていた。もっとも、俺に対する態度はまだ少し冷たかったが。
「まあ、マック。実は俺夢を叶えたんだぜ。」
「じゃあ院へ行ってるのか!」
「ああ、来年あたりは卒業できそうだ。もっとも、早く卒業してもらわにゃ大学の方も困るだろうけどな。」
「戦時特例法か・・・」
戦時特例法。「十五歳以上六十五歳未満の男子、及び十五歳以上五十五歳未満の女子は学生を除いては全て兵役に服する義務を持つ。大学に関しては兵器開発に関する分野以外は閉鎖し、そこの学生に関しては卒業後無条件で軍兵器開発部に入るものとする。」というとんでもない法律。そんな世の中の状況下で、よくもまあエリックは大学院まで行けたものだ!
「うん、うちの研究室が長距離航行用の新型エンジンを開発してな。それでなんとか誤魔化してね。」
「でもくやしいだろ、自分達の造ったものが兵器になるなんて。平和主義者のお前には。」
「ああ、でもいいのさ。エンジンは平和になってからも、いや平和になってから役に立つ、必ず。」

 うらやましい奴。俺と同じ夢を持ちながら、奴はかなえて研究職、俺はかなえそこねて一兵卒。たった一〇点の差でこのざまだ。あの日より前にも道は狂っていたわけだ。
「ウェストンはうまくやって結婚までしたけどね。俺は相変わらずさ。」
「全く、右に同じ。」
なつかしい仲間達の声を聴いていられるのは楽しいことだ。しかも隣にマユミがいればなおのことだ。だが、彼女は再びうつむいて、それを目敏く見つけたエリックは俺を責めた。
「お前、マユミにあやまったのか?彼女はな、お前が帰って来るのをずっと待ってたんだぞ。見合いも断わり、他の恋愛も一切せず、お前の帰りだけを待ち続けたんだぞ。」
だから?だからどうだと・・いや、あやまらなければいけない。全て俺のせいなのだから。
「いいのよ。気にしてないから。」彼女はきっとそう言うだろう。昔からいつもそうだったのだから。

 彼ら四人は席を立った。俺達を二人きりにしようという配慮からだろう。おせっかいな奴らだ。
「マスター、騒いですまなかったな。」
との言葉を残し、他の客の非難がましい視線を浴びながら彼らは退場して行った。あとには、飲みかけのグラスが四つと元の通りの静けさとだけが残った。
「ごめん、あの日は・・」
気まずさの中で言えた全てがこの言葉だった。なんとなく照れ臭くて・・いえただけでもましだろう。いつもならなんとなくはぐらかしてしまうのだから。
「ううん、いいのよ。昔のことだもの。」
沈黙。しかし沈黙だらけの再会とは恐れ入ってしまった。いつもなら陽気に体験談を聞かせてくれる彼女なのに。やたらとおしゃべりな二人なのに。ああ、みんな俺が悪いのだ。
「出ようか。」
この言葉は二回目の努力の結果であった。この努力だけは認めてもらわなければ身もふたもない。彼女の頷きがどれほどすばらしいものに思えたことか!

 店を出ると、しとしとと雨が降っていた。俺達は水溜まりに広がる波紋がちらつく中を傘もささずに寄り添って歩いていた。あの日、俺が彼女に「さよなら」を言った何年か前のあの日と同じだった。あの日の事が頭の中を過った。
さよならを言う俺。
うつむいて何かを耐え、溢れ出しそうになる涙をじっとこらえているマユミ。
そして、そんな風にしてなかなか別れない俺達の間を無常にも引き裂き、「早くしろ」という無粋なたったの一言で連れていった
同僚。あいつは結局死んじまった。バチが当たったに違いない、ざまあみろだ!

 「別れ橋」の近くまでやって来た。あの日と全く同じ、一つだけ違うのは、今度は2人の仲を邪魔する奴がいないということだけだ。
俺は彼女が好きだった。そして彼女も・・だからこそ、あの日別れることを決心したのだ。だが今回は、そう、今回だけはそうしてはいけないのだ。なぜならこれは俺が望んだことなのだから。
「マユミ!」
俺は彼女を抱きしめた。端から見れば大胆な行動だが、俺をつき動かしているこの想いが本物であることはお互いに知っていた。だから彼女も抵抗などはしなかったのだろう。
「俺はもう何処へも行かない、いつまでもこの街で暮らす。一緒にいてくれるだろう?なっ、マユミ。」
彼女は俺の腕の中で激しくむせび泣きながら、小さくではあったが頭を横に振った。少しためらいはしたものの・・・
(俺は彼女に拒否された)
その事実が俺の頭をうち、体を金縛りにした。何故?どうして?
俺は彼女の肩に手を置き、ゆさぶりながら尋ねた。
「何故なんだマユミ。どうして?!確かにあの日、俺は君を、結果的にとはいえ捨ててしまった。でもこうやって戻って来て、やり直そうとしてるんじゃないか。身勝手なことだとは思うけどさ・・どうして?!」
「お・・遅すぎたのよ、その・・・・言葉・・・あの日、あの時言ってくれたら、どんな所にだってついて行けたのに・・・・・」
彼女の体が淡く紫色に光を発し始めた。俺の胸から離れて走り去ろうとする彼女の手を”行かせるものか”という一念の元に握りしめた。だが彼女の顔はさらに悲しみを増し、さらなる涙が溢れ出して頬を濡らした。

 (女を泣かした。)
(悪い奴だ。女を泣かせやがった。)
(まったく、女の敵ね。)
(いーやや、いやや、泣かせよった泣かせよった。)
(あいつ悪い奴だなあ。)

通りを歩いている人々が俺を非難している。
ちがう!ちがうんだ、みんな聴いてくれ!
今の俺は被告席で唇を噛みしめながら耐えている、あるいは無実を喚き散らしている罪人だった。

(違う、違うんだよ!頼むから聴いてくれ!)
(いいや、違わない。事実は事実だ。)
(周りを見てみろよな。)
(彼女は泣いているじゃないか。)
(事実は認めたらどうなの?)

証言台に立つ彼らは糾弾の手をゆるめない。周囲に俺の味方は一人もいなくなっている。非難の風は飽くことなく吹き続けている。間もなく判決が下されるだろう。
きっと俺は自分の良心に責められているに違いない。心に見離されたなんて・・・もう・・・・・・終わりだ・・・

 「私、いいんです。」
遠いような近いような、妙に冷たくて寒い場所からマユミが言った。その妙な感覚は風のせいかもしれない。
「いいんです、もう。気にしないで下さい。彼とはもう会えないんですし、彼も気の毒なんですから・・」
「何を言ってるんだマユミ。こうして今いるじゃないか。これからはうまくやって行けるさ。」
俺は再び抱きしめんと、彼女の腕を引き寄せた。が、俺の腕の中におさまりかけた瞬間、そう、もうほとんどおさまっていたその瞬間、彼女の体は散り散りとなり、風に吹かれて流される光る紫の鱗粉と化した。と同時に、周囲の人々も同じ道を辿り、それぞれの方向へと散って行った。

 「マユミ、待ってくれ!頼む!」
俺は彼女の光が流されていく方へと走った。光はまるで導くかの様にゆっくりと、だが俺に追いつかれないぐらいの速さで確実にある方向へ向けて流れていく。
(くそっ!風よ止め!でないと追いつけないじゃないか。それにしてもなんて走りにくい道なんだ。まるで獣道みたいだ。)
俺は舗装されているはずの、妙に障害物の多い道を必死で走った。何度もつまずき、何度も転びそうになりながら。そして・・・・・

 泥まみれになって寝ころがっている自分に気が付いた。紫の光は、そうマユミはこんな俺の目の前に立っていたはずなのだ。だが俺にはもう見えなかった。おそらくは他の誰にも。
周囲を見回して映った光景は、爆撃の傷跡が生々しい廃墟の街だった。アスファルトに穴があき、瓦礫の山がそこかしこに転がっている。その間に見える物体は、おそらく住民の死体だろう。事実、手をのばせば届きそうな場所にも、千切れとんだ一本の足が転がっている。
そう、二週間前この街は、俺の故郷は爆撃を受けた。そしてその大規模な爆撃のため、街はマユミや親友やそのた大勢の人々を道連れにして滅び去ったのだ。
「マユミ、許してくれ・・あの時、俺にもう少し勇気があればこんなことにはならなかったのに・・頼む、許してくれ・・・・」

 だから、そう、だから今まで見ていた出来事は、おそらくは麻薬で頭のいかれた俺の見ていたはかない夢。薬の切れかけた中毒患者
の見る幻覚。そして俺の行動を糾弾する”良心”という名のレンズが映し出した蜃気楼・・・

 雨は未だに降って、俺の体を、俺の心をうち続けていたが、朝になれば誰かが、水溜まりの中で泥にまみれ、狂った様に笑いながら、それでいて口は詫びの言葉をつむぎだしている、麻薬中毒の軍人を見つけるだろう。結局はあの日を境として全ての道を踏みはずしてしまっていたのだから。

 廃墟の街に俺の狂ったうつろな笑いと、どこからか流れてくる調子の狂ったオルゴールの音が奇妙なハーモニーを作り出す。そして瓦礫の上には風に吹かれるすみれが一輪・・・色鮮やかな花一輪・・・・・・・・
 

俺は誰だ!

 「デートして下さい!」
俺はいきなりそう切り出した。一体何故こんなことを言い出したのか、また何の脈絡があるのかは本人すらわからない。ただこの時わかっていたのは、俺がなんとなくヤケになっていたのと、空が素晴らしいほど青く晴れ渡っていたことである。何をするにせよ絶好の日よりではないか!
さて、俺のそんな思惑はそっちのけで、言われた相手は目をまん丸にして呆然と立ちすくんでいる。「あっけにとられている」という奴かも知れないが、要は事態をよく飲み込めていないのだろう。まあ仕方がない事ではあるが。
(いつになったら返事をくれるんだろう・・)
俺はその娘の顔を真剣な顔でジッ!と見つめながらそんな事を考えていた。それはほんの一瞬の間だったかも知れないが、もしかしたらあまりの出来事に心臓が止まってしまったのではないか、と心配したくなる程長く感じられた。どうやら心配性らしい。
「え?」
その娘はやっと反応した。年の頃は二十±一・七歳、髪は長く眼鏡をかけていて、なかなかの美人である。重そうなカバンのすき間から何やら難しそうな名前の本が顔を覗かしていることから、おそらくは大学生というところか・・・・・。
「あのー、何とおっしゃいました?」
彼女はいささか顔をこわばらせながら尋ねてきた。俺はもっともだと言わんばかりに真剣に頷き返し、
「デートをしてもらえませんか、とそう言ったんです。」
と答えた。
彼女は冗談を言われたんだと思ったらしい。初めはニコニコしていた。がやがて俺が本気であるのを知ると驚きを通り越して恐怖を表した。そらそうだろう。街中を歩いているといきなり見知らぬ人間から「デートして下さい」などと言われたらあなたはどうしますか?え?喜んでついていく?それは予想外だ。やはりこういう反応を示すだろうと言って欲しかったのに。まあそれはともかく・・・・
「あのー、こんな、道の真ん中では何ですからそこの喫茶店にでも入りませんか?」
と彼女に提案してみた。いいかげん気になってきていたのだが、先程から通行人が道の真ん中につっ立っている俺達をじろじろと見ているのである。中には立ち止まってにやにやしている奴もいる。どうやら彼女にもその事が理解できたらしい。何やら納得のいかないような顔をしていたが、しばらくして「わかった」という風にコクリと頷いた。だが結果的には、この事は俺の思う状態へは繋がらなかったのである。

(世の中とはそういうものだ。)

 「えー!記憶喪失?!」
俺は耳を押さえた。その行動は「うっそー!やっだー!ほんとー?」という感じのイントネーションで発せられたその言葉が流れ始めるのと同時だった。とは言え、流れる前に押さえるのは無理だし、事実耳を押さえた頃には全ての言葉は発し尽くされていた。従って聞こえてしまってからでは遅いと思うのだが、キンキン声を聞いた時、人は耳を押さえるという行動を無意識のうちにやってしまう。「反射行動」と俗に言われる行動である。
「ええ、実はそうらしいのです。自分の名前とか住所とか職業、家族構成、その他何も思い出せないんです。だた一つわかっているのは、自分の記憶力に関しては多少の自信があるということだけなのです。」
周囲から同情や好奇の視線が突き刺さってきているのがわかる。まあ普通の人間は記憶喪失の奴に会うことなんてないわけだから、わからんでもないが。俺だってそんな奴がいたなら同じ行動をとったに違いないのだから。
「まあそうでしたの。それは大変でしょう。そうだ!うちへいらっしゃいませんか?兄なら記憶喪失でも直せると思うんですけど。」
大変なのには違いないが、彼女の言葉は有り難かった。不治の病にかかった男がいきなり、「特効薬がありますよ」と言われたら丁度こんな感じだろう。
「ほ、本当ですか?!ぜ、是非紹介して下さい、お願いします。早く行きましょう、今行きましょう、すぐ行きましょう。」
俺は彼女をせかし、席を立って店を出ようとしたが、彼女は席に座ったまま黙々とパフェを食べ続けている。訝しげに尋ねると彼女はにっこりと微笑んでこう言った。
「あら、折角のデラックスパフェですもの、最後まで食べて行かないと、ねっ。あっ、それからお勘定の方はお願いできるんでしょ?ほんの千円ぐらいだし。」・・・・・・・・・・・・女は強し・・・

 「どうも、私が川田京二です。」
白衣に銀縁眼鏡、少しひょうきんそうで博識らしい天才タイプの男。第一印象はそんなものだった。この時はまさか彼が恐るべき伝説の”気違○博士(M・S)”だなんて思いもよらなかったのだから。
「なる程、なら話は簡単だ。要はついこないだ作ったばかりの例の装置を少々改造すればいいわけだからな。」
彼に経緯を話してみたところの返事がこれである。はっきり言って俺は帰りたくなった。なんとなく、いや明確な恐怖感を覚えたためである。彼のあのうれしそうな顔、態度、俺のことをまるで新しいおもちゃかなにかの様に見ているあの目。普通ハンサムな男だと非常に情けない顔になるであろう状態なのに、何故かさらに(女性から見れば)魅力的であろう顔つきになるのである。それは同姓の俺からしてもうらやましい事で、もっと言えば腹が立つのである。
「美人の兄はハンサムか・・・」
きっと両親も美男美女なんだろう。なんでそうなんだろう。世の中理不尽だ。頭がよくてハンサムで、女の子にもててetcetc・・・それらもろもろのものがたった一人に集中していいのか!そんなのが許されるのか!
「え?何かおっしゃいましたか?」
そう言われて、あわてて周囲を見回すと、妙な顔をして俺の方を見ている兄妹に気が付いた。どうやらうっかりと声に出してしまったらしい。俺はうろたえもせずあわてもせず(ふりだけ)やんわりと受け流した。もっともあまり成功していたとは思えないが。
「いえ、すごい部屋だなあと思いまして。」

 テレビ、ビデオ、コンポ、テーブル、ソファー、観用植物、時計、ピアノ、布団、枕、ミラーボール、ロボット魚の入った水槽、ベルトコンベアetc
「一体全体、どの様に機能する部屋なんですか?」
「なに、簡単な事です。例えばこの縦横無尽に走っているベルトコンベア。あれは流れ作業用です。一つのものを作るにも速いに越したことはありませんから。それにあのコンポ、一見すると普通の市販品と変わりませんが、特殊な配線により特殊な音波を発します。あれとミラーボール、もちろん改造品ですが、とを組み合わせば容易にこの部屋を異次元空間にすることが可能です。」
「そ、そうなんですか?!」
驚いてしまった。異次元空間を簡単に作ることが出来るだって?しかしそんなものをどうするというのだろうか。別に仕事がはかどる訳でもないし、遅刻せずにすむ訳でもない。また、水泳がうまくなる訳でもないし、雨の日に傘がわりになる訳でもない。
「そういう馴れていない場所は人間に刺激を与えるんですよ。その刺激が必要なわけです。あなたの記憶を元に戻すための環境としてね。」
俺の小市民的な疑問に答える言葉を出してくれた。かと言って、さも納得したような顔こそしているものの、何故そうなるかわかっているという訳でもない。やっぱり無理してでも納得した方がいいのだろうか、それともしない方がより治療効果があるのだろうか・・・・・

「準備が出来ましたわよ。さあどうぞ。」
彼女(川田早苗さんらしい)が呼びかけてきた。”天使が運んでくる悪夢”、何の脈絡もなくそんな言葉が脳裏に浮かんだ。
見ると部屋の真ん中に、何やら左右に奇妙でやたらゴテゴテした装置をたくさんつけたソファーが置いてある。座り心地は良さそうだが、一つ間違えば歯医者の使う拷問台のようなデザインだ。そう思うと体が恐怖に凍りつき、背中を冷たいものが流れた。精神的外傷にこそなってはいないが、子どもの頃の嫌な思い出はおそらく誰しもが持っていて、決して忘れ得ぬものであろう。
俺は拷問台に縛りつけられながらぼんやりと考えていた。
(麻酔注射はあるのだろうか?)

 「いいですか?私の言う事以外の事はしちゃいけませんよ。」
「はい。」
注文の多い治療だと思うのだが、患者でありしかも無料で治してもらおうという人間がとやかく文句を言えるような筋合いではない。体をソファーに縛りつけられた上、頭や手足に電極だの何だのを付けられたのだ。これ以上、まだ望まれるのか?ここまで来て、俺のイメージは歯医者から刑場へと発展していた。
「それでは治療を始めます。いいですか?」
一応無愛想に頷いては見せたものの、喉はゴクリと音を立てていたし、もしかしたら顔も緊張にひきつっていたかも知れない。いずれにせよまかせるしか他はないのだし、俺が無理して頼み込んでいる訳だから(たとえ相手が喜々としていようと)、こちらから「だめです」などと言えるはずがないではないか。
(いいんだ、いいんだ。どーせ俺はモルモットなんだ。顔も悪いし頭も悪い。生きていたって何の役にも立たないんだ・・・・・。」
むに!
という感覚がしたと思った途端、風景が変化した。しばしの間いじけるのを止めて周りを見まわすと・・・赤というか黄というか青というか、別に信号機ではないのだが、いやもしかしたら紫かも知れないし、ピンクかも知れない。とにかく訳のわからない色彩が流れ出した。その中にたった一つだけ、俺の座ったソファーが空中に浮かんでいる。
背中を流れる冷たい物を感じ始め、続いて足がガクガク震えているのがなんとなくわかった。
カタカタカタカタ・・・・・・カタカタカタカタ・・・・・カタ・・・
その無限とも思える時間と常に流動している色彩との中でいつまでも座り続けなければならないようだった。これは非常に苦しい。今にもその辺から”ニュッ”と手が出てきて身動きのとれない俺を絞め殺すか、それとも鼓動の早い心の臓を文字通り鷲掴みにしてしまうのではなかろうか。そう思うといてもたってもいられなくなる。とにかくそんな感じが連綿と続いていた。
(おや?何の音だろう?)
何かが聞こえたような気がした。もちろんそれは錯覚だったのかも知れないが、間違いなく、確かに、何かが俺の視野の上の方で動き、妙な音をたてたのだ。そ、それに上から変な圧迫感を受けている。も、もしかしたら・・まさか、そんな・・・・・・冗談でしょう?!誰かなんとか言ってくれー!!
ゴーン
未知のものに対する恐怖心が絶頂に達し、悲鳴をあげようとしたその寸前、その鐘のような音は俺を丸ごと呑み込んでいた。

 (おや、ここはどこだろう。)
目を覚ました俺が真っ先に考えたのはそれだった。そこは見馴れぬ部屋だった。テレビ、ビデオ、コンポにテーブル、ソファー、まあそこまではわかるとしてあのベルトコンベアーは一体何に使うのだろうか?こんな訳のわからない部屋を見知っているはずがない。
「気が付かれましたか?」
見ると、まるで天使のような美人が俺をのぞき込んでいる。その微笑みは太陽よりもまぶしく、月の光よりも美しく、すみれの花よりも可憐で、それからえーと、えーと・・・・
「ああ、気が付かれましたか。どんな感じですか?」
声をかけられた方を振り返ると、これまたハンサムな男が彼女の隣へと立った。彼女の言葉を聞いて、俺の様子を見にきたのだろう。だが、とりあえずはこの二人にも見覚えがなかった。一体ここはどこで、この二人は誰なのだろうか。その疑問が解消されないうちに女性の方は俺達二人を残して部屋から出ていってしまった。
「どうです、今のご気分は。」
「ああ、悪くはないが・・一体ここはどこで君は誰だ?何故俺はここにいる?何も思い出せないんだが、良ければ説明してくれないか?」
「ええ、」と彼はこまごまと説明を始めた。
「実は、かくかくしかじか、という訳なんです。」
要約してみると「記憶喪失で困っているあなたを妹がうちに連れてきて、それを直したんです。」という風になる。
しかし電柱にぶつかった後、そんなことになっていようとは思いもしなかった。短時間とはいえ、いろんな体験をしたのだなあ、しみじみ・・・・・
(心理表現空間)
「あのー、で、お名前は思い出されましたか?」
しみじみと自分の世界に入り込んでいた俺に彼(川田京二という名らしい。ちなみに妹は早苗さん)が質問してきた。うるさい奴だとは思うのだが、世話になった(らしい)上、そんなことを言えば失礼もいいとこだ。従って、たかだか名前なんだし別に言ったところでどうということはないであろう、という結論に達した。
「私の名前は・・・・・・・・あれ?おかしい、思い出せない。」
彼の表情が曇り、俺もあせった。おかしい、何故思い出せないんだ?何故・・・あっ!そうか!この事実をしゃべるのは非常に気が滅入るのだが・・・・
「実は、実はですね・・・・」
「おまたせいたしました。紅茶でもどうぞ。」
早苗さんが盆皿にお茶とお茶菓子とを持って戻ってきた。そ、そんな、彼女の前でこんな情けないことを言わなければならないなんて。この世には神も仏もないのか!だが、し、仕方がない。
「京二さん。」
俺は小声で囁いた。
「彼女に一目惚れなんです。彼女を、早苗さんを僕にください。」
「カップメン三年分で手を打とう。その前に是非名前を教えてくれ。」
折角なおしたんだからと言わんばかりに、小声で囁き返してきた。俺の小さな野望も希望も、そのたった一言で崩れ去ってしまった。 振り返ってみると、思わずひそひそ話をしてしまった男二人を前に、早苗さんはキョトンとしている。それがまたかわいい。だが俺は恐るべき、そして限りなく情けない事実を話さなければならないのだ。俺は・・・俺は・・・・・・・・・
「実は・・・・私は・・私の名前は・・・・実は私は、記憶力が極端に悪いんです!自分の家どころか名前すら覚えられなかったんです!唯一覚えられたのは私はとてつもなく記憶力が悪いということだけなんです!お願いです、私の名前を教えて下さい。私は一体誰なんでしょう?!」

P.S.
世の中とは油断できないものである。
 

時間 ~Long Long Time~

 私はロボット。長い長い時の流れの中を動いてきたロボット。いつも一人だけ取り残されてきた。体の中では錆びついた歯車がギシギシと音をたてながら回り、弱り切った燃料電池は流す電気量を減らしてきている。まるで私に反抗しているかの様に。薄暗い地下室でただ一人、うつむいて座り込んでいるだけ。

 昔々、女の子がいた。ショートカットの良く似合うボーイッシュな娘だった。
私と彼女は一緒に、よく学び、よく遊び、そしてよく眠った。私は彼女の一部であり、親友であり、幼ななじみであり、そしてまた仲間でもあり、時には恋人だった。
夏の海にいやがる私を無理矢理連れて行ったのも彼女だった。あの後、潮風で錆びつき動けなくなった私に、涙をボロボロこぼしながら謝っていた姿を今でも覚えている。あの頃は楽しかった。そしてその時は永遠に続くものだと、少なくとも私はそう思っていた。
しかし、彼女が成長し、大人に近づいていくにつれ、彼女の視線は少しずつ私から離れていき、行動的にも穏やかなものへと変化していった。
やがて彼女は成人となり、よく晴れた春の日に真っ白なドレスを着て、見知らぬ男と手を取り合って、楽しそうに笑いながらこの家を出ていった。私を一人ぼっちにして・・・
彼女は今どうしているだろう?幸せに暮らしているだろうか。それと彼女にとっての私とは一体どの様な存在だったのだろうか。もし知っているなら、心ある人よ、教えておくれ。

 昔、男の子がいた。腕白でいたずら好きでどうしようもない奴だった。
私と彼は一緒に、よく語り、よく走り、そしてまたよくいたずらをし、よく笑い合ったものだった。彼は十九年間私とふざけあった気の合う友人であり、時には先生と生徒だった。
一緒に家のドアに水入りバケツをしかけ、親兄弟がひっかかるのを楽しみに待ったことがある。もっとも、この時は客がひっかかってしまい、後でこっぴどく叱られたものだったが、彼が。
しかし十九歳となる数日前、親と派手な喧嘩をしていきなり家を飛び出していき、それきりここへは戻って来なかった。あれ以来彼には一度も会っていないが、今でも元気に笑っているのだろうか。もし会ったなら心優しき人よ、伝えておくれ。私が今でも帰りを待っていると。

 画家がいた。若くて世間知らずの苦労を経験したことのない男だった。
私と彼は一緒に、山を歩き、小川を渡り、この国のいろんな場所をイーゼルとカンバスや絵の具などをしょって旅した。私と彼の助手であり、良き理解者だった。彼には大きな夢があり、量り切れない情熱があり、そして光り輝く希望とがあった。又、それを語ってくれる顔はまぶしいぐらい、生気に満ち溢れていて、私も彼のその話を聞かせてもらうのが楽しくてしようがなかった。そう彼の成功を心から望んでいた。
しかし、ある日突然、彼は自室で首を吊って動かなくなってしまった。私は驚いた。何故彼はこんな事をしたのだろう?昨日まで楽しそうに笑いかけてくれていたのに。
彼は自分の絵のほとんどを引き裂いていて、全く新しいカンバスの上に”自信がなくなった”と書いていた。”自信”とは一体全体何なのか、そんなに大切なものなのか、私にはわからない。彼の絵は今、大きな、街の美術館に飾られているというのに。

 それからしばらくの間、いや長い間私には一人の友人もできなかった。長い長い間ずっと一人ぼっちだった。私は自分の体が、整備もされないまま次々と朽ち果てていくのがわかった。自分の動作が鈍く、ぎこちなくなってきていることにはかなり前から気がついていた。暗いゝ地下室の中で、いつ現れるか知れない光を待ち続けていた。考える事と時間は掃いて捨てるほどあった。あの少女、少年、画家、時には実業家、教師、その他私にかかわった多くの、そしていろいろな職業の見知らぬ人々のことを。皆一体何のために生きたのだろうか。何のために私と知り合ったのだろうか。

 ある時、地下室の扉がゆっくりと開き、一人の男が入って来た。彼は私を見つけると、近寄って来て外へと運び出した。そしてその後・・・・・いや、やめておこう。そう、結局は同じだったのだ。彼もまた私を捨てた多くの人間のただの一人となっただけなのだから。

 私は蜘蛛の巣が張りめぐらされていて、埃の分厚く積もったあの地下室で今も静かに座り込んでいる。次の主人は、次の放棄者はいつ来るだろうか。私のまだ動ける間に現れてくれるのだろうか。
私はロボット。長い長い時を動いてきたロボット。体の中では錆びついた歯車がギシギシという音を鳴らしながら回り、弱り切った燃料電池は電力の供給をしぶっている。もうすぐ両腕両足は、変質・劣化したプラスチック部分で抜け落ちてしまうだろう。でもそれでもかまうまい。たとえ次の主人が目の前に現れなくとも。長い間、私は動いて”生きて”きたのだから。そろそろくたびれた。自らこの果てしなき物語にピリオドを打つのもいいかも知れない。
私はロボット。長い長い時間を動い・て・・・・・・・・

・・・カチッ
 

今日、寝る前に明日の予定(旧友の家を訪れる)を確認していると、いきなり警察から電話がかかってきた。応対して話を聞いてみると、何でも俺が死んだということだった。暴走車にはねられて即死だったらしい。遺体はぐちゃぐちゃ、顔なんかはホラー映画に出てくる怪物並みになってしまっていて、とてもじゃないが身元が判断できるはずもなく、持ち物から割り出したとのことだった。
(何と交通事故の多いことか)
電話を切った後、俺は嘆かずにはいられなかった。何しろ俺にも関係があるのだから。電話で
聞いてみたところ、その暴走車の車種はフレアΓというやつだった。そういやこの車、「AT車としては欠陥品ではないか」と新聞紙面を賑わし、運輸省が走行実験をやることになっていたはずだ。その矢先の事故とはねえ・・・。
おっと、この辺で事故じゃなくて、自己紹介をしよう。俺の名前は岡崎昇、大手自動車製造メーカーである「トウサン」のエンジニアである。ちなみに「トウサン」とは「東産」と書き、決して「倒産」ではない。例のフレアΓも実はうちの製品だったりする。うちも最近次々と起こる事故の対策にてんてこまいでね・・・おっと、又電話だ。
「はい、岡崎です」
「おお岡崎君か、なんだ元気そうじゃないか」
「は?ええ、まあ・・・」
課長からの電話だった。しかし一体どうしたというのだろうか、こんな時間に。
「実は先程警察から電話がかかってきてなあ。何でも君が死んだという話だったんで大急ぎで電話したんだ。いやあ、元気そうで良かった良かった」
「それはどうも、ご心配をおかけしました。この通り元気に?やってお・・・え?」
非常になさけない話だが、俺はこの時になって初めて話の内容が示す意味に気が付き、呆然となった。電話の向こう側では課長が何か言っていた様だが全く記憶がない。気がついた時には受話器は置かれていた。
「俺が死んだって?」と言葉に出してみる。とてもではないが信じられぬ科白である。自分自身の存在を否定するのだから当然なわけだが。
「何かの間違いだ。現に俺はここにいるじゃないか」
自分の体を確認してみた。確かに俺はここにいる。では死んだという俺は一体誰なのか?
(他人の空似だろうか?いや、持ち物から判断したと言ってたな。しかし俺は何も盗られたことはない。すると俺は夢を見ているのか?)
試しに頬をつねってみる、とやはり痛い。(ということは夢ではないということだ。では、そうか本人の空似・・・のわけがない)
これ以上いくら考えても答えが見つかるとは思えなかった。俺はなる様にしかならんと開き直り、酒を飲んで眠りについた。
東の空が明るくなって来た。また一日が始まろうとしている。朝は近い。

朝刊の内容は少々落胆させるものだった。例の事故?のことが報道されており、被害者欄にはしっかりと俺の写真が出ている。見出しには「自業自得?東産エンジニア事故死」の文字、そしてうちの社長のコメントのみならず、不思議なことに運輸大臣のコメントまでが入っている。全く親切この上ない配慮である。思わず何かしらわけのわからない怒りがこみあげていたが、それを抑えて友人の家へ行く準備を始めた。必要な物はヘルメット・懐中電灯・ドライバー・スパナ・カンヅメである。もちろん缶切りを忘れてはいけない。これだけの装備をナップサックに入れて背中にしょうと雨傘を手に家を出た。

三回目のチャイムを鳴らした時に彼が出て来た。俺の古くからの友人、川田京二である。彼と知り合ったのは大学時代で、その時彼は遺伝子研究室のエースだった。その後大学院まで進んだが、教授と対立して破門同様に院を中退してしまっていた。それからは天性のマッドサイエンティストぶりを発揮し、妙な物を発明しては大学時代の友人達を集めて披露するという生活を送っていた。彼に呼ばれた者は「またか」などと思いながらもどんな物を見せてくれるか楽しみにしているのである。
今回呼ばれたのは俺だけの様であるが、それでも彼はうれしそうであった。そして予想されたことではあったが、こう切り出した。
「よく来てくれた、感謝するぞ。ところでお前死んだんじゃなかったのか?俺幽霊の友人は初めてなんだよな。なあおい、どう思う?テレビ局来るかな?『幽霊を友に持つ男!』とかさ」
全くいつまでたっても軽い男だ、完全に状況を楽しんでやがる。他人の気も知らないで。
「水をさす様で悪いがな、俺はまだ生きてるよ。足だって・・・」
「ちゃんとついてる様だな」
さも足がついているのが残念だとでも言いたそうな口調だった。俺はそれをあえて無視してこう続けた。
「なあ、この事をどう思う?お前なら相談に乗ってくれると思ったんだが」
「まあそりゃ友達だからな。それに平安時代の幽霊画の幽霊には足がついてたらしいし、何も心配することはないと思うがな」
「貴様、真面目に相談に乗る気があるのか?」
奴はあくまでも俺を殺したいらしい。
「冗談だ、落ち着け。こんな所で立ち話もなんだから家へ入れよ。茶でも飲みながら話をしようじゃないか」

しかし相変わらず研究所と言ったがいい様な家である、それもマッドサイエンティストの。でなければ物置だ。俺は今台所にいるわけだが、それというのも居間が訳のわからん発明の山に占領されてしまっているらしいからである。この台所にしたって同様である。手術台とも思える作業台(本人は食卓だと言い張っていた)を始めとしてフラスコ・ビーカー(本人曰く湯飲み)試験管・使用目的のわからない機械類が所狭しと並び、部屋の隅にはカップラーメンの山、天井からは千羽鶴がつり下げられ、ベランダには奇妙な植物が密生している。その他の調度はといえば薬品棚と本棚に冷蔵庫・ガスコンロに炊事台、どう見ても十畳かそこらとしか思えないのによくもまあこれだけの物を詰め込めたもんだ。
「しかし相変わらずだな、お前の家も。もうちょっと何とかならんのか?」
「そうかなあ、とても素晴らしいインテリアだと思うが。ま、お前にゃこの感性はわからないだろうなあ」
と平気な顔で言ってのける。こんな感性がわかってたまるか!
「本当の所は、一時期忙しい時があってね、ここに道具を持ち込んだはいいが片付ける暇がなくてな」
そう言いながら川田は湯を沸かし始めた。しかし五〇〇ミリリットルビーカーで湯を沸かすのはやめて欲しいものだ。

「成程、確かにおかしな話だなあ」彼はしきりにうなずきながら言った。俺達は妙な味のする紅茶をすすりながら、いつもならば思い出話やら世間話やらに花の咲く時間に、今回の事故の真相を考えていた。今丁度俺が経緯を話し終えたところである。
「そうだろう、なあどう思う」と紅茶をすすりながら俺。そしてもう一言、「何でもいいけどな、ビーカーに紅茶を入れるのはやめてくれ!何が悲しゅうて一〇〇ミリリットルビーカーで茶を飲まにゃならんのだ」
「ん?フラスコの方が良かったのかな」
「いや、そうゆう問題じゃなくてだな・・」
「まともな皿なんぞ期待する方が間違っている。ぜいたくは敵だぞ。『欲しがりません勝つまでは』って言葉を知らないのか?」
「お前はいつの生まれだ!」
全く、こいつと話をしていると頭が痛くなってくる。俺はさりげなく話題を変えた。
「ところでこの紅茶変わった味がするな」
「ああ新製品だからな、俺が創ったやつなんだ。人体実験がまだだったからお前が来てくれたのは有難かったよ。何しろ自分が最初に飲むのはさすがに怖いからなあ、あっはっは」
「きっ、貴様、俺を実験台にしたのか!」
話題の転換もへったくれもない。しかもどんどん話が本筋からずれていく様な気がして仕方がない。するとめずらしく奴が助け舟を出してくれた。
「先刻の話に戻すけどな、ありゃあクローン人間ではなかろうか。」
「クレヨン人間?なんだそりゃ」
「クローン人間だ。く・ろ・お・ん」
「ふーん、クローン人間ね。SFじゃあるまいし、誰がそんなもん造るんだ」
「俺が今日お前を呼んだのは何故だと思う?俺がそのクローン人間の製造に成功したからじゃないか」
「よっ、さすがマッドサイエンティスト」
「誰がじゃ!まあそれはともかく、居間にそのクローン人間を待たせてある。おーい、ちょっと来てくれ」
彼は室内電話を通してそのクローン人間とやらを呼んだ。
「ちょっと待てよ、居間は入れないんじゃ」
「いや、その、なんだ・・・」
「何をうろたえてんだ?そうか、どうせバイトか何かを雇ったんだろ」と俺。
「人を何十分も待たせておいて何が『おーいちょっと来てくれ』だ」
聞き覚えのある声がすると共にドアが開き、見たことのある顔が現れた。いや、見たことがあるなんてもんじゃない、それは俺自身だったのだ。まるで狐か狸に化かされた様な感じだ。俺は思い切ってそいつに名前を訊ねてみることにした。
「あ、あなたは何というお名前で」
「何を言ってるんだ、岡崎昇だよ」となかば予想された答が返ってきた。だからといって俺本人だとは限らない。
「昨日の昼飯うまかったなあ」といってみた。
「何言ってんだよ。社内食堂のオレンジライスだろ、あのくそまずいやつをうまいと思う奴なんているもんか」
こいつは昨日の昼飯のメニューを知っていた。こうなった以上は奴を俺自身であると認める他はなかった。
「どうだ、驚いただろう」
川田が得意気に言った。確かに驚いた。しかし、一つだけふに落ちない事があった。
「お前一体どこから俺の細胞を手にいれたんだ?」
「別にお前の細胞を手に入れるつもりはなかったんだがな。夕べある病院にいる知り合いから事故死した奴の細胞を分けてもらったんだよ」
「そして再生されたのが俺だったと」
「まあそういうことだ。俺も最初は驚いたよ。もっとも、こいつと話をしている最中にお前が来た時はもっと驚いたがね」
「ということはやはり俺は夕べ死んだんだな。じゃあここにいる俺は一体誰なんだ?」
「今思いついたんだがな、お前か、それとも死んだ奴のどちらかがドッペルゲンガー(二重像又は分身)だったんじゃないか?」
「だとしたらお前がドッペルゲンガーだ」
俺はいきなり先手をとられてしまった。だがこれくらいのことで負ける俺ではない。即座に言い返してやった。
「クローンの分際で何を偉そうに。証拠はあるのか、証拠は」
「何言ってやがる。俺は昨日の朝、課長から残業してくれと言われていたんだぞ。そして俺は残業した。その時間お前は一体どこにいたんだ」
そう言われてみるとそうだった。が俺には残念ながら残業した記憶がない。ということは必然的に死んだ奴が本物の俺で、ここにいるこの俺はドッペルゲンガーということになる。ドッペルゲンガーの現れた人間は数日のうちに死ぬという。つまり、俺というドッペルゲンガーに現れられた本物の俺は本当に死んでしまい、何故か偽者の俺がまだ消えずにこの世界にのこってしまっていたのだ。
俺は自分が偽者だと知ってしまったことにより、失意のどん底に堕ちいったまま川田の家を出た。もうとっくに陽は暮れており、辺りは真っ暗だった。俺は自分でも気付かぬうちに家へ向かってとぼとぼと歩いていた。自分はこれから一体どうなるのかと考えながら。すでに完全に周囲から孤立し、半分我を失っていた。
しばらくして俺は目もくらまんばかりのまぶしい光に全身を照らされて我にかえった。自分でも気が付かないうちに、うっかりと赤信号になっている横断歩道の真ん中に立っていたのだった。まぶしい光の源は俺の目の前に迫っている車のヘッドライトであることに気がついた、と同時に、今までの自分の人生、生まれてからの二十数年間、そして今度の事件のことが俺の脳裏を過った。それが大きなクラクションの音にかき消され、悲鳴の様なブレーキの音に邪魔された時、本物の俺も同じ様な体験をしたのだと思った。それが俺の最後の思考だった。

最初に戻らないで下さい。

翌日、本物の岡崎昇のクローン人間(以下俺)は家にいた。すると警察の者が電話で、『岡崎昇さんが死亡なされたのですが、死体が消えてしまいまして・・』と報告してきた
「やれやれ、俺のドッペルゲンガーは死んだのか。案外情けない奴だったな。同じ自分として恥ずかしい」
本物の自分の事は口に出さなかった。やはり自分の核となった人間まで情けないとは言えないらしい。それほどまでに何故か自分がクローン人間であるという自覚があった。が、そんな自覚を持つクローン人間も珍しいといえば珍しい。
再び電話がかかってきた。俺は持っていたパンフレットを机の上に置き受話器を取った。相手は何の事はない、あの川田だった。
「え?次の日曜日に来いって?また発明品かよ。で、今度は一体何を発明したっていうんだ?え、何だって、時空間的複製製造装置?」
俺は机の上にあるパンフレットを見た。それには「忍術入門」と印刷されてある。やれやれ、これから俺は一体何人の「俺」に会うことやら・・・