Day CONTACT1 in Nagoya After Report ~箱入り娘 VS ナンパ野郎~

タイムテーブル
 今日、4月14日は、「Day CONTACT1 in 名古屋」が催された。集まったのはこの手の話が好きな30人。私にとっては2回目となるFCS(ファースト・コンタクト・シミュレーション)である。
この30人が2チームに分かれ、お互いに自分たちの世界、世界観、コミュニケーション手段、宇宙の乗り出した理由を設定し、とある惑星上でコンタクトをする、という内容である。
タイムテーブルは9:30から受付が始まり、10:00から会長挨拶、趣旨説明、会場での注意事項が話された。10:30~11:30で自分たちが宇宙 に乗り出した目的、基本的な生物像を構築、11:30~12:30が昼食、12:30~13:00で自分たちの外見、その後14:00までかけてコミュニ ケーション手段やタブーなどの設定を行った。14:00からはお互いに通信文のやりとりをし、15:00からは直接コンタクト(出来ればいいなぁ)、その 後16:00頃からお互いの世界を発表する反省会、という形を取った。あ、あと最後には当然懇親会が待っていたが。

動機・人数
 さて、10:30から実際にお互いが分かれて世界構築を始めたわけだが、我々のチームでの「宇宙に乗り出す動機」は「社会から迫害された(と思ってい る)科学者達」ということになった。具体的には、この世界では「宇宙、特に恒星間に乗り出すことは宇宙の汚染に繋がるので、やってはいけない」という考え 方に支配されているとした。その中で知的好奇心を持つ科学者の一部は迫害され、この星を出ていくために恒星間宇宙船を建造し、母星に戻るつもりはない、と いう設定とした。他には以下のようなものがモチベーションとして考えられていた。
移民、学術研究、資源探査、交易、観光、本能、仕事(TV特番、映画)、公共事業、(宇宙船を飛ばすこと自体が目的)、犯罪者を追跡、宇宙船事故、私は逃亡者。

そう言う意味では「私は逃亡者」が選択されたわけだが、社会から迫害されたために逃げ出した科学者達という選択肢以外には、
1)選民思想を持つ人々
2)政治闘争に敗れた思想犯
などもあった。ある意味では無難なところに落ち着いたとも言える。

次に逃げ出した人数であるが、これはコールドスリープなどの技術的支援があるかどうかは別として、冬眠をする陸棲の種族で、さらに普段起きているのは 20人程度だが、宇宙船全体では1000人程度が脱出した事にした。こんな状態だから宇宙船は1隻だけしか建造できないであろう、ということだ。

外見
 さて我々の外見だが、これは「人間よりも低い!」というのがみんなの一致した意見であった。そのため様々な検討結果から身長70cm、体重10kg程度ということになった。丁度机の高さくらいが良いのかねぇ、というわけだ。
そしてベースとなる生物として「クモザル」が挙げられた。何のことはない、何か物を掴んだり出来るしっぽが欲しかったのだ。しかもしっぽの位置もお尻ではなく、頸の下、肩胛骨の上あたりとされ、長さは「ダランと垂らした時に地面につく程度」となった。
さらに話は続く。続いてしっぽの先に触覚以外の感覚器を付けたい、という話が持ち上がった。そこで光、赤外線系の光学センサーか、それとも嗅覚・味覚の 統合された化学センサーのどちらにするかで投票が行われ、後者が取り付けられた。これにより相手を「味」で判別できるようになり、場合によっては相手の体 調もわかるんじゃないか、という話も出てきた。これは後ほどのコミュニケーションに大きく関わってくる。
最後に表面はどうなっているかが検討された。けっこう奇抜なものが提案されたが、最終的に採用されたのは「ハリネズミのような針で覆われている」であった。色は赤褐色。
ちなみにボツネタは「毛」「鱗」「角質層」「人間のようなソフトスキン」などがあった。あと「鱗粉」というのもあったが、さわると手が粉っぽくなると か、半導体が作れないのでは、という意見が出てボツになった。これは「構造色」になっていて、見る角度によって色が変化して見える、というネタから発展し たものだった。
こうして我々の外見が決定された。しかし一体どんな進化圧を受けたら、こんな知的生命体になり得るんだろう?不思議だ。


生態・コミュニケーション手段・タブー

 樹上生活であるからして、音でコミュニケーションを取っているであろう、とされた。設定としては「声帯が弱くて大声を出せないので、楽器を使うことにより意志の疎通を図る」ということになった。つまり楽器は人間で言う「印刷術」にも匹敵する大発明だったのだ。
生態であるが、卵生であり、産まれた卵は管理するが、孵化した後に生き延びられるかはその個体の生命力に任されることとなった。つまり弱い個体は早期に 死んでしまい、より強い個体だけが生き残るのである。そして生き残った個体には、コミュニケーション手段である楽器が手渡されることとなった。
しかしこれでは楽器が手渡されるまではどうやってコミュニケーションをするのか?が問題となる。また両性具有とされたため、誰が子どもの面倒を見るの か?も議論された。その結果、かなり大きな家族集団(20~30人)を取っており、子どもは家族全体で面倒を見ることに。その中では身振り手振りで意思の 伝達が行われ、もっと親密な場合にはしっぽの先端を絡ませあうことで、意志疎通を図ることにした。

ここからコミュニケーション手段が整理され、最終的に決定されたのは
1)大変親密な間柄ではしっぽによって単純な情報伝達が行われる。
2)友人レベルであれば身振り手振り(踊り)によって意思が伝達される。
3)他人の場合は楽器による音(音楽)で情報伝達が行われる。
4)情報の記録には楽譜が用いられる。
などとなった。
さらにタブーも設定された。当然の事ながら、「知らない相手のしっぽを触ること」となった。大変失礼なことであり、ある意味「セクハラ」だということになった。
しかし気がつくと「知らない人との間ではピープーと音楽を演奏し、友人や家族との間では踊りまくり、恋人や夫婦間では尻尾を絡めて黙っている」という、 奇妙な世界が出来上がっていた。しかも「嬉しいとき」だけではなく、「怒ったとき」も「泣いているとき」も小躍りするのだから、油断の出来ない種族だ。

その他の設定
 コンピューターの発達に伴い、普段はシンセサイザーを使っている。その音色は個体別に異なっており、それを思い思いにチューニングする事が個性を主張す る事にもなっている。また生楽器はほとんど使用されていないが、フォーマルな場では生楽器を使用することが礼儀であるとされている。これらのため、彼らは 服は着ていないが、普段から楽器を着て生活している。
またしっぽは普段肩にかけられていて、どちらにかけるかによって、その個体の利き手(?)がわかる。あと残った設定として、彼らは自分たちの種族のことを「しっぽが風を切る」音から「ヒュンヒュン」と呼んでいる。
以上のようなことが決まった。

プレ・コンタクト
 14:00から通信によるプレ・コンタウトが始まった。それに先立つ状況を説明すると、我々が目標としている星系の第2惑星軌道上に異星人の宇宙船4隻 を、さらに第4惑星に向かいつつある宇宙船1隻を発見した。我々にとって、ショックが大きかった。何故なら、ここには過去の観測から知的生命体は存在しな いと考えられていたからだ。
「原住民がいたのか?もしかして我々が母星を離れて120年。その間に電波を使い始めたのだろうか?」
「いやいや、もしかしたら別の星系から来ているのかも・・・」
我々は各惑星の地表をくまなく走査することにした。同時に既に減速フェーズに入っており、1ヶ月ほどで第2惑星に到着してしまう。当然相手からも逆噴射 の光は見えているはずだ。敵対行動を取るつもりはないことを相手に知らせなければならない。我々は通常のコンタクト手順である「素数列」「四則演算記号・ 論理演算記号」「元素周期表」をデジタルと我々の音楽とで発信した。音楽はAM変調により送ることとした。
音楽を送ることに対しては異論もあったが、1ヶ月という短期間しかないため、相手の警戒心を和らげるための努力は惜しむべきではない。情報は出来るだけオープンにしようということで、送ることにした。

相手から返事が返ってくるまでの間に、各惑星の表面の様子が明らかになり、どこにも文明の痕跡はないという結果が出た。つまり彼らは原住民ではなく、他 の惑星系からやってきていたのだ。しかも宇宙船5隻で!きっと彼らの母星にはもっと数多くの宇宙船があるに違いない。我々の敗北感は高まった。何とか穏便 に第2惑星の端っこを分けてもらうのだ。もしそれが出来なければ、我々は再び別の星系を目指すしかない。

しばらくして相手側がなにやら行動を開始した。第2惑星の軌道を巡る4隻の宇宙船が発光信号を送り始めたらしい。だがいくら解析しても何のメッセージであるのかはわからなかった(あとでわかった話だが、ただのネオンサインだったらしい)。
それに続いて返事が返ってきた。周期表の中でタンパク質を作る記号だけをチョイスしたものが届いたのだ。どうやら炭素系生命らしい。しかし何故これだけを送ってきたのだろう?もしかして我々を食べるつもりなのか?憶測が飛び交う。
さらに、我々の音楽がなにやら変なアレンジを加えられて返ってきた。早速聞いてみるが、全く意味をなさないモノになってしまっている。一体何なのだろう、これは?どうやら単なる音としてしか認識されなかったようだ。

しかし第1段階としてはまずまず成功なのだろう。さてでは次はどうするか・・・取りあえず適当に距離を置いて、交信を続けることにした。問題は我々の船をどこに泊めるかだが、よくわからない相手とはまず音楽でやりとりをしたい。そこで
1)第6惑星付近
2)第3惑星付近
3)第2惑星と恒星の作るラグランジュ点
が候補として挙げられ、最終的には3)が選択された。早速相手に対してその旨、メッセージを送る。
だが、返ってきたのは「第2惑星に来て欲しい」というものだった。それも4隻の宇宙船からではなく、地上からである。
「これは罠だろうか?」
しかし罠と決定づけるだけの決め手もない。母船はラグランジュ点に向かい、着陸船のみを第2惑星に送るという提案もあったが、「相手の機嫌を損ねたくな い」という理由で、母船で第2惑星に向かうことにした。とはいえ停泊したのは静止軌道の3倍の距離であり、そこから着陸船で地表に降りることとした。同時 に次の運行当番を起こすことにした。

コンタクト
 着陸船には志願した者だけが乗り込んだ。いわゆる「決死隊」だ。なにしろ相手は何を考えているのかわからないのだ。いきなり食べられるかも知れない。だが、出来る限りの礼節を保つべく、全員が生楽器を着ていくことにした。
そして着陸。決死隊から送られた画像を見て、我々は息をのんだ。おおよそ単一種族とは思えない、多様な形をした生き物たちがそこにいたのだ。羽を生やしている者があれば、角を生やしている者、大きさも1mからもっと大きいのまで様々だ。
「もしかしていくつかの混成種族か?」
とも思った。だがどうやら同じ言葉を喋っているらしい。
決死隊は勇気を奮い立たせて大地を踏みしめた。そして我々の挨拶を音楽と踊りとで送る。相手が喜んだ(ように見えた)。そして次々と近寄ってきては「ワ レワレ~、ワレワレ~」と言っている。何の事だかわからない。しかも音を鳴らす者、点滅している者や濡れてくる者までいる。
「一体何なんだ、こいつらは?!」
しかも油断すると触ろうとするし、呆気にとられている者は、どこかに連れて行かれようとする。しかも不躾なことに彼らはしっぽを触るという蛮行に出た。
決死隊はパニックを起こし、全員慌てて着陸艇に逃げ帰った。
「もう帰る!」
と泣き出す者までいる始末。これは大変なこととなった。

軌道上に残った者は次第に落ち着きを取り戻し始めた決死隊と協議し、相手に触られた者の体から得られるDNAサンプルを解析すること、相手が流し始めた 何か(情報、おそらくは彼らの言語を伝えるもの)を解析すること、を決死隊が行い、その間に船は燃料補給を行うこととした。
そして船が帰ってきたときには、決死隊は相手の言葉を理解し、話が出きるまでになっていた。そこで、我々は再び相手との対話を行うこととした。ただし今度は着陸船から出ず、スピーカーを通じてである。
その結果として、
1)どうやら相手は単一種起源で、体を改造している間に多種多様な外見を持つようになった
2)第2惑星にはそんなに長く留まるつもりはなく、我々がドーム都市を建設したり、テラフォーミングを行っても別段問題がない
3)他の種族の体の一部を遺伝子レベルで組み込むことが好きで、我々の遺伝子を欲している
などがわかってきた。
折角なので我々のや動植物の遺伝子サンプルを提供する事にした。ただし、相手は我々との直接交配をしつこいほどに求めてきたが、
「将来的にそう思う者が出てくるかも知れないが、いまはまだそういう者はいない」
とだけ告げた。彼らの中の一人が
「今度は我々の大きなベッドも是非見に来てください」
という言葉を最後に対話は終了した。

反省会
 どうして同じような条件設定で始めたのに、隣の部屋と我々の部屋ではこうも異なる異星人となったのだろう?不思議で仕方なかったし、相手についてはわからないことだらけだった。
だがここで謎が解けた。彼らは知的好奇心が文明を発展させた我々と異なり、「如何にして自分の体を変化させるか」「如何にして突然変異するか」を文明化 の原動力としていた。そしてこの惑星にも「ハネムーン」に来ていたらしい。我々は今まで見たこともない新しい遺伝子資源であり、交配することにより変化し た子孫を残したかったらしい。

今回のFCSは「出会い系イベント」であったが、某スタッフの言葉を借りれば
「厳格な親に反発して家出した箱入り娘 VS 女の子といいことする気でアパートに部屋借りたばかりの派手な格好のナンパ野郎」
ということだったようだ。その後行われた懇親会はお互いが使わなかった(使うところのなかった)裏設定の交換会となったことを伝えて、筆を置きたいと思います。

 

ワ・レワレ側 小川一水さんのページ
ヒュンヒュン側 渡部義弥さんのページ
ヒュンヒュン側 野田令子さんのページ
ヒュンヒュン側 湯川光之さんのページ

CJ4アフターレポート ~Dチームの戦い~

1.遭遇
 西暦2050年1月。人類は初めて異星人からのメッセージを受信した。それは核融合エンジンを使った可視光モールス信号とも言うべきものであった。この 技術に驚嘆した人類は、早速コンタクトを行うため、太陽系開発機構(SSDO)の下部組織として異性文化交流委員会(ETCEC)を設立。コンタクトのた めの準備を始めると同時に、国連宇宙軍(UNSF)が「抜け駆けコンタクト」防止に全力を注ぐこととなった。

2.第一印象
 西暦2051年1月。前年から送られてきたいた友好メッセージの後に、いきなり足し算の三択問題を2問受信した。次いで2052年1月には後に問題となる「第4メッセージ」を受信。しかもこれが意味不明であったため、
「何となく高飛車な異星人だな。もし第2、第3メッセージが足し算なら、こっちの知的レベルを測っている、という事だろ?普通、友好メッセージの後にいきなり知能テストを送ってくるか?」
という印象を持つ。
それもあってか、我々は情報を出し惜しみすることに決定し、友好メッセージを返さなかった。これがのちのち問題になってくるのである。
取りあえず、第4メッセージの意味が全く分からなかった我々は第2、第3メッセージが足し算であるかどうかも自信がなくなり、これを確認すべく、第2、 第3メッセージが足し算であった場合の正解と、新規にもう一問、足し算問題を作成して返信。第4メッセージは返事を保留した。
上記の返答を2052年1月からまず電波で送信し、続いて6月からは完成したばかりのレーザー送信設備を使用して可視光線による送信を開始した。

3.問題の第4メッセージ
 さて、この第4メッセージについて我々が議論した様々な可能性について、ここで語っておきたいと思う。
出ていた可能性として最も可能性が高いと思われていたのは「DNA説」である。あの形が二重螺旋に見えるというものであった。この説はもちろん、後から考えてみれば正解だったわけだが、「じゃあ、どう解釈するのか?」が問題となり、結論は出なかった。
他には、前2問が足し算であったことからして、何らかの数値演算ではないのかという可能性が検討された。かけ算、割り算などである。しかしどのように解釈しても解けそうにはなかった。特に3つ目の選択肢枠に何も無いのが理解できなかった。
いずれにしてもこの返答が大変な意味を持つに違いないことは理解できた。次第にDNA説が優勢になるにつれ、
「『食べても良いですか?』じゃない?」
「いやいや、『寄生してもいい?』かもよ。」
「『交配しましょう』だったらどうする?」
「どれが?」
「・・・・・・・」
という議論が進展していった。少なくともここで出てきた3つは、みんなどれもイヤだったので、もっと慎重に情報を集めてから返答をすることにしたのだ。

4.プローブ発射といやがらせ?
 西暦2053年1月。相変わらず第4メッセージは流れてきている。しかし、我々には質問の意図が分からないため、取りあえずは無視し、完成した探査プ ローブ「スーパー・ボイジャー」を送り出した。予定通りであれば2060年に到着、2061年には相手宇宙船のイメージを得られるはずだ。一応スーパー・ ボイジャーには可視光線カメラ、赤外線カメラ、レーダー、レーザー送信機、X線検出器が搭載されているため、宇宙船の姿以外にもレーダーによる形状マッピ ング・データも得られると期待されている。
翌年、第4メッセージが止まり、全く情報が流れなくなってくる。こうなってくると我々には打つ手がない。しかし、ここで
「これまでは相手に主導権が握られっぱなしではないか。ここで我々のペースでコンタクトを進めるための手順の開発を行い、ついでに礼儀を知らない異星人に、礼儀ってやつを教えてやろう!」
という意見が出て来たので、数値の表し方と四則演算・論理演算記号を開発。例題をつけて送信することにした(表1及び図1)。
まぁ、ここまでは普通なのだが、少しやりすぎたかなと思ったのは(どうやら後々相手の気分を害したらしい)、数値を1から1000まで計1000枚、そ れぞれの例題というかなんというかを100問ずつ送りつけた事であろう。四則演算各100問、真偽判断100問、疑問符100問で計600問。トータル送 信枚数、なんと1600枚!要は小学校の夏休みの宿題に出てくる算数ドリルを送りつけた様なもんである。もちろんこの新プロトコルを用いて、ちゃんと第4 メッセージに「?」をつけたものも送った。
ちなみに演算記号は3×3ドットの記号を基本とし、表1のようになっている。特に「?」はカタカナの「ト」の形に似ていることから、我々はこの後質問をするときには、首を傾げて「ト?」と言うようになった。

5.平穏なひととき
 西暦2055年から2057年までの3年間は、平和で、まっとうなコンタクトが行われていたと考えて良いであろう。
2055年には最初の質問に対する返答があった。どうやら第2、第3メッセージは足し算でよいらしい。しかしすると第4メッセージは?相手からは返事を 催促するかのように、再び第4メッセージが送信され始めた。と、同時に何か(おそらくは相手側のプローブ)が発進、地球をフライバイする旨が送られてき た。プローブと判断した理由としては、相手の宇宙船が移動した様子がないこと、さらにはフライバイである以上、もし宇宙船本体であっても、特に脅威とはな らないであろう、という判断があった。我々はプローブのフライバイに関してはOK、第4メッセージは「├」を再び送信する。
翌2056年、我々は嫌がらせとも思える「あの」ドリルの答えを受け取る。どうやら理解してくれたらしい。
「これでこちらのペースでコンタクトが出来る」
と一同の顔に満足げな笑みが浮かぶ。
同時に第4メッセージが再びやってくる。どうやら本当に重要らしい。しかしわからないものは返事のしようがないので、取りあえず
「こちらのプローブが2060年に到着に到着すること」
「年と大きさの単位」
「そちらのプローブ到着は何年か?」
を送信し、第4メッセージはひたすら無視する。
さらに翌2057年。彼らに関する詳しい情報が全く存在しないことを鑑み、彼らの背後に「グルームブリッジ1618(以下GB1618)」が存在するこ とから、両者の関係を質問すると同時に、軌道天文台を動員してGB1618の集中観測を開始した。その他周期律表と我々の体を構成する元素の一覧を送り、 相手がどのような元素で出来ているのかも質問した。また、小惑星帯に観測施設を増設し、レーザーの送信設備も強化した。
しかし、そんなゆったりとしたコンタクトに一石を投じる出来事が、同年12月末に発生した。何と、質問を送っていた相手プローブがフライバイしたのである!ここから狂乱怒濤のコンタクトが始まろうとは、誰も予想できていなかった。

6.コンタクト・ベース建設開始
 西暦2058年。相変わらず第4メッセージは届いている。と同時に、異星人の宇宙船から地球に向けて伸びる一本の線が入ったメッセージ。
「え?これは地球を訪問したいと言うこと?」
我々は慌てた。相手の目的もわからない。第4メッセージの意図もわからない。相手の母星も生態も何もわかっていないのである。こんな状態で訪問されても、 こちらは何の対処も出来ない。さらに付け加えて言うなら、もし侵略の意図があったら、いやそこまで言わなくても地球に彼らが住み着き、我々のテリトリーと 重なって問題が起こったら・・・
この時彼らからは彼らの姿、大きさ、二重螺旋のDNA構造らしきものが描かれたメッセージも受け取っていたので、もしかしたら同じ様な代謝機能を持って いるかも、という判断が成り立ちつつあった。一応DNAらしきものが地球人と同じであるかどうかを問い合わせるべく、我々の体を構成している物質の一覧を 元素周期表とともに送信する。あとは「来訪したい」というメッセージに対する返答だが・・・
「さすがにいきなり地球に来られるのはまずい。どこか別の場所でコンタクトを行うべきだ。」
委員会の意見は一致した。候補は木星か土星(冥王星という話もあったが)であったが、現状の設備や生産能力を考慮した結果、木星軌道上にコンタクト基地を 建設。そこでファーストコンタクトを行うことに決定した。そして「木星軌道上でコンタクトを行いたい。地球まで来ずに、そこで止まって欲しい」という旨の メッセージを送信する。もちろん絵だ。
同時に「いざ」という時の対応も議論された。もしそういう場合に陥ったときは、木星コンタクト基地を爆破、もしくは木星に突入させてしまう。というもの だった。同時に異星人の宇宙船がコンタクト基地に近づかなかった場合を考慮して、コンタクト基地周辺及びガリレオ衛星にレーザー砲台の建設も始める。この 場合、保険は多いに越したことはない。使わなかったら太陽系内のレーザー推進ネットワーク用に整備し直せばいいのだから。
ついでに報告すると、ここで彼らの愛称が決まった。
「この絵(図2)って、王監督の顔に似てるよね。」
「じゃあ『王星人(わんせいじん)』か。」
「そういや王監督って、昔ナボナのコマーシャルに出てたね。」
「よし、『ナボナ星人』だ!」
「『ナボナ星人は宇宙のホームラン王です』ってか?」
平和な一コマであった。

7.プローブ、軌道変更
 明けて2059年、プローブの到着まであと1年と差し迫ったところで彼らの母船は1AUほど移動した。これではプローブは宇宙船に接触出来ない。しかし 減速用の燃料を使い、すぐに方向転換を行えば、フライバイは出来る。フライバイが出来れば宇宙船の姿だけは捉えることが出来る。
問題は方向を変える命令を送るかどうかだった。これは異星人が「何故宇宙船の場所を移動させたのか?」がわからなかったことによる。当然委員会では様々な意見が出た。
「GB1618との関係を否定するため」
「(見られるとまずいものがあるので)自分たちの船を見られたくなかった」
「いやいや、実は背後に大移民船団が隠れていて、それを見られたくないので陽動で動いた」
などなど。
ここで再び相手の来訪目的が議論の的になった。どうやら体を構成している元素もほぼ同じようだ。しかしあの姿は?もしかして水棲、しかも卵生ではないの か?とすれば地球来訪目的は移民なのではないか?そこまで議論が進んだとき、委員会は大移民船団を警戒する決定を下した。だがそのまま直進させて移民船団 がいなければ、相手の姿を捕らえることすら出来ない・・・
結局プローブは軌道を変更し、移動した宇宙船へのフライバイを試みることとなった。もし相手がそのままフライバイを許せばGB1618との関係を否定し ただけだったのだろう。だがもし再び位置を移動し、元の位置に戻ったならば、それは移民船団の存在を示唆するものかも知れない。プローブを2機打ち上げな かったことが悔やまれたが、もうそんなことを言っていても仕方がない。これは我々にとっての教訓となったのだ。
しかし相手の意図を知ることは重要な要素であることには違いはない。そこで論理演算までは共通基盤が出来上がっているので、今度は名詞と動作を表す動詞 を辞書として送る。ただし動詞は異星人側との動画のフォーマット及びプロトコルの仕様を決定できていなかったので、止むなしに2枚の連続静止画で代用し た。
また、彼らの故郷として「うみへび座βⅡ(以下HyaβⅡ)」が急浮上してきたため、GB1618に向けていた観測網をHyaβⅡに変更。さらに20光年以内にある惑星系の観測を強化した。

8.デフコン2発令!
 西暦2060年、いくつかのメッセージを受信したが、今度は我々人類と彼らが向かい合って何かをしてる画像が送られてきた。話し合いか?それとも・・・
「食べてもいい?って聞いてるんじゃない?あのお腹って口みたいに見えないこともないし・・・」
という意見も飛び出したが、そんなのは平和な解釈が出来るメッセージであった。
何と彼らは木星でのコンタクトを拒否。しかも地球上での共存と思えるものと、どう見ても地球を明け渡すよう求めているとしか思えないメッセージを送信してきた(図3)。地球に一緒に住まわせてもらうか、もしくは地球から出て行けと言うのか・・・
「やっぱり移民だ。しかもこれは侵略だ!」
ここにきて委員会はデフコン2(臨戦態勢)を発令した。異星人にはこの提案を拒否、木星でコンタクトしたいとする旨のメッセージを送信すると同時に、人口はどの程度なのかという問い合わせをも発した。相手の数が1万人と10億人では全く対応が異なるからだ。
同時に、太陽系内の防衛網を強化するべく、急いで地球及び火星の衛星軌道上に十数基のレーザー砲台群、通称「アルテミスの首飾り」の建造を開始した。宇 宙艦隊構想もあったが、先のプローブの性能からおそらくまともな艦隊戦などは不可能であろうと判断。何かあった場合には水際で叩くことにしたのだ。
さらにスペクトル観測からHyaβⅡを巡る惑星に水蒸気の存在を確認した。どうやらここが彼らの故郷らしい。だが、彼らが水棲であるほど水が豊富なのかどうかはわからなかった。
とは言え、この年、人類と異星人とのファーストコンタクトは急転直下の展開を見せ、一触即発とも言える状態に変化した。

9.辞書交換、そして和平の模索
 このように、委員会内からはハト派がほぼ一掃されてしまったが、一縷の望みを残してはいた。
「もしかして彼ら一流のジョークか、我々が相手のことを理解できていないことに端を発する誤解ではないのか?」と。
だが、プローブが相手の映像を捕らえたであろう2061年、彼らはこの期待を裏切った。いや、地球人は「裏切られた」と感じたのだ。
彼らは姿を見られないよう最初に移動したのと同じ方向に、さらに1AU移動。 「やっぱり大船団が?少なくとも彼らは見られたくない、またはこちらとの普通のコンタクトは望んでいないのでは?」
という憶測が飛び交う。肝心のプローブも目隠し同様に全ての情報発信・受信機能を殺された上、相手に拿捕されてしまった。当然我々の技術レベルも完全にバ レたことになる。もっとも急造の寄せ集めプローブであるから、若干旧式であるし、完全に情報を把握されたわけではない、と自らを慰める。
だがそれだけでは終わらなかった。彼らは「8年後に到着する」というメッセージの送信と同時に、地球に向かって移動を開始したのだ。こちらも慌てて、再度地球来訪拒否と木星でのコンタクト要請を発信。
少し時間が経った。我々の頭に昇っていた血も少し下がったのだろうか。それとも一旦休憩して食事をしたのが良かったのだろうか?(実際、ここで3日目の食事タイムが重なった)
「我々は相手のことを何も知らないに等しい。迎撃体勢に関しては一定の準備を始めたのだから、もう一度、出来る限り交渉事は続けるべきだ。少なくとも戦争になるにしても、向こうの情報は多いに越したことはない。」
という意見が出てきた。それならば、と委員会では相手に是非訊きたい内容を検討。その結果として、
1)辞書を送って欲しい
2)(水棲かどうかを確かめるために)水とはどのような関係なのか?(図4)
3)こちらの人口を送るとともに、相手の人口を尋ねる
ことにした。
「まったく、ガガーリンが初めて地球を飛び出して100年目の記念すべき年だというのに・・・」
そんな言葉がむなしく響いた。

10.基準策定
 続いて我々委員会は2つの問題に限っての議論が展開された。
1.もし平和的に移民を希望してきた場合、彼らを地球に受け入れるのか?
2.もし相手が木星でのコンタクトを拒否し地球に向かった場合、いつ発砲するのか?
である。
一つ目の問題は
「人数が少なく、向こうが海に住むのであれば、受け入れても良いのでは?」
という意見が出たが、
「地球の魚を食べ尽くしたりはしないか」
「彼らの母星から動植物を持ち込まれ、生態系が破壊されてしまうのではないか」
などの意見が出て、これは却下することに。では地球以外の天体ならばOKなのか?様々な議論はあったものの、ガニメデやカリストならば良いのでは、という意見が優位であったため、この方向で調整が進んだ。
続いて2つめの方であるが、こちらは結局月軌道より内側に入った段階で攻撃する、という事が決まった。あまりにも地球に近づけすぎれば、卵を載せたカプセルをばらまいて去って行かれるのではないか、という事態を警戒したのだ。
その段階で
「もうなんか、相手が近づいてきたとき、問答無用で撃っちゃって、全てなかったことにしない?」
という弱音も出てきて、思わずみんなの心が揺れたのも事実であった。がみんなを正気に押しとどめたのは
「でもさ、これが母星を失った難民だった場合、寿学先生から『君たちはなんて事をしたんだ!一つの文明を滅ぼしてしまったんだぞ!』って怒られるんじゃない?」
という一言であったことを、ここで付け加えておく。
話が横道にそれたが、何はともあれ、これらの方針に沿って2061年10月に第2のコンタクト基地を月の孫衛星軌道に建設し始めた。だが相手から送られてきた人口を見たとき、委員会では「地球への移住は絶対拒否」の方針が強まった。彼らからの回答はこうだった。
「宇宙船には12人、母星には600億人」
委員会全員が絶句した。
「600億ぅ?!」
「こいつら絶対卵産んでるな。」
「しかし、12人だけとは好都合。いざとなったらあの船を沈めて、何も無かったことにしよう。」
「そうだそうだ。これならそんなに大げさな武装はない。勝てる!」
こうして我々はトリガーに指をかけることを前提に、様々な懸案を片づけていった。

11.最後通牒
 西暦2062年。ついに小惑星帯に配置された観測機器群が相手の宇宙船の姿を捕らえた。大きさは1kmほど。車輪形をしていることから回転により疑似重 力を発生させているようだ。どうやら重力制御の様な技術は持っていないらしい。それなら万が一戦闘に鳴った場合も我々にも勝ち目がある。しかも向こうには 12人しか乗っていない。好都合だ。
しかし相変わらず、木星でのコンタクトを求めた通信に対しては返答がない。どうやら本気でこの件は無視するつもりらしい。しかし「アルテミスの首飾り」 建造開始から2年。こちらの作業工程は順調であることだし、対応も発砲基準も明確になった。では無視されるかも知れないが、一応「最後通牒」を行うことに した。それは
「月軌道にて停止されたし。なおこれより内側に侵入した場合、攻撃・撃破する」
という内容を絵で表したものだった(図5)。そう、未だに我々は辞書交換が成立しておらず、相手に絵でメッセージを送るしかなかったのである。残念なことに。
さらに「撃たずに済む」理由を探すために
「地球来訪後、そのまま帰る気はあるか?」
という質問もしてみた。帰る気があるなら、無益な殺生はしなくてもいい。
半年後、彼らからの辞書が到着した。名詞だけではあったが、少なくとも全く交渉に応じる気がないわけではないらしい。さらには
「水との関係」
を問いただしたメッセージについての返答もやってきた。これは残念ながら我々の期待を裏切り、水がないまたは水が少しある環境、つまり陸地が良いというものであった。
「なら別に地球でなくてもいいんじゃないの?」
そう言う疑問を誰しもが持ったが、結局木星でのコンタクトの件だけは最後の最後まで黙殺されたままだった。
誰かが言った。
「もしここで撃たなかったら寿学先生から『何で撃たなかったんだ!君たちは地球人類を滅ぼす気か!』って怒られるんじゃないかなぁ・・・」
もう力無く笑うしか出来ない委員会一同であった。

12.緊張緩和、そしてコンタクト準備
 彼らが到着するまであと1年と少し。現在は慣性航行中であるが、冥王星軌道の外側から減速しながら太陽系に侵入してくる彼らの宇宙船は、1年後には誰で も見えることになるだろう。撃破するなら相対速度が0に限りなく近づいたところが良い。しかも母星に応援を求める間もなく、一撃で破壊することが望まし い。そしてそのポイントは月軌道をから内側に入った瞬間あたりだろう。
防衛軍の司令官らとの綿密な打ち合わせが続く。
「エンジンだけを狙えないか」
「ノズルさえ使い物にならなくすれば、航行能力を失う。拿捕が可能なのでは」
などという意見も出たが、基本的には「撃破」の方向で調整が進んだ。
「キューバ危機の時のケネディ大統領も同じ気持ちだったんだろうなぁ。『頼むから止まってくれ。でなければ戦争覚悟で攻撃だ』ってね。」
などとも思った。
そして緊張の解ける時が訪れた。コンタクト基地完成とともに、まるでタイミングを狙ったかのように、
「帰るつもりあり」
「月軌道停止OK」
のメッセージが届いたのだ!
委員会全員の口から安堵の溜息が漏れた。我々は戦争を回避できるかも知れない。少なくとも最初の山場は越えたのだ。
だがそれを喜んでばかりはいられない。あくまでも停船に応じてくれただけで、相変わらず移民を求めている事以外は謎のままなのだ。一体どんなメンタリティを持つ種族なのか?平和的につきあうことは可能なのか?
防衛軍司令官の指は未だにトリガーに掛かったままだ。しかも「念には念を」と、月面に資材打ち上げ用のマスドライバーという名目も兼ねて、レールガンを設置する事に決定。早速建設が始まった。「闇討ち1号」という話もあったが、一応ボツになった。

明けて2063年、相手から「1AU離れたところに停船し、代表2名を送る」というメッセージがやってくる。早速「了解した」というメッセージを返信する。
さらに「アルテミスの首飾り」が3年の歳月を経て遂に完成。10月には月面上に建造中だったマスドライバーも完成し、ハード面ではファーストコンタクトの準備が全て整った。

13.ファースト・コンタクト
 さて、では次の課題はソフト面である。一体何を交渉するのか?相手にガリレオ衛星を引き渡すなら、何を見返りとしてもらうのか?それよりなにより、最も重要なファーストインプレッション(第一印象)をよくするためには何をすれば良いのか?
そこでまず人員は基地全体で100名ほど、交渉には向こうと同じ2名で当たることにした。そして何かあった場合はあらかじめ仕掛けてある爆弾で基地ごと 宇宙のチリになってもらう事にした。さらに同時に地球及び火星周回軌道上の「アルテミスの首飾り」全機をもって、宇宙船を攻撃することも決定した。
交渉に当たって決めたのは以下の内容である。
1)出迎える時の挨拶は、「右上肢を上に、左上肢を下に」という相手の挨拶とおぼしきポーズ(図6)で歓迎する。
2)来訪目的を問いただす。もし移民であれば、地球への移民は拒否、ガリレオ衛星ならば条件によってはOKとする。
3)移民を認める条件としては、宇宙船またはその設計図などの引き渡しを求める。これはいざというときのために、我々が恒星間航行能力を獲得するためである。
4)問題の第4メッセージについてはどういう意味があるのかを再び問いただす。
それ以外は協議期間を設けて互いに持ち帰って協議することとした。

西暦2064年1月。人類はまさに世紀の瞬間を迎えた。やって来た異星人に対し、例のポーズを取る。それに相手も応えた(図7)。
「やった、成功だ!」
我々は確信した。
しかしここから先は大変だった。彼らは「スペースコロニーを提供する」という提案を拒否。あくまで地球への移民にこだわる。ガニメデへの移住は了承した ものの、「テラフォーミングを地球人側で行って欲しい」と条件が付く。見返りとして求めた「宇宙船またはその設計図」は拒否される。
これらのことを全て絵で交渉しなければいけない。我々委員会は地球人の英知を傾け、「Question & Answerボード(仮称:図8)」を開発していた。これが実際の交渉を円滑に進めた「縁の下の力持ち」となったのは言うまでもない。
交渉はさらに進んだ。交渉の際に尋ねた彼らの繁殖率は、予想を上回るものだった。「10人が100年後には何人になっているのか?」という問いには「10万人(!)」という返答。
「やはり地球には受け入れられない」
みんながそう実感した。
異星人は使節交換を申し込んできたが、我々にとって何もメリットがないと判断し、これはこちらが拒否した。
最後に
「これで立ち去るが、その際に攻撃する気があるか?」
という質問が出た。去る者をあえて撃つ必要もない。我々は「NO」を示した。満足したのか、彼らはそれを見て立ち去っていった。

14.結局アヒストとは・・・
 彼らは太陽系から去っていった。一体彼らはどういう種族だったのだろう?わかったことは以下のことだけだ。
1)水棲で、すさまじいまでの繁殖力を持っている。そのため母星の人口が爆発的に増え、移民先を探しに来た。
2)恒星間航行能力を持っている。電波は使わず、光通信のみを用いる。
3)秘密主義と言って良いほど自分たちの情報を明かさない。信頼関係を醸成する相手としてはいかがなものか?
去ってしまった彼らのことはこれ以上詳しいことはわからないだろう。だがいずれ彼らは大移民船団でもって太陽系に押しかけてくるに違いない。我々はその時に向けて、次の準備に入らなければならないのだ。

追伸.反省会
 Dチームを待っていたのは1枚の紙だった。
「彗星爆弾だぁ?!こんなもの準備してたのか!」
チーム全員が絶叫したのは言うまでもない。

追補.反省点、実際のファースト・コンタクトに向けて
 今回のシミュレーションで明らかになったことがある。それは以下の4点であろう。
☆辞書をどうするのか?(意志の疎通は簡単ではない。特に動詞)
☆相手のメンタリティー研究(勝手な思いこみを防ぐには重要)
☆技術差が大きい場合の外交戦略・戦術(もしくは地球防衛)
☆ミスの発生防止(送信時にチェックが甘く、ミスをしていた)
今後、この辺を検討し、FCSの精度を高める努力が必要だなぁ、と感じたCJ4でした。

時間銀行

 俺の一日はiモードで休講の状態を調べることから始まる。

 

「よーし、今日は三コマ目が休講か。と言うことは、十二時から十八時までは空きだな。」
早速時間銀行にある口座にアクセス。六時間を振り込む旨、予約を入れる。これで六万円のもうけ。残高を見ると三十万円ほどになっている。そこでそのまま株式投資のサイトに接続、前から目を付けていた会社に投資する。
時間の売買が出来るようになったのはつい最近のことだ。何でもアメリカだかどこだかの偉い学者が考えた「時空対称性理論」とかいうやつの応用として発明された。難しい理屈はよくわからないが、簡単に言うと、明日は忙しいが、今日は暇である場合。よく
「あー、この時間、明日のために取っておきたいなぁ」
とか
「明日にこの時間分を追加できたらいいのになぁ」
などと思ったことはないだろうか?実はそう言うことが出来るようになったのである。とは言え、一般人が使えるような安い機械はまだまだ存在しない。何十億円もする機械でのみ実現できるようなものなのだ。
そこに目を付けたベンチャーがあった。それが「時間銀行」だ。彼らはこの機械を購入すると、個人相手に商売を始めた。特にサラリーマンは暇なときと忙しいときの差が激しい。そこで暇なときに溜めておき、忙しくなると引き出すのだ。銀行自体はその利用料を取って儲けた。
そのうち、ベンチャー企業やゲーム業界などの、時間が足りなくてどうしようもない人に、学生や主婦など暇な人々から買い取った時間を売るサービスを始めた。俺が利用しているのもこれで、一時間を一万円で買ってくれる。ちなみに銀行が売るときには一時間を一万五千円で売っているらしい。
俺はこれに目を付けた。そもそも親からの仕送りはそんなに多くないし、どうせアルバイトをしないといけないのだ。しかしアルバイトばかりになってしまっては自分の時間を作ることが出来ないので、それはそれで困る。出来る限り時給の高いバイトを探したが、怪しい店で働くか、家庭教師や塾講師を捜すか・・・前者はヤバそうだし、後者はそんな頭がない。この大学だってやっとのことで入れた俺のような奴が、一流大学受験しようなんて奴を教えられるわけがない。逆に教えられるのが関の山だ。
話がそれたが、そんなこんなでバイトを探している最中に、この時間銀行のサービスを知ったわけだ。時間あたりの稼ぎがいいので、もう既に一年半も利用している。そして溜まった金は株に投資して、少しずつ増やすことにしていた。
え?仕事もせずに金を手に入れるのは問題?労働の喜びだって?心配なく。実際に俺の提供する時間を使って仕事をしている人がいる。実は感謝のメールも届いているのだ。時間銀行の良いところは、時間を売った人の所に、時間を買った人から「何に使ったのか」などの情報が入る点である。俺の提供した時間は、これまで人気ソフトのキャラクターデザインに使われたり、有名ワープロソフトの開発時間に割り当てられたりしている。お礼のメールも次々やってくるし、そうまでして出来た製品であれば、どんなものであるかも興味がわくし、実際いくつかの製品は購入もしている。かくいう、今使っている携帯電話も、その開発時間の一部は俺が提供したものだ。だいたい俺が手伝っても余計に時間がかかるだけだ。プロの人が作った方が早く、いい物が出来るに決まっている。そんなプロに時間を提供しているのだ。
とはいえ、そろそろこのサービスを利用するのも考え直さないと行けなくなりつつある。最近聞いた話だが、このサービスをよく利用している先輩は、いくら就職活動であちこちの企業をまわっても、内定が一つも出ないらしい。景気もずいぶん回復しているので、昔ほど就職は買い手市場な訳ではない。にもかかわらず、企業から断られる同様の人がかなりの数いるらしい。
企業が言っているのはつまりこうだ。
「大学生の間に何も身に付いていない。」
確かに言われてみればそうだ。趣味に打ち込み、特殊な技能を身につけたわけでなし、資格試験を受けまくったわけでなし、バイトで得るモノがあったわけでなし・・・。
しかし俺もあと一年。たった一年で何か身に付くだろうか?俺からのアドバイスだが、ちゃんと就職しようと思うなら、決して俺の真似をしてはいけない。タイムバンクから時間を買おうにも、それには今まで受け取った以上の金がかかるのだから・・・。まったく、世の中は上手くできている。
 

パソコン

 遂に会社からパソコンを渡された。銀色をしたA4の紙くらいの大きさで、厚みは三から四センチメートルと言ったところか。詳しい人間なら「A4型ノートパソコン」で通じるらしい。会社の若い奴に訊いたら
「液晶ディスプレイが目に優しい」
とか
「場所をとらない」
とかなんとか・・・いろいろ訳のわからん用語を並べ立てられた。まぁ、最近人気の機種らしい。
そういうわけで、
「取りあえず電子メールだけでも読めるようになれ」
とか会社の上司からは言われたが、なにをどうやって良いのかがさっぱりわからない。一応「コンセントの差し込み方」や「スイッチの入れ方」から懇切丁寧に書かれた、システム管理部作成のマニュアルと首っ引きになりながら、何とか動かし始めた。のだが・・・
「えーと、ここでパスワードを入れて・・・次にメールソフトを立ち上げると・・・。ん?パスワードは名前や誕生日は入れるな?うーん・・・ま、取りあえず名前でいいや、名前で。面倒だし。で、次はメールソフトか。ん?メールソフトってどれだ?アイコンをダブルクリック?なんじゃ?この『アイコン』ってのは?」
しかしなんだな。このマウスって奴はなんでこんなに扱いにくいんだ?手首が疲れてきた。クリックとか言う動作をさせられている指も攣りそうだし。しばしマウスから手を離し、右手をぶらぶらさせる。若い奴らはこんな事をしてないのになぁ・・・何か手首が疲れないコツがあるんだろうか?明日にでも訊いてみよう。
「なになに、『アイコンとは絵文字のことである』?ああ、このマークみたいなやつか。ダブルクリックってのは、このボタンを二回押すことね。」
マウスとかいうやつの左側のボタンを二回、そっと押してみる。反応がない。もっと強く押さなければいけないのかな?と思いつつ、もう一回、今度はちょっと強めに押してみる。しかし変化がない。
「動かないじゃないか。ん?もっと速く押さないとダメなのか?『素早く』とあるな。じゃあ、こうだ!」
今度は強めに、しかも素早く押してみる。するとパソコンの中から何やら「カラカラ」という音がして、画面が切り替わった。
「なるほど。これで動くのか。」
専門用語の羅列してあるマニュアルを読め、と言われても、こちとら携帯電話の使い方もよく分からないし、それよりビデオの予約も出来ないのだ。そういう人間に
「はい、これが詳しくやさしく書いたマニュアルです」
とか言ってダブルクリックだのデスクトップだの書かれたものを渡されたって、理解できるわけがないではないか!書斎に引きこもり、他の家族をシャットアウトしてから箱を開け、パソコンをいじり始めてから四時間と二十三分。私の不満はついに爆発した。
「だいたい何だ、この横文字の羅列は!日本人なら日本語を使え!」
とりあえず罵詈雑言と放送禁止用語や差別用語、神を冒涜する言葉などを十分ほども吐き出す。
「しかしまいったなぁ・・・こんな調子じゃ、俺はクビだよ。でも若い奴に訊くのもしゃくだしなぁ・・・あの『なーんだ、おじさん、こんなこともわからないの?』っていう目が気にいらん!でも何とかしないと・・・・そうだ!」
一ヶ月後、私はシステム管理部に転籍していた。しかもみんなが私に質問をしてくる。それに自慢げに答えることがどれだけ素晴らしいか!さらには元の職場の上司までもが私を賞賛してくれている。
え?一体何をしたかって?別に特別なことは何もしていない。やったことは、とりあえず使えるようになったワープロを使い
「誰にでもわかるパソコン・マニュアル作成に関する方法」
と題する企画書を書き、「ダブルクリック」を「二回押す」などと書き換えたページサンプルと一緒に上司に提出しただけである。
これが社内で大好評。今ではおじさん族の味方、救世主として私の書いたマニュアルは大ヒットしている。出版社からも「是非出版を」と言われているらしい。
え?私自身は使えるようになったのかって?まぁ、ぼちぼちだな。何しろわからなければ、マニュアル作成用に若い奴が手取り足取り、わかりやすく教えてくれるんだから。使うべきは頭だな。
 

通勤電車にて

 私はサラリーマン。四十二才、妻子持ち。毎日一時間五十分かけて電車を二つ乗り継ぎ、出勤している。当然朝はものすごく混む。満員電車というやつだ。今日はそんな私の通勤風景をお届けしよう。
ホームに電車が入ってくる。一本やり過ごしているので私は列の一番先頭に立っている。そのため私は確実に乗れるが、後ろの方に並んでいる確実ではない人々に押されて、だんだん前へと押しやられる。それを何とかくい止めていると、ようやく電車は所定位置に止まり、扉を開けた。今日も戦いの始まりだ。
降りる人は少ない。今日も場所が少ないことにがっかりしながら、取りあえず乗り込む。イテテテ、後ろからそんなにギューギュー押すな。おい、そこの若いの。リュックは背負うな、手に持て。痛いじゃないか。あ、くそ、今日はおばさんか。昨日は若い女性が前にいて、結構「ラッキー」とか思ったのに。おばさん、化粧濃いよ。香水の匂いでむせそう。何でそんなにきついのをつけるんだ?
そう思っているうちに電車は扉を閉め、やがてゆっくりと動き出す。ようやく車内も落ち着きを取り戻す。しかし何だな、あのウォークマンは何とかならないのかね。シャカシャカ音が漏れててうるさいったらありゃしない。何で誰も注意しないんだ?それに電車が揺れるたびに押しつけられるリュックも何とかして欲しいもんだ。
お?どこかで電話が鳴ってる。あ、あそこの若い女の子か。おいおい、この混雑の中だぞ。友達とだらだら喋る電話なんか切れよ。しかも大きな声で喋りやがって。周りの人も迷惑してるじゃないか。あ、今度はあっちでどっかのサラリーマンが・・・あいつは営業か。こんなところで挨拶まわりみたいな電話はやめろって。そこで頭下げてもわかんないってば。
はー、やれやれ。そろそろ次の駅だな。そこで電話も終わるだろう。お、減速が始まった。こらこら、ちょっとは耐えろよ、そこの人。このままだと俺が倒れるだろ。イテテテ・・・こらえろって!ふぅ、何とか保ったかな?あらあらあら?鞄が持って行かれる。引っ張り寄せないと。おいおい右腕だけがあさっての方向だよ。アイタタタ。そんなにギューギュー押されたって、もう乗れないよ。ほら駅員も言ってるだろ。それよりこの体勢を何とかしないと次の駅まで片足で踏ん張るのは無理だぞ。
あーあ、結局そのままになっちゃたよ。はやく次の駅に着かないかなぁ。だんだん右足が震えてきたよ。何とか左足にチェンジできないかなぁ。だめだ、鞄があっちに行ったままでビクともしない。
次の駅に着いた!ここで大勢降りるはずだが、この体勢のままだと今日もやばいぞ。おいおいおい、俺は降りないんだってば。そんなに押すなよ鞄が・・・あ、足が電車とホームの間に落ちる!こら、俺は電車に残るんだって言ってるだろ。そっちは改札へ向かう階段じゃないか。冗談じゃない。おれはあの電車に乗るんだ。まだまだ先の駅まで行かなきゃいけないんだ。おい、人の話を聞けよ!お前らそんなに雑然と改札に向かうと・・・ほら、あそこにも困ってる人がいるじゃないか。だーかーらー、俺は電車に、あ、発車のベルが鳴ってる。頼む、電車に乗らせてくれ!これに乗らないと遅刻するんだって!あ、すみません。違います!痴漢じゃないです!あの電車に乗らないと遅刻するんです!お願い、放して。うわ、こんな時だけ協調するな。うわ、なんか球団優勝じゃあるまいし、そんな、鉄道警察まで胴上げ状態ですか?ああ、これはこれで気持ちいいもんですねぇ・・・なんて言ってる場合じゃない!だから違うんですって、勘違いなんですって!

 今日も遅刻した。会社で怒鳴られるのはいつものことだ。なんで一時間で通勤できる距離なのに二時間近くかかるかって?そんなの毎日鉄道警察まで胴上げされてたら仕方ないじゃないですか。要領が悪いって?そう言われても・・・大体みんなはどうしてあんなにすいすいと満員電車の中を行き来できるんです?慣れ?コツ?他人を気にするな、ですって?私は他人の行動を気にするから嫌がらせを受けるんですか?でもあれはみんな困ってるじゃないですか。え、困ってる奴は嫌がらせを受け、無関心な人はそのまま素通り?そんなの狂ってますよ!え、狂ってるのは私?
明日から来なくていいって、クビですか?一体私がどんな悪いことをしたと・・・は?パソコンを使って在宅勤務?すると私の日常はどこへ行っちゃうんですか?え?通勤電車のない、家から一歩も出ない新しい日常が始まるですって?それもちょっと・・・何とかなりませんか?ねぇ、部長、部長ってば!
 

タバコ

目が覚めると、そこは異世界だった。別に望んだわけではないが、その世界ではタバコを吸う者が一人もいなかった。

 

最初に異変に気がついたのは、通勤のバスを待つ列でだった。タバコを吸い始めると同時に、周りにいる人々が異様な目で俺を見ているのだ。中には昨日まで吸っていた黒縁眼鏡のおっさんまでいた。
(何が珍しいんだろう?)
そのうちバスがやってきたので、タバコを足下に捨て、足で揉み消す。周りの人々の視線が痛い。
異様さは会社に着くとさらに大きくなった。机の上にあったはずの灰皿が消えているのだ。毎日二箱は消費する俺の机には、専用の大きいな灰皿を置いてあったはずなのだが・・・。
「なぁ君、俺の灰皿知らない?」
と向かいに座っている女の子に話しかけたが、「灰皿って何ですか?」
という返事が返ってきただけだった。てっきりふざけているものだと思い、
「ほら、俺ってヘビースモーカーだろ。タバコを吸わないと調子悪いんだよ。」
「タバコって何ですか?」
その頃には周りに課員がだんだん集まってきていた。俺はからかわれているんだと思い、タバコの効用-気分が良くなるとか、血圧が下がるとか-を話した。
埒があかないので、実演しようと一本取りだし、火をつけた途端、周りにいた全員が煙たそうに咳を始め、課長は「火事だ、火を消せ」と騒ぎ出す始末。
挙げ句の果てには消防車、パトカーまで現れ、警察で事情徴収を受けることになってしまった。刑事は鑑識からのレポートを見ながらこう言った。
「つまり何だね。君はこの極めて発癌性の高い煙を常習的に吸っていると。」
「あの、吸う人はフィルターを通して害のない程度に減らしてるはずなんですけど・・・」
「いや、明らかに害になっている。しかも周囲にはフィルターを通すよりも六倍多く発ガン物質が放出されている。長年かけて相手を病死に見せようという魂胆かね?」
「だからそんなんじゃないですって。あれを吸うと気持ちが落ち着くんです。」
「毎日吸っていると言っていたね。常習性のある新種の麻薬でもあるわけだ。」
刑事はどう言ってもわかってくれなかった。 その晩は留置所に泊まることになった。何がどうなったのかさっぱりわからなかったが、無性に泣けてきた。堅いベッドはそんな気持ちを増幅するのに役立っていた。
翌日、午前中に取り調べの続きを受けた後、会社から課長が面接にきた。どうやら俺は懲戒免職になったらしい。
(たかがタバコを吸ったぐらいで・・・)
そう思いもしたが、警察の取り調べで疲れ切っていた俺の心は、以外とすんなりその言葉を受け入れた。もうどうにでもなれというのが本音だったが、この状況を脱出できるのならタバコをやめてもいいとすら思った。

「ご気分はいかがですか?」
目を覚ました医者が俺に尋ねてきた。
「まぁまぁです。でもあれだけタバコの害を並べ立てられるとちょっと辟易しますね。」
「学習用のプログラムですからね。子どもの教育とヘビースモーカーの更正を兼ねてますから、ちょっときつめの演出になってます。」
「まぁ、あんなもんだろ。アメリカでは社長がタバコを吸う会社とは取引をしないという実例も増えているようですからね。社会的リスクを覚悟してもらうにはいいんじゃないですか?」
そう、これは催眠誘導装置によるタバコ教育プログラム。どうしてもタバコをやめられない人へのサービスとしての、我が社の社内ベンチャープログラムだ。
「さて、もう一本ありますけど、こちらも見ます?」
「ああ、お願いしよう。」
俺は再びベッドに横たわった。

目が覚めると、そこは異世界だった。別に望んだわけではないが、その世界ではタバコを吸わない者が一人もいなかった。
空気はもうもうと立ち上る煙で白く濁り、人の多いところでは霧がかかったようになっている。体質的にタバコを吸えない俺としては苦痛の極みなのだが、こればかりはどうしようもない。
街頭テレビが煙の向こうで喋っていた。
「このままタバコを吸い続けると人間の寿命が縮むだけではなく、大気の温暖化によって気候変動をも引き起こす可能性が・・・」
 

夜に輝く

 星の綺麗な夜。僕は毎日外へ出て、ビルの谷間からかすかに見える天の川を見るのが好きだ。でも父さんから聞いた話だと、昔は都市では星なんか見えないくらい街灯がまぶしかったらしい。今はところどころにポツンと申し訳程度にしか街灯のあかりはない。何でこんな事になったかって?父さんから聞いた話によるとね・・・

 ある時女性に奇抜なファッションが流行り始めた。まず「茶髪」。髪を茶色に染めるんだ。なんでそんなことをするかって?印象が明るくなるっていう話だったけど、芸能人のマネをしただけじゃないかな?
そして「ガングロ」。顔を真っ黒に塗って、白や青のアイシャドウや口紅を塗るんだ。それもなんでかって?そんなのわからないよ。女性の心理は謎に満ちているからねえ。
そして遂にあのファッションが登場したんだ。そう、蛍光や夜光顔料を使った化粧品たちさ。
「それを使えばあなたは光り輝いて見えます」
って訳さ。駄洒落みたいだけど、みんなその当時は真面目だったらしい。その証拠に世界中の有名な化粧品メーカーがこぞって類似商品を作っていたそうだから。
まず最初に登場したのがアイシャドウと口紅。暗いところ、特にダンスホールやディスコみたいな照明の暗い所では結構目立つから、そういうところに出入りする女性の必須アイテムになった。次にファウンデーション。こっちは口紅なんかとは違って、わずかに発光するだけのもの。だって顔全体が光っちゃったら口紅やアイシャドウが目立たないだろ?これらを併用するとぼうっと白く光った顔とはっきり自己主張する唇と目が印象的に対比できるって訳さ。
このファッションはどういうわけだか受けた。母さんから聞いた話だと、昼間は普通だけど、夜になるとうっすら白く光るので、肌がきれいに見え、若く見られたからだって。だからあんまり化粧に興味関心のない普通の女性でも、「一度使ってみよう」という気になり、あちらこちらで大流行したんだそうだ。
するとちょっとでも他人と違うことをアピールしたくなるのが人情ってもんだろ。特に最初から使っていた人たちはそう思ったみたいだ。ファウンデーションを全身に使う人が出てきたりした時には、これが商売になると感じた石鹸やシャンプーのメーカーがこの分野に参入した。「お風呂上がりから輝いて見えます」がキャッチフレーズだったんだそうだ。
でもだんだんと問題も増えてきた。まぁ蛍光や夜光の顔料が環境に優しくないとかいうのは序の口だったらしいね。何よりも問題だったのは、これらの化粧品は「暗いところ」でないと本来の効力を発揮しないこと。今なんかと違って当時はあちこちに街灯が光っていて、世の女性のファッション心を台無しにしていたんだ。彼女たちは少しでも目立つために都市の中でも暗いところを探し始めた。またちょっと都心を離れた街灯の少ないところにも進出し始めた。自分たちをより美しく見せるために。
ところが、暗いところに光っているもんだから、路上強盗の標的になり始めた。またそれとは知らずに歩いていた老人が、ぼぅっと光る姿を幽霊と勘違いし、心臓発作を起こして死亡するという痛ましい事件も頻発するようになった。
ここに至ってメーカーも自主規制を始めたけど、海賊版が横行するだけだった。政府も禁止を検討し始めたが、法的に禁止するのは難しかったので、街灯の数を増やすことで対応した。そして熾烈な戦いが始まった。どんどん暗いところを求める若者、そしてどんどん増える街灯。一部の若者は街灯を片っ端から壊し始めたが、これには警察が対応した。相当狂乱状態だったみたいだね。
天文学者を中心とする一部の人々が街灯を増やしすぎる事に反対したにも関わらず、やがて世界中どこもかしこも光であふれるようになった。
そして破局はあっさりと訪れた。エネルギーの供給が追いつかなくなり、全世界的な停電が襲ったのだ。しかし若者も勝利者にはならなかった。何故なら化粧品を製造する工場も止まってしまい、製品が手に入らなくなったから。

 でもあれで良かったのだと僕は思う。随分長い間混乱が続いたらしいけど、その間に光に埋もれて忘れていたものをみんなが取り戻せたのだから。この星の美しさを初めとする自然の素晴らしさ、そして女性も飾り立てるだけが本当に自分を主張したり、光り輝くのではないことを知ってくれたのだから。
 

携帯電話

 ま、また聞こえる。あの携帯電話の音が・・・だ、誰か頼む。あれを止めてくれ!

 発端は些細なことだった。そう、携帯電話を購入してから一週間ほどもした頃であったろうか。ちょうど携帯電話も手に馴染んできて、
「これで俺もモバイル族の仲間入り、時代の最先端に躍り出たんだ!」
などと、男四十五才にして初めて持った携帯電話に有頂天になっていた頃だった。
「もしもし。あ、俺だけど、・・・」
「は?私は山ノ上ですが・・・おかけ間違いじゃありませんか?」
ガチャ!ツーツーツー・・・
夜中に間違い電話がかかってき始めたのだ。若者は得てして夜中に電話を掛けると知っていたが、「間違えました」ぐらいは普通言うだろ!と怒りながら毎度毎度寝床に戻る生活が続いた。もちろん中には礼儀正しく謝ってから切る者もいたので、たまにはおおらかな気持ちで眠れたのだが・・・
しかしそれだけでは済まなくなってきた。私が携帯電話を持ったことを嗅ぎつけた上司が電話を掛けてき始めた。次いで取引先からの電話が入り始めた。
「俺もそれだけモバイル族として認知され始めたのかな?」
と喜んだのもつかの間、電話の件数はどんどんとエスカレートし、会社にいようが電車の中だろうが、家でテレビを見ている最中だろうが、四六時中掛かってくるようになった。
さすがに鬱陶しくなってきたので、電車の中では留守電モードにし、取りあえず何かあったときにはメールを打つだけで対応するようにした。若者や周りの同世代が車内であるにもかかわらず大きな声でしゃべりまくっているのを苦々しく思っていたので、自分はマナーを心得ているのが確認できて良かった。
同様に夜中は電源を切る様にし、これで「またかよ」と物語っていた家族の顔も和らぐと思っていた。事実これが成功していればそうなるはずだったのだが・・・。

 ある時うちの部下がへまをした。その話は私が休みの時に発覚し、早速自宅へ電話を掛けてきた。いや、掛けたらしいのだが、私は運悪く留守だった。さらに悪いことに外出先に携帯は持って行っていたものの、携帯の電源を切っていて全く連絡が付かなかった。そのため、私を抜きにしてクレーム処理を続けざるを得ず、処理に手間取っているうちに客先から取引中止を勧告されたらしい。それを知ったのは翌日出勤したときだった。
断っておくが、この件に対して私は何も悪くはなかったのだ。しかも以前であれば携帯なんか持っていないのが当たり前だったのだから、社内の処理体制もそれを前提にしていたのに、今やいつでも連絡が付くのが当たり前みたいになってしまい、連絡の付くようにしていない方が悪い、というような雰囲気が漂いつつある。
それがあって以来、電源を切ることが出来なくなってしまった。いや、実際に切ってしまってもいいのだが、周りの雰囲気がそれを許してくれないのだ。
そしてさらに悪いことには、土日、夜中を問わず、重要な用件のみならず、ほんの些細な用件でも電話が掛かってき始めた。
「明日十時から会議だから」
という電話を夜中の三時に受けたときには、
「そんなの明日の朝言えばいいだろ!」
と怒鳴りかけてしまった。若しくはメールを出しておいてもらえればわかるじゃないか。
家族のだんだん反応も冷ややかになってきた。最初は
「うちのお父さんもやれば出来るのねぇ」
という目で見ていた妻も、今では
「電源切っときなさいよ。こううるさいんじゃ眠れやしないわ!」
と愚痴を言い出す始末。いきおい
「最近の若者はマナーがなってない!」
などと、世の年寄りが若者を評する言葉を紡ぎ出すだけ。だんだん自分が貧相になってくる気がしてしまう。
この精神的な影響は会社での仕事ぶりにも影響した。夜中に眠れないものだから寝不足でカリカリする。些細なことでも怒鳴ってしまう。精神的にしんどくなってきたある時、上司からも
「しばらく休んだら?」
と言われたが、休んでいても電話だけは掛かってくる。それがさらにストレスになる・・・・・。

 ほ、ほら、ま、まだ鳴っている。あの携帯電話の音が・・・だ、誰か頼む。頼むからあれを止めてくれ!