第1回 連続ドラマ?(11/3追記)

このシリーズは水姫さんの

「のんびりmorning♪」

があまりにも面白かったので、始めることにしました。基本的には夢や寝言を中心に扱っています。

「なんだ、夢オチかよ」

は禁句です(笑)。

 

さて、まず最初のお題は・・・「ゴッキー」。つまり「ゴキブリ」です。でも私が見た夢ではなくて、昔むかし、私が実家にいた頃、ウチの妹が見た夢なんですけどね。

ある日、起きてきた妹が言った。

「なんかな〜、めっちゃイヤな夢見てん。」

「ほぉ、どんな?」

「床にな〜、あめ玉みたいなんがいっぱい落ちてんねん。しかもカラフルな色のヤツ。」

「はぁ。それは何やったん?」

「聞いてや〜!それがな、全部ゴキブリやねんっ!赤とか水色とか黄色とか紫とか!思い出しただけで気分悪いわ!」

「また、そんな特殊な夢を・・・カラフルやったらええっちゅうもんやないもんな〜。」

「やろ〜。ピンクのゴキブリとか、もう勘弁してほしいわ〜。」

「ピンクはきっついなぁ・・・水玉とかストライプとかがおってもイヤやけどな。」

翌日の朝、起きてきた妹は、私を恨めしそうに見ながら言った。

「兄ちゃんが昨日ヘンなこと言うから、出てきたやんか!」

「何が?」

「水玉とストライプのゴキブリ。」

「(げほっ、げほっ)続き見たんか?!」

「あぁ〜、くそっ!腹立つぅ〜!」

「リクエストするわ。今度はきっと鏡みたいにな、妙にぴかぴかして自分の姿が写るゴッキーが出てくるで、きっと。」

「やめて〜っ!!」

数日後、妹の夢の中には「鏡ゴッキー」が出てきたらしい。再び恨めしそうな目で見られたことは言うまでもない(笑)。

すまん、我が妹よ。兄ちゃんを恨んでくれて良いから、久しぶりに第4話を見て、ネタを提供してくれ!(爆)

 

 

追加&訂正

 妹から詳細な情報が出てきました。「床の上」だったんじゃなかったらしい。

インディージョーンズ」か「川口浩(藤岡弘)探検隊」みたいなかんじでな、ライバルのマッドサイエンティストが財宝(?)のところで

「くらえっ!」

って投げてくんねん!

 

だそうな。妹よ、ゴッキーもそうだが、その夢の方がもっと気になるぞ(爆)!

辞書を作ろう

1.はじめに
 この分科会は、いつも「百科事典を送る」とか「セサミストリートを送る」などでお茶を濁し、「これで相手と意思疎通が出来るようになりました」と言って いた意思疎通や翻訳関係が、そんなに簡単ではないのではないか?というところが出発点となった分科会である。従って、辞書のあるべき姿を追求するべく開催 されることになった(と理解している)。
以下に議論の流れを見ていこうと思う。

2.人類の言語学は役に立つのか?
 まず最初に議論となったのは「人間の言語を扱う言語学は役に立つのか?」である。
当然、相手との意志の疎通を考えるわけだから「翻訳」という二文字が頭の中にあったのは否めない。ところが、これは中間言語方式だのトランスファー方式だ のという方法論を調べておいたものの、お互いの交流が相当進んでいないと役に立たない。むしろプレコンタクトが終わり、交流が軌道に乗ってからの話になる のではないか、相手とまず交渉するに当たっては、そんなに豊富な語彙を得ることは出来ないだろうと思われ、あえなく頓挫した。
続いて出てきたのは文化人類学で行われる「基本的な共通語彙を収集する」というものだが、これも習慣や文化が違うといったレベルではなく、そもそも惑星 環境や体の構造が違う者同士では、地球上で規定されている「共通語彙」というものは何の役にも立たない事が明らかになった。つまり今現在地球上で行われて いる言語学の大系は、コンタクトを行う上ではほとんど役に立たない、ということがいきなり判明し、分科会はいきなり持ってきていた資料が役に立たない、と いう結論に達した。ここまでは10分程度。

3.プレコンタクト用辞書の構築(数学・物理学編)
 そこで切り口を変え、いつも苦労しているプレコンタクト段階で「相手に自分の意志を伝えるのに必要な概念」を抽出し、「それらを伝える手段」を考えるという内容にシフトした。
まず最初に伝えたい概念と伝えるのに使えるモノとを整理した。まずは伝わりそうなモノを以下にまとめる。

・名詞(モノとして示すことが出来る物)?
・数学
・物理量
・幾何
・肯定否定(好き嫌い)

ただし上記のものも、名詞はわかるかも知れないが、それがどれほどの役に立つのかはわからないという話になった。
「そうか、相手の惑星にはこんなものがあるのか」
程度にしか役に立たないからだ。

さて、続いて伝えたい概念を抽出するために、CJ4の時の地球人側メッセージを基に相手に伝えたい例文を考えた。なるべく簡単な物で、かつCJ4の時 に、何が何でもアヒストに伝えたかった文言をいくつか挙げてもらった。これは地球人側、アヒスト側の両方の切実だったメッセージを選んだつもりである。

1)木星軌道より内側には来ないで!(地球人側)
2)地球へ行っても良い?(アヒスト側)
3)あなたの星で一緒に住みたい(アヒスト側)

1)には位置、領域の概念、移動の概念(時間や因果関係)、否定の概念に意図(希望)、そして主客の概念が含まれていることがわかる。2)も同様に位置、 領域の概念、移動の概念(時間や因果関係)、疑問と意図、そして主客がある。3)もほぼ同様だ。つまりまとめてみると以下のようになる。

①位置・領域
②移動の概念 → 時間(因果関係)
③否定 → 答えを求めている場合あり(5W1H)
④意図(希望)
⑤主客

以上5つの概念を伝え、お互いに共通に使用することが出来れば、プレコンタクト段階での意思疎通はかなり楽になるはず、という話になったわけだ。
①、②は物理や数学の範囲で何とか片づくんじゃないか、という話でほぼ片づいた。③はただ単に肯定否定だけであれば数学の範囲だが、結局5W1Hをある 程度使えるようにする必要があるのでは?ということになった。疑問文が使えるのとそうでないのとでは、会話における幅が違ってくるからだ。とは言え、基本 的には数学・物理を中心とした方法論で何とか片が付きそうな感じである。
⑤はそれこそ自分の姿と相手の姿を使用すれば伝わりそうなものである。

4.プレコンタクト用辞書の構築(快・不快編)
 ということで、問題は④である。特に「希望する」という内容をどう伝えるのか?が争点になった。これはなかなか難しいが、方法としては「快・不快」を伝えることが出来れば良いのではないか、という意見が出た。
例えば例文の1)だと
「木星の公転軌道よりも恒星に近い領域にあなた(がた)が入ってくるのは、我々にとって不快である」
と要素に分解して記述できる。これならば「来て欲しくない」という意図が伝わるのではないか?と考えたわけである。
この調子で行くと例文の2)は
「我々が地球に行くと、あなた方は不快? YES or NO」
3)は
「我々が地球にいるのは、我々にとって快である」
などになる。

上記のように切り分ければ、①~⑤を伝える手段さえ確保し、記号による体系化を行うことによって、お互いが相手の意図を理解出来る程度まではなるのではないかと考えられるわけだ。
ちなみにちょっと話はそれるが、一つの言葉には一つだけの意味・概念のみを持たせる必要がある。これはAC1でも議論になったとおりで、一つの言葉・単語 に複数の意味を持たせるのは、人間はそのような使い方をしていてもシチュエーションによって意味を取り分けるが、異星人相手には不可能だからだ。

さて本論に戻るが、となると、あとは「快・不快」をどのようにして伝えるのか、というところに問題が集中した。これは単純に「YES・NO」ではないた め、切り分ける必要がある。また数学的手法を用いる事は出来そうにない。そこで鳥が縄張りを主張するために高い声で啼いたり、何度も短い音を発して警告し たりするという手法はどうかという提案がなされたりした。しかしこれもどういう受け取り方をされるのかがわからないため、もう少し生命にとって基本的な要 素で行う必要があるだろうということになり、以下のようなものが提案された。

・エネルギーがない、子孫が残せない、住めない環境などは「嫌」「不快」
・エネルギーがある、子孫が残せる、住める環境などは「好」「快」
・また環境の変化は「不快」など
・これらを大量に送ることにより、「好・快」「嫌・不快」の別を伝える

数を多く送るのは、相手の推理力・洞察力、要するに推論する力に期待するためである。つまり文明を築くぐらいなら、こういった能力を持ち合わせているだ ろう、ということである。ただし、「事例から一般性を見いだすような知性は一般的なのか?」という意見もあった。もしこういった能力を持たない、いわば職 人集団のような文明の場合はいくら送っても無駄かも知れないではないか、ということなのだが、それはそれで「わかった、皆まで言うな!」と理解してくれる かも知れない、という話にはなった。

5.その他
 その他議論の出たところをまとめてみると「肯定否定」の話のところで
「真偽と肯定否定は同一ではないのでは?」
という意見が出た。つまり「YES・NO」と「TRUE・FALSE」は別の概念だから、切り分ける必要があるのでは?ということだ。数学では「YES・ NO」が送れるのではなく、あくまでも数式として送ることが出来る概念は「TRUE・FALSE」であるため、その辺の詳細な詰めが今後必要になると考え られる。

また「文の構造をツリー化する」とか「文の数を絞る」なども意見として出ていた。いずれにせよ、こういったものは数学的・物理的な概念にせよ、先ほどの 「快・不快」の様な概念にせよ、何らかの通信フォーマットを構築したならば、あとはその共通基盤を使って例文をがんがん送るしかない、という流れで分科会 は終了した。

最後に参加者から出た感想を一つ。
「コンタクトって恋愛ドラマみたいなもんだな。『行ってもいい?』『来ちゃダメ!』『あなたと一緒になりたいの』ってね。」
なんともはや・・・。

10光年先を見るために

1.はじめに
 この分科会の目的は、いつも「まぁこれくらいなら見えるんじゃないの?」と適当に流してきた観測をより厳密に、「どれくらいのスペックの機器があればど のくらいまで観測が可能なのか?」を検証することである。そのため、典型的なコンタクトの例として10光年先の様々なものがどれくらい見えるのかを設定し た。これより遠いところもこれを基準にすれば、原理的にどれくらい観測可能かは計算が可能となる。
分科会は以下のように、まず課題を設定し、それを波長ごとに分類し、ほぼ同じ機材を使用できるものにグループ分けして検討を行っていくという方式を取った。ここではグループを「可視光線・赤外線」「電波」「X線・γ線」にの3グループに分類した。

2.課題設定
 まず最初に課題設定を行った。以下に出てきた観測したい項目を波長ごとに分けて列挙する。

1)惑星の有無は確認できるか?
2)大気や水の有無は確認できるか?
3)地球型惑星の表面の様子はわかるか?
4)建造物など都市の様子などを確認できるか?
5)異星人の顔は確認できるか?

6)電波放送は受信できるか?
7)核実験は検出できるか?
8)宇宙船の核パルスは検出できるか?

1)~5)は明らかに可視光線または赤外線領域の話だ。6)は電波の話だし、7)、8)はX線・γ線である。では3~5章にかけて、実際に考察を行っていく。

3.可視光線・赤外線
 まず基本として、1)の「惑星を見るためには」を考える。大きさは地球程度だと考えると、大体1万km程度のもの、ということになる。詳しい計算は7章 の「補足」に譲るとして、結果としては1光年先だと見かけの大きさは0.2ミリ秒角(mas:mili arc second)ということになる。つまり10光年先だと0.02mas。計算を簡単にするために0.01masとしよう。
今、すばる望遠鏡(口径8m、簡単のために10mとする)の分解能が10mas程度の分解能であり、分解能は単純に口径に反比例するので、3桁分解能を上 げるには3桁口径を大きくすれば良い。となると10km。ただしこれだと惑星が点として写るだけなので、せめてWindowsデスクトップ程度に写るよう な解像度(XGAくらい)が欲しいとなると、さらに3桁上げて1万km。地球サイズの鏡があれば何とか。ちょうど10kmの大きさの物が点として写る程度 だ。
しかしこれだけのサイズの物を向けたい方向に動かすのはかなり難しい。そこで干渉計を考えることにする。光・赤外干渉計だ。これならば惑星の光を捉えることが出来る口径の望遠鏡を必要なだけ離してやればOKだ。
ではどれくらいの口径が必要かというと、1光年先から地球を見ると、その明るさは1mJy。10光年先だと明るさは100分の1で0.01mJy。すばる望遠鏡ならば十分捉えることが可能だ(図1)。
これで惑星の写真を撮影するための大体のスペックが決まった。口径10mの望遠鏡を複数台、地球と静止衛星軌道あたりに置く。もしくはもうちょっと小さな惑星でも検出・観測できるように、地球-月系の干渉計を構築すればよい。
観測手順としては、まず相手恒星系の恒星が邪魔になるので、コロナグラフという特殊な加工を施した望遠鏡でもって、少し倍率を落として、惑星の位置を検出する。その後、干渉計でイメージを作るのだ。

ではこれを基本として2章で列挙した2)~5)を検討してみよう。
2)はスペクトルの話なのでここでは一旦置いておく。すると検討にのぼるのは3)~5)だが、スケールとしては以下の様になる。
3)サイズ1~10km程度 → 分解能10μas~1μas
4)サイズ10~100m程度 → 分解能0.1μas~0.01μas(100nas~10nas)
5)サイズ1~10cm程度 → 分解能0.1nas~0.01nas

上記のスケールを点ではなく、撮影できる程度の分解能で達成するには、3)は1)よりも3~4桁干渉計の基線長を長く取る必要があるので、1千万~1億 km離した干渉計が必要となる。まぁ、1AUも離せば良いのだから、地球近傍と太陽-地球系のラグランジュ点(三角形解)あたりに設置すればOKである。
4)はさらにそれよりも2~3桁上なので、100億~1千億km。AUで言うと約60~600AU。すでに現実的な数字では無くなってきた。冥王星軌道の両端に望遠鏡を設置して干渉計にする必要があるが、これは同期を取ることが出来ないのでは?
5)はさらに2~3桁上がるので6万~60万AU。光年で言うと1~10光年。相手の星系まで探査機を飛ばした方が手っ取り早い。

というわけで、現実的には10光年先の「惑星表面の都市の様子が観測できる」くらいまでが現実的な値と言えよう。

ではスペクトル観測をする必要のある2)であるが、これは惑星が十分な明るさで観測できれば問題ないので、1)を満たすことが出来ればほぼ大丈夫という 判断をしてよい。ただしぎりぎり写るという程度では分光できないので、ある程度は余力を持たせる必要がある。明るさは口径だけに拠るので、10m程度の口 径があればぎりぎり。余力を持たせるためには数等級暗いところまで検出できる必要があるとすると3倍程度、つまり30m程度の口径があれば十分であろう。

4.電波
 例えば10光年先から現在の地球から出て行く電波を捉えることが出来るかどうかを考える。そこでまずは現在の電波望遠鏡の感度を基にして、10光年先での放送される出力の下限値を算出した。
さて、現在の電波望遠鏡の感度は大体0.1mJy(ミリ・ジャンスキー)という値である(図1参照)。Jyという単位はあまりなじみのないものであると 思われるが、これはSI単位系では1E-26W/m^2/Hzとなる。従って0.1mJyは1E-30W/m^2/Hzとなる。
ここから放送出力を算出する。10光年という距離は約1E+17mだから、これを掛け合わせると最低限の放送出力は1E+4W/Hzとなる。周波数あた りの強度が10KWということだが、通常はもっと大きな出力で放送しているため、十分検出(視聴)可能だといえる。逆に言うとこれよりも出力の弱い、例え ばアマチュア無線や地域FMなどを受信するのは不可能と考えて良い。

また分科会内では議論がなかったが、分解能に関しては可視光線の1)と同等の分解能を現在のVLBIで達成していることから、地球型惑星の表面で強力な電波を発している箇所を特定できる程度の能力は十分あると考えられる。従って7)はクリア可能だろう。

5.X線・γ線
 これはかなり難しいのだが、2つの事柄に分けて考えよう。1つは分解能、そしてもう一つは感度である。
まず分解能だが、X線はともかく、現在のところγ線に分解能を求めるのはかなり難しい。というのも、現在のγ線観測は基本的に空気シャワー現象に伴う チェレンコフ光を観測している。そのためγ線のやって来た方向はそれなりの精度で特定できるが、ある程度以上の範囲まで絞ると、それ以上は誤差の範囲内に なってしまい、放射源の位置を特定するのは不可能と言って良い。実際、γ線バーストなどの観測も発生後すぐに光学望遠鏡がフォローアップ観測を行い、発生 源を特定している。
X線の方は数年前に国立天文台で開催された「大風呂敷研究会」で発表された物の中に1masの分解能を達成するという構想があることから、20年くらい のスパンで、このレベルが達成される可能性がある。つまり、現在のすばる望遠鏡クラスの分解能は達成されると考えて良い。ただし、干渉計に関しては同期を 取るのがほとんど絶望的なので、これ以上あげるのは無理かと考える。

続いて感度だが、あるエネルギー幅の中に入る光子の数が1秒、1平方cmあたり1E-5個くらいまでは誤差が少なく測ることが出来ると言って良いと思わ れる。もちろん観測時間(積分時間という)を延ばせば、もっと暗い天体でも写るのだが、誤差を考えるとあまりお奨めは出来ない(図2)。

さて、ではこのスペックで10光年先の何が見えるのかという話だ。つまり8)と9)を考えるわけだ。まずTNT換算で1メガトンクラスの核爆弾が発する エネルギー量は約1E+16ジュール。電子ボルトに換算するとざっと6E+34電子ボルト。これが全て1キロ電子ボルトのフォトンに変わったとすると、 6E+31個のフォトンに変わる。ちなみに1キロ電子ボルトという値を採用したのは、その辺のエネルギーレンジがもっとも感度よく検出できるからだ。とい うわけで、これが地球近傍にたどり着いたときにどの程度のフォトン数になるかというと、1平方cmあたり6E-6個。ぎりぎり見えそうな気もするが、これ では検出は無理である。誤差とかノイズに埋もれてしまっているために8)は完全に玉砕である。つまりその程度のものは見えないのだ。逆に見えるとすると、 上記の仮定の下でもTNT換算でせめて10~100メガトン。もちろんニュートリノに持って行かれる分や、その他の波長に食われる分を考えるとさらに 2~3桁くらい上でないと検出は出来ないことになる。そう言う意味では9)も不可能だろう。
すると、1メガトンクラスの核爆弾が1光年先で爆発しても、X線では見えない・・・可視光線でも・・・かもしれない。

6.最後に
 いろんな人から感想をいただいたが、「意外と見える」「意外と見えない」という意見が全てを物語っていると言える。これは参加した各人が「どの辺までは 見えるだろう」と漠然と抱いていたイメージにかなりのばらつきがあったことを物語っていると言える。ただ言えることは、どちらかというと「意外と見えな い」と思う人が多かったことだ。私自身も今回の分科会に先立ってかなり綿密に資料を集めた上、計算も行っていたが、思ったよりも見るのは大変そうだと思っ たのだ。
例えば可視光線・赤外線では、「そう苦労しなくても冥王星レベルは見えるだろう」とか「小惑星の大きいヤツは見えるだろう」と思っていたが、結構技術的 に高いものを求められると感じた。実はこの原稿を書いている最中に気がついたのだが、地球と土星の見かけの明るさがほぼ同じ、天王星、海王星あたりはすば る望遠鏡では検出不可能だということがわかった。何と恒星から離れすぎた惑星は、例えそれが巨大惑星であっても内惑星よりも暗くなってしまうのだ。そうい う意味では望遠鏡は大きいに越したことはないのだろう。

7.補足資料
 以下に、計算を簡単にするための、いくつかの数値を挙げておく。

1)大きさ&角度
・ラジアンから秒角への変換 ×2.0E+5
・1光年=約1.0E+13km=1.0E+16m=1.0E+18cm
・地球型惑星の直径=約1.0E+4km=1.0E+9cm
・地球型惑星の見かけの大きさ(1光年先)=1.0E-9ラジアン=2.0E-4as=0.2mas
・上記をXGAで見たければ・・・
10m鏡で10mas程度の分解能なのだから、1.0E+3倍
1000*1000Pixcelくらいで見たければ、1.0E+3倍
6桁上げればよい ・・・ 1万km

2)明るさ
・地球型惑星の明るさ = 1.0E-8erg/cm^2/s/sr/Hz
・地球を1光年先から観測すると
単位面積あたりの明るさ×面積/距離の2乗なので
(1.0E-8)×1.0E+18/1.0E+36 = 1.0E-26 = 1mJy
・上記を可視光線での等級で言うと約28等

3)その他
波長換算表
1eV =1.2398E-6m =2.4180E+14Hz
輻射強度
1eV = 1.6022E-12erg
1Crab = 2E-8erg/s/cm^2(かに星雲の明るさ)
1eV/s/cm^2/eV = 0.6626E-26erg/s/cm^2/Hz
Jy = 1.0000E-23erg/s/cm^2/Hz

太陽風に乗れ! ~栄光は誰の手に~

登場人物
ヒカリ・カワモト(川本光)十九才、日本・韓国連合代表のパイロット
ジョルジュ・ルイ 二十二才、ヨーロッパ連合のパイロット。フランス人
ブラック伯爵 四十四才、国籍不明の大富豪
女性アナウンサー 三十一才、某日本国営放送の実況中継担当

 

時に西暦二〇六一年四月十二日


プロローグ

 無限に広がる大宇宙。そこには数多くの星があり、幾千ものドラマが演じられている。生まれてくる星、死んでゆく星。そしてまたそれらの星の死がもたらした爆風から、星間ガスが集められ、再び新たな星が生まれてくる・・・宇宙は人間にとって、無限とも思われる時間の中で、このようなサイクルを幾度となく繰り返してきた。そしてこれからも繰り返していくことであろう。
そんな宇宙の片隅、銀河系のオリオン腕と名付けられた空間の一角に、地球という星が存在している。誕生から約五十億年を経たその星は、現在のところ「ホモ・サピエンス(人類)」と呼ばれる種族が繁栄し、その表面のほとんどを制覇していた。
二十世紀と名付けられた時代の中頃に、その名付け親であるホモ・サピエンス――人類――は宇宙と呼ばれる、彼らの支配している表面から垂直方向に離れたその世界に、記念すべき第一歩を記した。それはロケットと呼ばれる機械を使用することで達成された。最初はロケットに乗ることを許された、いや乗るために死にものぐるいの努力を強いられた一部の人が、そして続いてシャトルと名付けられた機械による宇宙往還システム確立後には研究者達が、さらには一般人が。今や宇宙は人類にとって、希望さえすれば誰でも行ける場所になりつつあった。
そして最初のささやかな一歩から約一世紀。今や他天体にまでその版図を広げつつある人類は、宇宙において新たなスポーツを生み出した。それは太陽からの光を動力にする帆船を操るスポーツ。莫大なる資金と時間とを投入する金持ちのレース。そして国や地域の威信をかけたレース。人々はそれを「ルナカップ・レース」と呼んでいた。
西暦二〇六一年、新たな時代を迎えたこのレースが、再び開催されることとなった。この広大な宇宙の片隅で、熱き戦いが今始まろうとしている。

地球軌道上

 眼下に太平洋の青い海原が見えている。その端に見えている陸地は、東南アジアのあたりか。人類による汚染が進んでいるとはいえ、太平洋は未だこれまでと同じ色をたたえて、この星に住む生物たちを見守っている。
その遙か上空、高度千キロメートルの軌道上を、隊列を組むかのように十隻の船が漂っている。他の高度にも様々な人工衛星や作業中のシャトル、これから月面上に建設された都市群や建設中のスペースコロニーへ向かう宇宙船が航行しているが、これらの船とは明らかに違う目的を持つ船たちだ。そう、四年に一回のレースがまた始まろうとしているのだ。

 「いたっ。」
ヒカリ・カワモトは艇内で地球軌道上の最大規模のステーションである、「クラーク・ステーション」内にいるクルー達と最後の通話をしているところだった。
「何かあったのか?」
艇外に取り付けられたカメラから送られてくる映像の一角を切り取るかのように設けられたサブウィンドウ。その中に映し出されたクルーの一人が心配そうに声をかける。ここでヒカリにトラブルが発生したりすれば、彼らチームは棄権を迫られることになるからだ。
「うん、ちょっとね。頭を起こそうとしたんだけど、髪の毛を挟んだままだったのよ。大丈夫。」
「ならいいけど・・・挟むって、どこで?」
「あ、うん・・・椅子と背中・・・・・」
彼女のこの消え入りそうな、恥ずかしそうな声は、仲間の爆笑に取って代わられた。
「何よ何よ、そんなに笑わなくたっていいでしょう!」
膨れて見せた彼女に、最年長のチームリーダーがわびの言葉を入れる、笑いながら。
「いや、悪い悪い。相変わらずドジなところがあるなと思ってな。」
「どーせ、ドジですよ。『あんなドジに任せて大丈夫なのか』とか思ってるんでしょう。ね、キョーシロー。」
キョーシローと呼ばれた男は微笑を顔に張り付かせたまま、意味ありげに顎をなでながら返事をした。
「そうさなぁ・・・もし自慢の髪が操船の邪魔になるようだったら、すぐに言ってくれ。交代しに行くから。」
「その時には理容師を呼ぶわ。これにはあたししか座れないんだから!」
彼女は自分の座っている椅子を指さした。実際問題、この特注の船にはパイロットは一人しかいない。そしてそのパイロットの体にフィットするように椅子も特注で製作されていた。今からパイロットを交代するには、椅子ごと交換しなければいけないのだ。もちろんそんなヒマがあればの話だが。
「そう怒るな。致命的な問題を起こすようならそもそもパイロットなんかにゃなれんよ。」
キョーシローがなだめる。彼はこの半年間、ヒカリとパイロットの座を争っていたのだ。資格も取れないようなひよっこ相手に負けたとあっては、プライドはズタズタだろう。もっとも、二人ともずば抜けて優秀な成績を修めているのだが。
この話は学校の中では、特にチームの中では有名な話だったが、このやりとりの背景にそんな逸話があろうとは知らず、気づかない者も中にはいた。
「そうそう、今の内にドジっといたほうがいいぜ!」
若いエンジニアが混ぜ返した。これがさらに笑いの輪を加速する。が、これにはヒカリも参ったらしく、つられて笑ってしまった。
「そうね、今のでドジはお終い。次は表彰台の上でやることにするわ。」
「OK、その調子だ。頑張れよ、ヒカリ!」
「ヒカリ、絶対優勝だぞ!」
「こわすなよ。」
「ミスって地球に落ちるなよ!」
仲間達の励ましの声が心地よい。
「そこまで下手くそじゃないわ。まかせなさいって!」
通信時間が終了した。これからは一人の時間がやってくる。約十四日間に及ぶ孤独な旅。そして栄光を掴むための旅。ヒカリは艇内を見回し、全てが順調に動いていることを確認した後、気合いを入れ直すかのようにこうつぶやいた。
「さあ、行くわよ。頼むわね、相棒。」
そう、間もなくスタートの時間なのだ。

 「全世界百二十億人のみなさま、長らくお待たせいたしました。まもなく、第一回ソーラーヨットレースが始まろうとしています。」
アナウンサーの声が3Dテレビから、ラジオから響き渡る。観ている者、聴いている者は地球上の各都市や集落を始め、洋上の船舶、北極海上空を飛行中の旅客機の中、月面に建設された都市、さらには建設中のスペースコロニーの作業場にまでも及んでいた。「全人口のうち約六割は見ているだろう」というのが、各国・地域のビデオリサーチ会社の予想だった。もちろん、数時間もすればこの数値にはかなりの信憑性が与えられるだろう。そういう意味での注目度は、サッカーのワールドカップにも負けないものがあった。
これだけの注目を浴びるソーラーヨットレース。正式名称「ソーラーセイルド・ヨットレース」は、これまで「ルナカップ」と呼ばれていた。西暦一九九二年の国際宇宙年にあわせて、当時の先進各国の大学が中心となり、無人のヨットを月軌道にまで送る、そのスピードを競おうと考えていたものである。そしてその原点はSF作家アーサー・C・クラークが一九六三年に発表した短編小説「太陽からの風」にまで遡る。この小説の中で行われた「太陽ヨットレース」が元なのだ。
「ルナカップ」自体は最初、ヨットの打ち上げ費用が思ったよりかさむのと、その後の世界的な不況の影響を受け、二〇世紀中には実現しなかったものの、二〇〇九年に第一回大会がアメリカ、フランス、ドイツ、日本の四カ国の大学が参加して行われた。その必要とされる技術レベルの高さや、勝負に高度な駆け引きが必要な事から、すぐに「地上のロボットコンテスト、宇宙のルナカップ」と呼ばれるまでに急成長した。惜しむらくは打ち上げ費用のあまりの高額さのため、四年に一回の開催を実現するのがやっとだったのと、太陽の十一年周期の活動期の影響で開催できない年があったことだろう。そのため(就職を目指し)より現実的に多くの実績を作ろうとする者は「ロボット・コンテスト」出場を目指し、四年に一度の大舞台という夢を選んだ者が「ルナカップ」を目指した。
だが時代は変わった。二〇〇三年に国際宇宙ステーションを完成させた人類は、その版図を周辺の宙域のみならず、月面にまで押し広げ、恒久的な居住地を建設するまでになった。さらには五カ所あるラグランジュ・ポイントにコロニーの建設を始め、「大航海時代」が宇宙において再現されつつあった。各国は宇宙航行の技術だけではなく、それを操作する人材――パイロット――の育成にも力を入れ始めた。
それに伴い、「ルナカップ」も様変わりせざるを得なくなった。この宇宙時代にイニシアチブを取るには「世界一の技術力と人材を擁する国」という名を持つ必要があり、それを得るための場が必要になったのだ。各国はそれを「ルナカップ」に求めた。優秀なパイロットと船とを準備し、レースという形で競うのだ。そしてその第一回大会は、旧ソビエト共和国連邦の宇宙飛行士ユーリー=ガガーリンが人類初の宇宙飛行を行って百年目の今年、つまり二〇六一年に設定された。別な言い方をすれば、それだけ人類の版図が広がったのであり、船に事故がおこった場合でも、パイロットを救助できる体制が整った、と言っても良いだろう。

 使われる艇はどのようなものなのだろうか?実はこれにはエンジンに相当するものがない。では一体どうやって前に進むのだろうか?
「各艇は太陽からやってくる光を、全長約二キロメートルの帆で受けて前に進みます。まさにヨットそのものです。しかし『光を受けて進む?そんな馬鹿な!』と思われる方もいるでしょう。そういう疑問は当然です。この重量二トンの船は最初の一秒間では一ミリメートルも動きませんし、一分でも約一メートル、時速百三十メートルくらいです。でも一日経つと時速二百キロメートル以上、一週間後には時速千四百キロメートル以上にもなるんです!」
3Dテレビの画面を見ていた者達は、解説者がCGを巧みに使いながら行っている解説を半信半疑で聞いていることであろう。彼らは一様にこう思ったはずだ。
「光に圧力があるって?そんな馬鹿な。おれは何にも感じないぜ。」
もちろんそうだろう。解説者は言わなかったが、光の圧力は一平方センチメートルあたり〇・五ミリグラムにしかならない。人間の身でこれを感じるためには、夏休みに砂浜に寝ころんでいる時、風が吹いた後に体の上にさっきより一粒多く砂が乗っかっていることが分かるぐらいのことが、最低でも出来ないといけないのだ。感じられる方がどうかしていると言わざるを得ないだろう。もっとも世の中には感じるはずのない圧力や加速度を感じると信じている人たちもいるのだが・・・。
「レースは地球の周回軌道をスタート地点とし、地球を何周か回る間に太陽からの光で加速して、一路月を目指すのです。そして、月の裏側の写真を撮り、真っ先に送ってきた者が、優勝者となります。」
「加速に要するのはおそらく三十周くらいだと思います。ゴールには二週間ほどかかるでしょう。」
アナウンサーがルール説明をした後を、解説者が力学計算の結果を基に補足した。もちろん全てがコンピューターの計算したとおりに動くわけではないが、だいたいの線を視聴者に理解してもらうためなのだろう。アナウンサーも解説者の言葉に耳を傾け、しきりに頷いている。
「それと今回からルールの改正があります。前回までは無人のロボット船でしたが、今回から人間が乗るということで、相手の妨害を行ってもかまわないことになりました。ですが、相手の艇を故意に破壊した場合は、その場で失格となります。それとレースの続行が無理な場合には、救助を要請すれば、待機している宇宙船が駆けつけ、クルーを救助する事になります。」
だが実際にはどの艇もギリギリまでは救助の要請などはしないであろう事は、簡単に予想できた。学生チーム同士のレースならいざ知らず、このレースには多額の資金が投入され、国家の威信などというものまでが絡んできている。さらには非合法ながらトトカルチョまでが催されており、下手に棄権しようもんならレース後の命が保証されないのではないかと、おびえるクルーまでいるほどだ。

 「それではここで、エントリーしている各艇をご紹介しましょう。まずはエントリーナンバー一番、NASA、ロシア宇宙機関合同チームのイーグル号。アポロ十一号にあやかって、月へ一番乗りを目指そうというのでしょう。」
一世紀前には宇宙での覇権を争っていた二国が協力して送り込んできた、長方形の帆八枚を放射型の並べたタイプだ。最初は「ガガーリン」とか「ボストークⅡ」とか命名しようとしていたようだが、相変わらず財政難のロシアが拠出分担金の減額を申請したため、名前はアメリカが決めることになったらしい。これも締め切り直前までかなりもめたらしい。

「二番、この名前は搭乗者の趣味丸出し、ヨーロッパ共和国連邦のニンジャマスター号。」
ドーナツ型の帆と十字型の帆の二種類を組み合わせたタイプだ。パイロットの趣味でこのような名前が付けられたらしいが、こちらも命名はかなりもめたらしい。四十年ほど前までは経済的には統合されていたものの、政治的にはいくつかの国々の連合体であったヨーロッパ共和国連邦は、今でも高齢者の間で旧国家への愛情が残っている。それぞれの国から参加しているスタッフが自分の出身地域にちなんだ名前を出し、それが元での争いも絶えなかったという。
「それならばいっそのこと、パイロットに好きな名前をつけさせろ」
ということになり、日本の時代劇にはまっているパイロットが命名した名前がこれであった。この名前を聞かされた全スタッフは
「なんでヨーロッパの船なのに、ジャパンの名前を採用するのか?」
と大いに嘆き悲しんだという。

「三番、彗星のように速く、という意味なのでしょう、オーストラリアのコメット号。」
イーグル号と同じく八枚の帆を持つタイプである。ただ帆を操縦席のまわりに張り付かせているイーグル号と違い、コメット号の場合は操縦ユニットの後ろ側に帆を統合するユニットがつけられている。方向転換のために帆をすぼめたその姿は、彗星の様にも見えないことはない。彗星と言えば、七十六年前に近日点を通過した接近したハレー彗星は、今また近日点に接近しつつある。前回の再接近時に、世界中からパックツアーが訪れたオーストラリアは、このレースにもお祭り騒ぎの再現をかけているようだ。優勝した暁にはハレー彗星とレース合同の祝賀祭が予定されている。レースが不調だった場合には、彗星だけででも何とかしようという腹だろう。

「四番、はたして幸運はあるのか?アフリカ連合のクローバー号。」
約一世紀前に西欧諸国から独立を果たしたアフリカは、飛躍的発展を遂げた地域と、遅れを取り戻せない地域とに二分されることとなった。このレースには、南アフリカ共和国やエチオピア王国などの進んだ地域が連合して船を建造していた。艇は名前の通り、三角形をした四枚の帆を持っている。全体的に見ると正方形をしている。

「五番、これはもうちょっとひねった名前が欲しかったような気がします。月行きの超特急、日本・韓国連合チームのルナ・エクスプレス号。」
三菱型の帆を展開したルナ・エクスプレスは、科学技術面でも経済面でも地盤沈下の続いている日本の、再起をかけた産官学共同プロジェクトの産物である。しかし地盤沈下した経済状態ではプロジェクト費用を捻出できず、日本は隣の国、韓国とチームを組んで来た。また韓国の方は旧北朝鮮を統合した後、一時は文明の近さから中国よりの立場をとることが多かったが、近年は中国の指導部で再び勢力を強めつつある中華思想に反発し、再び日本と組むようになっていた。いずれにせよ両国とも単独で船を出せるほど、経済状態は良くはなかったのだ。

「六番、某SFの影響でしょうか?アメリカ・カナダ大学連合チームのエンタープライズ号。」
今回参加したチームの中で、最もお金をかけていない艇を建造したのがこのチームだ。特に古き良きルナカップ時代の伝統を守るべく、完全に学生主導で建造された丸い帆は、アメリカ人の間でも誇りにすら思われている。今なお世界のトップを走る人材を輩出し続けているアメリカは、あくなきチャレンジ精神を保ち続ける必要があり、そのためベンチャーを興し続ける学生のレベルには非常に敏感である。エンタープライズを応援し期待する人々は、すでにこのスタッフを如何にして自分の会社に引っ張り込むかに狂奔しているだろう。ちなみにNASAがイーグル号をロシアと共同で製作せざるを得なかったのも、学生が独自にチームを作り、企業がこちらに協賛金を出してしまったからだ。

「七番、チームはみんなギャンブル好き。わざと七番目にエントリーしたという南アメリカ連合のラッキーセブン号。」
ブラジルを中心に驚異的な速さで経済大国にのし上がってきた南アメリカ諸国は、このレースに自分たちの宇宙技術の検証をかけてきた。宇宙進出が遅れているこの地域は、自分たちの技術への確かな手応えが欲しかったのだろう。とはいえ、未知数の宇宙空間で大きな冒険をする勇気はさすがになかったらしく、船はオーソドックスな丸い帆を持つタイプだった。

「八番、中国から参加、超速轟天号。」
現在世界第一位の経済大国は、その威信の全てをこの艇に託していた。また前回までのルナカップでの三回の優勝経験から、船の方にも相当の新技術を投入してきたようだ。ヨーロッパ共和国連邦のニンジャマスターに似て、推進用の丸い帆とかなり小さいが方向転換用の四角い帆の両方を装備している。とはいえ、この四角い帆はあくまでも緊急時用のものであり、普段は推進用の帆を操って方向転換を行うように設計されている。これは現在建設中のスペースコロニーの太陽光反射ミラーと同様に、小さい帆を組み合わせて円形にし、それぞれの小さい帆が太陽光に対して少しずつ角度を変えるようになっているのである。唯一問題があるとすれば、果たしてここまで複雑なシステムがキチンと機能するのかどうかである。

「クラークゆかりの地からの参加です。九番、イギリス・インド・スリランカ連合チームはスパイダーネット型のラーマ号。」
中心ユニットから放射状に伸びた八本の長い制御棒に、直径の違う同心円状の帆を何重にも張り付けた姿は、もろに「蜘蛛の巣」そのものの形をしていた。クラークの出身国であるイギリスは、ヨーロッパ共和国連邦の一員としてではなく、中国に次ぐ大国で、かつての植民地であるインド、そしてスリランカと組むことにした。何とかクラークゆかりの国だけでチームを作り、この第一回大会だけでも優勝したい、そう思う人々がたくさんいたということだ。ちなみに「ラーマ」とはインド神話に出てくる王の名であり、クラークの小説「宇宙のランデブー」で出てくる宇宙船の名前でもあった。

「十番は国籍不明、正体不明。謎だらけの大富豪ブラック伯爵操るゼロゼロマシン号。」
出身国すら分からない人物である。いつ、どうやって貯めたのか、独自の宇宙ステーションを持つほどの富豪で、いくつものベンチャー企業に出資し、ステーションの設備もレンタルしている事が知られている。もしその研究の中から有望な新物質が発見されると、伯爵にはパテントの十パーセントが自動的に入るようになっていることもあり、彼の資産は止まるところを知らないのか、どんどん増え続けているらしい。
この艇も彼の出資しているベンチャー企業が開発した新技術を積んでいるらしく、自らそのテストパイロットを買って出たらしい。見た目はただの四菱型にしか見えないが。

 無線にコールが入った。ヒカリはコールの相手を確認すると、ヘッドセットから艇を統括するコンピューターに、先ほど閉じたサブウィンドウを開き、相手を出すように指示を出した。相手の男、ヨーロッパ連合チームのパイロット、金色の髪を長くのばしたフランス人のジョルジュ・ルイが画面に現れるのを確認してから、ヒカリは話しかけた。
「あら、ジョルジュじゃないの。何か用?」
「いや何、後輩が緊張のあまりヘマをやらかしてるんじゃないかと心配でね。ちょっくら様子見だよ。」
「それはどうも。それにしてもニンジャマスターですって?あなたらしい趣味丸出しの名前ね、ジョルジュ。」
ジョルジュは青い瞳を細め、少し不快感を表して反論した。
「うるさいよ、ヒカリ。そっちこそルナ・エクスプレスなんてダサい名前付けてるじゃないか。ヒカリは典型的な日本人だなぁ。なんでこう日本人ってのはセンスがないのかねぇ・・・」
これにはヒカリもムッとしたようだ。日本人のセンスの無さは世界共通の認識となっており、一般的には「ジョークの分からない国」とまで言われている。「彼(または彼女)は日本的な人だ」と言われる人がいれば、その人は「ジョークのセンスがない人」という意味だ。もちろん日本人の全てがジョークが分からないわけではない。そういう場合には「君は日本人らしくないね」と言われたりもするのだ。
「いいのよ!センスの良い方がレースに勝つ訳じゃないんだから!」
「そうかいそうかい。しかしまあ、ヤポン・コリア連合チームのパイロットはてっきりキョーシローだと思ってたんだがなぁ。大体女は家を守るってのが日本女性の美徳だろうが。」
ジョルジュは男女同権主義者が聞いたら、たっぷり三時間は説教されるであろう不遜な言葉を吐いた。こういう男尊女卑思想を持っていること自体、今時珍しい事ではあるが。
「あら、そんな化石のような話をいつまでするつもり?大体男性に比べると小柄な女性の方が宇宙飛行士にも向いてるのよ。キョーシローとも十二点しか差はないんですからね。体重の軽い私の方がレースには有利って訳。」
ちなみにこの試験というのは筆記・実技の両方があり、合計で千点満点である。
「はっ!そのころの俺の成績とは三十点も差があるぜ。」
彼らは皆同じ「国際宇宙飛行士学校」の生徒である。当然普段から接する機会が多い分、仲間意識のようなものもあるし、逆に気に入らなければとことんいがみ合ったりもする。相手の成績も筒抜けである。もちろんレースのパイロットとして競うわけだから、普段仲の良い者同士でもケンカみたいにはなるが。
「それに体重が軽いだって?奴と二、三キロしか違わないくせに。」
「誰が二、三キロよ!十五キロよ!十五キロ・・・」
勢いよく否定して、ついでに数値の修正をしたものの、それが絶対にやってはいけない間違いだった事に気づいて、ヒカリの言葉は後半消え気味になった。その言葉を聞いたジョルジュはニヤリと笑って言った。
「なるほど。ヒカリの体重は四十七キロか。ありがとよ!これでルナ・エクスプレスの性能はばっちり分かったよ。じゃあ次はスリーサイズなど・・・。」
「いい加減にしなさい!」
「はっはっは、冗談冗談。怒った顔もステキだよ。じゃあな、かわいい子猫ちゃん!」
ジョルジュは通信を切った。後には割り込みを解かれたモニター上に、艇外カメラが捉えた周辺の様子が映し出されているだけとなった。怒りをぶつける相手が姿を消してしまったため、どこにも八つ当たりが出来なくなってしまったヒカリは、操縦席の上で激しく歯ぎしりをしていた。なにか物を渡すとおそらく完膚無きまでにぶちこわしそうな感じさえした。
「ううううう・・・ぐぐぐ・・・ジョルジュの奴ぅぅぅ。」
そこで彼女の顔から怒りが消え、不安な表情が覗いた。
「でもしまったな~。重量のことは秘密だって、あれほど念を押されてたのに~。ジョルジュの奴、だてに年は食ってないわね。覚えてなさい!」
三つしか年齢が違わないのは置いておくことにして、ヒカリは彼を年寄り扱いすると同時に、後で仕返しする事をかたく心に誓った。

 その頃、これらの無線を傍受し、せっせとコンピューターの中に情報を蓄えている男がいた。国籍不明の大富豪として知られているブラック伯爵である。当年とって四十二歳(自称)、逆三角形の顔、伸びた鼻下と、端がカールした髭。髪はオールバックにまとめ上げ、片眼鏡をかけている。非常に怪しい外見をしているが、ちなみに本当に伯爵号を持っているのかすらも怪しい。何しろ素性が全く分からないのだ。「偽名を使っている」という噂もある。ただ一つ分かっているのは、個人資産が百億ユーロを超えているという事だけだった。
「いっひっひっひ。なるほどなるほど、ヒカリちゃんの体重は四十七キログラムか。これでルナ・エクスプレス号のデータも完璧になったわけだ。それでは優勝するのはこの我が輩、ブラック伯爵。みんなせいぜいお互いに潰しあってちょうだい。いーひっひっひ。」
スーツの胸に付けたバラの花をもてあそびながら、ほとんど中世の魔女と区別のつかないような声を上げて笑う伯爵だった。

駆け引き

 スタート時刻が迫ってきていた。地球上でもカウントダウンの数字が遂に六十秒を切り、地球上の大都市では、場所によっては夜も遅くなってきているというのに、街頭にあるテレビの前で大勢の人々がカウントダウンの数字を叫んでいた。これから二週間に及ぶレースをずっと見続けるわけにもいかない一般の人々は、スタートとゴールだけは見逃すまいと、待ちかまえているのだ。そして遂にカウントの文字の色が赤に変化した。
「十秒前、六、五、四、三、二、一、スタート!」
同時にクラッカーが打ちならされ、車のクラクションが昼の街、夜の街に鳴り響いた。テレビからアナウンサーの声が実況中継を始める。
「今スタートしました。ゆっくりではありますが、各艇が加速を開始しております。」
実際には軌道スピードで航行し続けていたため、スピード自体はそんなに遅くはない。問題はここからの加速がどの程度できるかで、この加速度の違いが二週間の間に少しずつ溜まっていき、勝敗を大きく左右する結果となるのである。
「さあ、ここでこれからの予想軌道を皆さんと見てみましょう。まずは現在のスタート地点がここ。そしてここを起点として・・・」
テレビ上で月を表す白い球が地球を表す青い球の周りを公転している。その青い球の周囲を黄色や緑といったカラフルなラインがと取り囲んでいる。いや、だんだん膨らんでいって、その膨らみの先に月の白い球が接近しつつあった。
「そして最終的には月への軌道へと移行するわけです。おそらくここは三十周目あたりになると思われます。」
何十にも取り囲んだ線は地球の周りを何周しているかははっきりとしないが、おそらく三十周くらいしているのであろう。コンピューターのシミュレーションでは二十四周で月軌道到着と記されていた。もっともこれは理想的な軌道と操船を行った場合の数字であり、互いに妨害をし合うであろうこのレースがコンピューターのシミュレーション通りに物事が推移するはずがないのは、誰の目にも明らかであった。

 レース十周目。各艇の加速能力の違いから、ようやく差が現れ始めていた。ここまでは互いに妨害工作を行う艇はなかった。というか、差があまりなかったために、下手に妨害をするとそのとばっちりを受ける可能性があったためである。もちろんそろそろ余裕がでてきたこともあり、何らかの妨害工作を始めようと考え始めた者達もいた。ゼロゼロマシン号を操るブラック伯爵もその一人だった。
「うーむ、現在第九位か。以外とほかの連中の加速性能はいいようだなぁ・・・さて、ではそろそろ始めるかな?妨害作戦第一弾!名付けて『人工日食作戦』!」
とりあえず独り言的に大声で宣言してから、周りに誰も見ていないのに気がつき、ちょっと照れてわざとらしく「コホン」と一つ咳をした。
「まず、我が輩のゼロゼロマシンが他の艇と太陽の間に割り込む。てーとー、他の艇には光が当たらなくなる。てーとー奴らはスピードががた落ち。その間に我が輩はスピードをあげて、連中を振り切る、てなわけ。いっひっひっひ、完璧な作戦だ。」
どうも彼は独り言を言わないと気が済まない質らしい。誰もいない空間を相手に作戦を説明していた。
彼はゼロゼロマシンの操船コンピューターに針路の微調整を命じ、太陽と他の艇の間にゼロゼロマシン号を割り込ませた。前方を行く艇の帆に、少しずつ影が落ち始める。
最初に気がついたのは二つ前、つまり七位の超速轟天号だった。パイロットはあわてて針路を変更しようとしたが、すでに遅く、自慢の最新装備を以てしても回避が不可能となっていた。そればかりか、最後の瞬間でとっさにかけた方向修正が災いし、艇の加速は停止したのみならず、理想的なコースからもわずかに外れ、この後コース復帰のため大きな時間のロスを引き起こしてしまった。
続いてゼロゼロマシン号は立て続けに、軌道要素から仕掛けやすい別の四艇にも同様の作戦を仕掛けた。唯一逃れることができたのは操船性を重視したニンジャマスター号だけで、他の三艇はわずかに遅れ始めることとなった。各艇のパイロット達は異口同音で、
「くそっ!スピードが上がらない!」
という内容の言葉を発した後、ボキャブラリーに登録されているものの中から「口汚い」部類に入る罵詈雑言をいくつか吐き散らし、またはそれぞれが信じる神を罵倒したりした。
「あっ、やばい、人工日食作戦だわ。」
ゼロゼロマシン号はさらに四位を行くルナ・エクスプレス号にも同様の作戦を仕掛けた。だが既に四艇が餌食になっていることもあり、その奇襲効果が薄れている分だけ作戦の効果も少なくなってしまった。ルナ・エクスプレス号は何とかブラック伯爵の作戦をギリギリでかわすことが出来たのであった。
「あっぶな~、もうちょっとで引っかかるところだったわ。各艇の予想軌道まで計算してこちらの動きを決めないとダメね。」
彼女はこれが研修や通常のフライトではなく「妨害可能なサバイバル・レース」であることを改めて認識した。
同様に艇の機動性の良さから人工日食の手から逃れていたニンジャマスター号の中でジョルジュは考えていた。
「危ないところだった。ゼロゼロマシンか、なかなかやるな。こちらもいずれは仕掛けにゃならんが・・・」
彼は自艇に与えられたいくつかの機能をどの段階で使おうかと考えていたが、それらの機能を使わない妨害の手もあることを今更ながらにして思いつき、自分も試してみる価値はありそうだと、感じていた。
「どうせあれは一回きりしか使えないからなぁ・・・あの日食作戦はかなり有効だぞ。まさに機動性を重視したこの艇のためにあるような作戦だ。」
同じ頃、四艇を犠牲者とすることに成功したブラック伯爵は取りあえずの成果に満足していた。
「いっひっひっひ、成功成功。これで我が輩は第五位か。あと四つだな。いーひっひっひっひ。」
と、そこで不意にまじめな顔に戻って今回の反省を行い始めた。
「ルナ・エクスプレス号に逃げられたのは、まあ仕方あるまい。恐るべきはニンジャマスター号。あれほどの機動性を持っているとなるとやっかいだな・・・」
彼はこの作戦の成否が機動性の差で決まることを熟知していたため、おそらくジョルジュが同様の作戦を展開するであろう事を予期していた。
「ふむ、あとあとやっかいなのはニンジャマスター号と超速轟天号かもしれんなぁ・・・」
先ほど不意をついて作戦の餌食にした中国チームの艇を頭に思い描き、胸につけられたバラの花をいじりながら、彼はそうひとりごちた。

 十四周目を迎えたとき、遂にルナ・エクスプレス号がトップにたった。本来加速性能を重視している上、パイロットの体重も最も軽いのだから当たり前なのだが、様々な妨害工作のおかげでここまでかかってしまったのだ。だが今や、彼女はこの有利を利用し、一気に二位以下を引き離しにかかるつもりだった。
今後の軌道を検討しているときに、その通信は入った。何事かと発信元をサブウィンドウ表示するよう指示すると、日本・韓国のテレビ局からの共同インタビューの申し込みだった。慌てて手元に手鏡を取り寄せ、髪や化粧に特に問題のないことを確認した後、彼女はインタビューに応じるために双方向通信用のウィンドウを開いた。
「こんにちは、ヒカリ・カワモトさん。」
三十代にのったばかりであろうか。少し顔に出始めた小皺を化粧で巧みに隠している女性キャスターが呼びかけてきた。ヒカリはそれが有名な国営放送のキャスターであることと、彼女が担当する番組のタイトルを思い出しながら、返事をした。
「あ、どうも、こんにちは。」
「まずは首位奪取、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。ようやく首位に立つことが出来ました。」
「唯一の女性パイロットですが、男性パイロット達に混じって戦うのはしんどくありませんか?」
きたわね、とヒカリは思った。地球軌道への打ち上げ前にも同様のインタビューを受けてはいたが、その時はあんまり注目されていなかった。周囲の目も
「あんな小娘に任せて大丈夫なのか?」
という目がほとんどで、いつか見返してやろうと思っていたのだ。それほどまで女性は信頼されていないのか、と。
「ええ、別に相手の顔を見ながらではありませんし、小柄な分、体重も軽く、レース上は大変有利に感じています。ルナ・エクスプレスも調子が良いですし、負ける気がしません。」
「ズバリ、優勝できそうですか?」
「このままいけば。頑張ります。」
「ありがとうございます。またコールすると思いますので、よろしくお願いします。」
「ありがとうございます。」
通信が終わった。ふぅ、と一息入れる。
「今ので上手くいったのかしら?男女平等思想の運動家達を積極的に応援する気はないけど、ちょっとぐらいは役に立てたかしら。」
彼女は運動家達の過激な思想を嫌ってはいたが、別に男の方が優れているとも思っていない。男の方が向いている仕事もあるし、女の方が向いている仕事もある。要は適材適所なのだ。問題なのは世の中はまだまだ男性優位な社会であり、男女の機会均等化を目指す運動も、「不適材不適所」になりそうな職場にまで、女性を進出させようとしている点だった。
そんなことを考えているところへ、コールが入った。相手をサブウィンドウで確認すると、ジョルジュからだった。
「ヘイ、ヒカリ。テレビ見たぞ。」
彼からの第一声はこれだった。
「ああ、ジョルジュ。なあに、祝福してくれるのかしら?」
「まあ、一応はな。そのうち俺が奪い取ることになるトップの座だが、取りあえずは後輩に貸しておくよ。」
彼は笑いながらそういった。まだまだ一波乱も二波乱もあるぞ、と言いたいようだ。
「あら、ありがとう、優しいのね。」
「う~ん、かわいい後輩のためならね。」
ヒカリはげっそりとした。
(何でこの男はこう軽薄なんだろう。キョーシローも軽薄なところはあるけど、ここまではひどくないわ。)
そんな彼女の想いを見てさとったのか、ジョルジュはさらに言葉を継いだ。
「正確には、『ヒカリのためなら』って方がいいかなぁ。どう?レースが終わったらデートでも。」
「あら、余裕なのね。そうねぇ・・・私に勝てたらデートしてあげてもいいかなぁ。」
それを聴いたジョルジュの顔つきが変わった。
「よし!今の言葉聴いたぞ。俺が優勝したらデートしてもらうからな。」
「ええ、いいわよ。もっとも、ここからルナ・エクスプレス号は本来の加速性能を活かして、一気に後続を引き離しにかかりますけどね。ついてこれるかしら?」
「ふっふっふ、心配ご無用。ヒカリとのデートのためならこのジョルジュ・ルイ、ニンジャマスター号の性能を使って、一気にトップへとたって見せよう。」
彼は不敵に笑うと、こう言い放った。どうもよほどの装備が搭載されているのか、自分の優勝を全く疑っていないようだった。
「そう、じゃあ、せいぜい頑張ってね。」
ヒカリは通信を切った。

 次の周回に入り、レースは再び大きく動き出した。熾烈な六位争いを続け、お互いに太陽からの光を奪い合っていたクローバー号とラッキー・セブン号が、ニアミス軌道にはいったまま、地球の夜の部分に入ってしまったのだ。夜の部分に入る直前までお互いを牽制し続けたため、安全な軌道を確保することが出来なかった両艇は、夜の部分でお互いの距離をどんどん縮めつつあった。
この様子は当然の事ながら、両艇をバックアップする地上チームや主催者、はたまた報道関係者に知れ、昼の部分にたどり着くまでの三十分間の動きがあわただしく計算された。
「さあ、すでに十五周目。ですがちょっとやばいか、クローバー号とラッキー・セブン号。このままだと衝突してしまいそうです。衝突してしまいますと、帆が破れてしまいますので、そこでリタイアとなります。両艇ともそれは避けたいが、いかんせん太陽の光が当たらないことには方向転換も出来ません。」
一部の番組ではニュース速報として流されたこの放送に、おおかたの人は「大変なことがおこっているらしい」と思い、あわてて中継専門チャンネルに切り替えた。街頭の大型スクリーンも、そのほとんどがこれから起こるかも知れない事故の様子を多くの人に伝えようと、流していたドラマを始めとする娯楽番組を中継専門チャンネルに切り替えた。テレビでは解説者がこのような事態になった経緯をCGを使って解説していたが、そうこうしているうち、アナウンサー専用の端末に新たな情報が入ったらしく、彼女は端末の文字を凝視した。
「えー、今報告が入りました。主催者側から両艇へ向けてレースを中断した方が良いのではないか、という申し入れが行われていましたが、両艇のパイロット、及びチームを率いる監督も救援とそれに伴う棄権宣言を拒否しました。あくまでもレースを続行するようです。両艇とも太陽の光が当たると同時に針路変更を行い、衝突を避けようというのでしょう。」
その内容をサブウィンドウに開いたテレビ放送から知ったヒカリは、ルナ・エクスプレス号のコンピューターを駆使して、本当に衝突回避が可能なのかを計算していた。今後、同様のことがルナ・エクスプレス号に起こらないとも限らないため、そうなった場合の対処法を考えるのも兼ねさせようというのだ。とはいえ、結果は芳しくないものだった。
「両艇は八十五パーセントの確率で衝突するわね。あとは互いに針路を譲り合う気があるかどうかが分かれ目か。」
その頃、同様の結果をニンジャマスター号の中で、ジョルジュも得ていた。
「このニンジャマスターや超速轟天号、ゼロゼロマシン号ならともかく、あの二艇が避けられるか見物だな。」
両艇ともゼロゼロマシン号による日食攻撃を避けることの出来なかった艇である。それほどの機動性は最初から期待できず、彼にとって、両艇の衝突は最早疑いようのない事実だった。
そして太陽の光が当たるポイントがやってきた。両艇とも太陽の光を最大限に受けて、相手との衝突を回避すべく針路修正を行ったが、もとより自分だけが不利になる修正を行うことは考えていない。そのため変更自体が多少甘めに行われたとしても、どうしてそれを責めることが出来よう。両艇はゆっくりと、お互いの帆を突き破りつつあった。
「ああーっと、結局衝突を回避できませんでした。帆が破れてしまいました。両艇ともリタイアです。」
中継を行っていたアナウンサーの声にも思わず力が入る。レース史上初めての事故であり、かつ初めてのリタイアであった。
事故を起こし、クラッシュした二艇は、レースの規定通り、用のなくなった帆を切り離し、生活空間だけを確保して漂流を始めた。あと十時間もすれば救援がやってくる。それまでの間、テレビでも見ながら救援を待つ長く退屈な時が続くのだ。もっとも、チームの監督や出資した国家や団体からのクレームなどにも対応する必要があるだろうから、そんなに暇でもないかも知れないが・・・。

 レースは既に終盤の二十三周目に入っていた。これまで互いに太陽からの光を奪い合う日食作戦を展開し続けてきたが、すでにそれも効力を失いつつあった。よほどの隙をつかない限り”風上”に立つことが出来なくなったのだ。その事を深刻に受け止めている人物がいた。ブラック伯爵その人である。彼のゼロゼロマシン号は一旦五位にまで浮上したものの、後ろから超速轟天号の追い上げを受け、第六位に後退していた。
「うむむむむ、どいつもこいつもなかなかしぶといなぁ。なかなか減らないではないか。しかもさっき追い抜いた奴らも少しずつ追い上げてきておるし、超速轟天号に至っては、我が輩のゼロゼロマシン号を追い抜いていきおった。仕方あるまい、そろそろ次の妨害作戦を展開するとするか!」
彼はゼロゼロマシン号に取り付けられた”発射管”の様子を確認し、それが「準備よし」なのを確認すると、ニヤリと笑って自らの勝利を確信した。
「見ておれ、次に昼が訪れたときに、貴様らは終わるのだ。いーっひっひっひ。さて、下準備としてフェイントをかけておくかな。」
そういうと彼は、他の艇を都合の良い軌道に動かすために、ゼロゼロマシン号の針路を変更した。
「くらえ、おとりの人工日食作戦!」
当然の事ながら他の艇もすでにゼロゼロマシン号の動きは読んでいる。今更この作戦を何度展開しようとも、影響のない軌道にすぐ遷移できるのだ。
「同じ手には何度も引っかからないわよ。」
「右に同じ!」
「やはり同じ手には引っかからんか・・・が、そろそろ夜になるな。ここまでは上手くいった、と自画自賛すべきだな。」
彼はこうひとりごちたが、このフェイントが一艇にだけ功を奏した。五位をいっていた超速轟天号がもろにこの作戦に引っかかった。あれだけ機動性の高い艇が何故?と不審に思い、中継を聴いてみると、どうやら帆の複雑な構造が災いしたらしく、何度も昼と夜とを繰り返しているうち、帆の制御部分が熱膨張で異常を来し、操作が不能になったらしい。やむなくクルーは帆を切り離し、リタイアを宣言した。
「ほぉ、リタイアか。ついていたな。よし、ではこの幸運の勢いに乗って、妨害作戦第二弾!『宇宙ゴミ作戦』!」
やはり癖なのだろう、伯爵は大声で次の作戦の説明を誰にともなく始めた。
「今度は奴らの帆をわざと破いてやろうという作戦だ。まず、我が輩のゼロゼロマシン号が先のとがった宇宙ゴミ、つまりデブリだな、を打ち出す。それが奴らの帆に当たる。てーとー、奴らの帆に穴があく。てーとー、昼になった途端太陽からの光の量に耐えきれず、そこからあれよあれよという間に破れてしまうのだよ。これで奴らはリタイア、いーひっひっひ。」
コンピューターが一応警告を発した。大会規定をディスプレイに表示する。それを見た伯爵は一瞬憮然とした表情を見せたが、すぐにこう切り返した。
「え、何?それは反則じゃないかって?いいんだよ、ばれなきゃ!そのために夜の部分で打ち出すんだから。」
どうやら夜陰にまぎれて打ち出すつもりらしい。そう、そのために最も良い軌道と相対位置は先ほどのフェイントとして使った日食作戦で得ている。後は実行に移すだけなのだ。
「まずは一つ目。三位のエンタープライズ号に向けて発射!次に先頭のルナ・エクスプレス号に向けて発射!そして三つ目はしつこく追い上げてくるコメット号に向けて、はぁっしゃ!!」
ゼロゼロマシン号は四本ある発射管のうちの三つからデブリを打ち出した。とはいえ圧縮空気を使って打ち出しただけなので、相対速度自体はそんなに大きくはない。むしろ大きな相対速度を持たせてしまうと不審に思われてしまうので、相対速度は小さく、しかもデブリ自体に一回きりの方向転換が可能なだけの空気を持たせ、衝突寸前には軌道要素を変化させて発射元がゼロゼロマシン号であるとは分からなくする、というおまけつきである。
「これで仕掛けはよしと。あとは光が当たれば自動的にばーらばら。これで前二艇と後一艇がリタイアするはずだから、我が輩は三位!」
三位を行っていたエンタープライズ号のパイロットは、昼の部分に入る準備をしているときに、一度ならず軽い衝撃を受けた。どこかに何かがぶつかったらしいことに気がついて、彼の顔は青ざめた。
(もしかして空気が漏れていたら)
というのが大きな懸念だったのだが、取りあえずそれはないようである。続いて操船系に異常が生じていないかどうかを調べたときに、顔をしかめた。どうやら八系統ある操船系のうち一系統に異常が見つかった。この程度なら予想の範囲内なので特に問題はないのだが、それでも彼の不安は完全には解消されなかった。艇外カメラで帆の様子をチェックしてみるが、夜の部分であるため光がなく、どうも要領を得ない。
(最悪はリタイアだな・・・)
残念ながら彼の予想は大あたりした。
「さあ、これから二十四周目に・・・おっと、ここで三位を行っていたエンタープライズ号の帆が破れてしまった!一体何があったのでしょうか、リタイアです。」
ブラック伯爵が打ち出したデブリは衝突直前に内部に詰め込まれていた破片を散弾よろしく打ち出し、エンタープライズ号の一操船系を破壊しただけではなく、その帆をズタズタに切り裂いていた。パイロットは艇が変なスピンを始めないうちにあわてて帆を切り離した。これで彼はリタイアすることになったが、デブリの直撃を受けたのであれば彼を非難する者はいないであろう事は、簡単に予想できた。
エンタープライズ号が切り離した帆は後に続いていたニンジャマスター号とゼロゼロマシン号の針路を妨害する形になったが、機動性に優れた両艇は難なくこれをかわした。だが、これで悲劇は終わりではなかった。アナウンサーが事故の実況を続ける間に、次の事故は起きた。
「続いてやってきていたニンジャマスター号とゼロゼロマシン号は何とか衝突を免れました。ああーっと、しかし、ここで六位のコメット号にも同様のトラブルが起きました!どうやらデブリが当たったようです。その後に迫るイーグル号はよけられるのか?」
イーグル号はあわてて針路を変更し、何とか衝突自体は避けることに成功した。が、本来の理想的な軌道からは大きく外れてしまっており、最早優勝争いなどというものから脱落したことは誰の目にも明らかだった。
これで優勝争いは残る四艇に絞られたのだが、その中で一人だけこの事故に関して疑問を抱かずにはいられない人物がいた。先頭を行くルナ・エクスプレス号のヒカリである。彼女はこのような事故の起こる可能性を検討していたが、そのあまりの低さに疑問を抱いたのである。
「いくらなんでもおかしいわ。昔に比べれば軌道上の掃除が進んでいるとはいえ、確かにまだデブリは残ってるわ。でも、同時に二艇?」
ヒカリは思わず、ジョルジュにコールした。ジョルジュは
「何だ?」
という顔をして通信に現れた。もちろん
「かわいい子猫ちゃんから云々」
という余分な科白も口から発したが、それを無視してヒカリは自分の抱いた疑問を彼に投げかけた。
「おかしいと思わない?この周回で二隻もデブリの直撃を受けるなんて・・・」
対するジョルジュの方はあんまり不思議には思っていないのか、ひょいと首をすくめてこともなげに言い返した。
「たまたまロケットの破片がたくさんうろついてたんだろ。」
ジョルジュの説明にも何となく釈然としない彼女は
「まあ、そうかもしれないけど・・・」
と一言だけつぶやいて、あとは他愛もない会話を交わして通信を切った。切ってからも釈然としない顔でつぶやいた。
「まあ、確かにそうかもしれないけど・・・」
同時刻、ゼロゼロマシン号の中でブラック伯爵は作戦の成果に満足していた。
「いーひっひっひっひ。よしよし。でも何で先頭のルナ・エクスプレス号は平気なんだ?もしかして外れたかな?距離もあったしな・・・まあいい、まだ先は長いからな。」
何よりも、もう一発残している事だし、と彼は思っていた。いざとなればもう一度やればよいだけなのだから、と。

 「さあ、そろそろ地球の周回軌道を離脱し、月へのコースに乗り変える頃です。現在のトップはルナ・エクスプレス号、二位がニンジャマスター号、三位ゼロゼロマシン号、先ほどまで二位を保っていたラーマ号は操船ミスから現在第四位。だいぶん離れてイーグル号。」
加速性能で上回るルナ・エクスプレスは、二位のニンジャマスターに百キロメートルもの大差をつけていた。このままなら確実に真っ先にゴールを切れるはずなのだが、ヒカリはそうはならないであろう事を漠然と感じていた。あのジョルジュの自信たっぷりな姿を見ていると、もう一波乱はありそうな感じがしてくるのだ。そしてその予感はあと一、二周で月への直線コースに乗ろうかという時にやってきた。
ルナ・エクスプレス号の艇内に、通信の着信を告げる合成音が響いた。何事かと通信ウィンドウを開いてみると、まじめな顔をしたジョルジュが映し出された。
「悪いな、ヒカリ。かわいい後輩相手には使いたくなかったが、これも勝負なんだ。」
「な、何よジョルジュ。」
ヒカリはいやな予感がした。あのジョルジュが無駄話を全部はしょって、こんなにまじめに話をするなんて・・・
ジョルジュの方はちらちらと何かを見ながらヒカリに向かって話し続けていた。
「しかし、ルナ・エクスプレスがここまでやるとは思わなかった。この技も本来はこのタイミングで使う技じゃあないんだが、これ以上差を開けられると効力がなくなっちまうんでな。」
「一体何をやらかすつもりよ。言っときますけどもう私の光を奪うことは出来ないわよ。」
ジョルジュは「わかってるよ」と短くつぶやいた後、意を決したかのように、決然とヒカリに言い放った。
「よし、そろそろやるぞ!受けてみろヒカリ!」
ジョルジュからの宣言を受けると同時に、ヒカリは慌ててディスプレイにニンジャマスター号の位置と軌道を出す。これから丁度”順風”になるので、帆を張り加速を始める位置だが、彼の艇は少し軌道が外に膨らんでいる以外は何ら新たな動きがない。いや、あった。ニンジャマスター号のエネルギー反応が急上昇しているのだ。何事か、と映像を出す。
「ん?ニンジャマスター号が・・・まさか人工日食作戦?いえ、違う・・・・・なに?彼の船が光り始めた?!」
今やニンジャマスター号は正視できないほど明るく輝いていた。これはつまり彼の艇からルナ・エクスプレス号に向かって大量の光がやってきている事を意味する。と同時にルナ・エクスプレス号は本来あり得ない方向からの加速を受けて、軌道がどんどん外に膨らんでいく。そして艇内にジョルジュの勝ち誇った声が流れた。
「必殺『光線集約の術』!」
「な、何?!針路が勝手に変わっていく!艇の制御が利かない!」
一方のヒカリはそんな技の名前を冷静に聞いていられる状況ではなかった。
「ふっふっふ、虫眼鏡の原理の応用さ。俺たちの艇は太陽からの光を受けて進む。だが、もっと強烈な光を他の方向から浴びせれば、たやすく針路は変わってしまう。ニンジャマスター号の帆は今レンズの役目を果たし、ルナ・エクスプレス号に大量の光を浴びせ、針路をねじ曲げているのさ。あばよヒカリ!」

ヒカリの選択

 ヒカリはルナ・エクスプレス号の中で次々入ってくる情報と格闘していた。入ってくる情報は全て、ルナ・エクスプレス号が理想の軌道から外れ、月軌道にたどり着いたとしても月の裏側を撮影できるようなポイントには達しないことを告げていた。たどり着く場所は二日前に月があった場所になる、というものだったのだ。
「くそぅ、ジョルジュのやつ、あんな技を隠してたのね。あっブラック伯爵にまで抜かれてしまった。早くコースに戻らないと・・・でも今から戻っても追いつけるかどうか・・・」
ヒカリは歯ぎしりした。しかしそうしている間にもルナ・エクスプレス号の針路は当初のコースからどんどん外れていく。月へ向かう軌道には到底乗れそうになかった。もし復帰したとしてもそれまでに一千キロメートルもの差を開けられてしまうに違いない。
「もう優勝は目の前だったのに・・・キョーシローになんて言おう・・・」
不意にそんなことも考えた。出発の時には仲間にも大見得を切ったのではなかったか。
『頑張れよ』
『絶対優勝だぞ』
『こわすなよ』
『どじって地球に落ちるなよ!』
そう言われた事を思い出しながら、思った。
(あーあ、こうなったらもうどうしようもないわね・・・優勝なんて夢のまた夢だわ・・・)
が、半分あきらめかけたその時、ヒカリの頭にあるアイデアが閃いた。
「地球に落ちるな・・・・か。ん?待てよ、そうか!」
慌てて軌道をシミュレートし、結果を片端からディスプレイ上に表示していく。
「今の場所と進行方向がこうだから・・・もしここでこういう針路を取れば・・・地球の大気圏ギリギリをかすめれば、一気に追いつくことができるわ。でも艇がもつかしら・・・?」
より安全な方法はないのかしら・・・そう思った彼女はさらにいくつかの軌道を表示してみる。ディスプレイ上には既に十以上の予想軌道が表示されていた。
「いえ、やっぱりこれしかないわね。しかも地球の重力と角運動量をうまく使えば、一気にトップに立てるわ。いちかばちか、やってみよう!みんな、壊れたらゴメンネ!」
ヒカリは操船コンピューターに次々と細かい指令を出した。ここからの操船は人間がマニュアルで行える範囲を超えているため、全てをコンピューター任せにせざるを得ない。パイロットとはどういう時にでも自分で操縦をしないと気が済まない人種だが、専門学校ではそれが災いになる事を叩き込まれた。
「まず艇をかみのけ座の方向に向かって動かして・・・ちょっとしたらわし座方向に向ける・・・と。」
シミュレート結果から進行方向に見えるはずの星座を確認し、キチンと艇が予定方向に進んでいるかどうか確認するための指標を確認した後、ヒカリは目を閉じた。方向転換にはまだ時間があるし、地球の大気圏をかすめるにはまだ四時間ほどの時間がある。とりあえずは食事と睡眠をとろう、と心に決め、美容のことを考えてまず先に眠ることにした。とりあえず軌道計算のために頭を使いすぎたのか、少し頭痛もしたし、目もショボショボしていた。
四時間後、目を覚ましたヒカリの目の前に、スタート時よりも遙かに大きく地球の青い海が見えていた。
(見えているのは大西洋か。)
そう思いながら時計を見てみると、あと四十分ほどで地球に再接近する事が分かった。彼女は手軽に済ませられるよう、宇宙食の入ったパックを破り、中に入っていたサンドイッチをほおばった。パン屑が艇内に漂わないよう、独特の練り方のされたそれは、食感からすれば最悪に近いものだったが、味と栄養だけは考慮されているようだった。それをカルシウムが増量されている牛乳で胃の中に流し込む。どうしても軌道の最終チェックをやりながらなので、食事をしているという概念や姿からはほど遠いが、まあ、一食くらいはこんな事があってもいいだろうと、ヒカリは考えていた。
あと十分で再接近という時になって、やっと全てのチェックを終えた。今のところ計算通りの軌道をルナ・エクスプレス号は進んでいる。大気圏をかすめる軌道をとるため、スピードを殺さないように帆は畳んであった。計算上は地上から高度五百キロメートルを通ることになる。問題は通り過ぎたあと帆を開くタイミングだが、それもコンピューターが上手くやってくれることを祈るだけだった。ヒカリは宇宙服のヘルメットをかぶり、何かあったときに備えた。ついでシートに体を押しつけるべく、シートベルトを締め、再接近の瞬間を待った。
「あとは地球にぶつかりさえしなければトップよ。さあ、がんばってねルナ・エクスプレス。・・・なむさん!」

 ジョルジュはルナ・エクスプレス号が地球をかすめる軌道を取ったことを知っていた。ヒカリが何を考えているのかは分からなかったが、危険だからやめさせようとコールを続けたが、全くヒカリは現れなかった。
(もしかしたら通信機能が死んでいるのか?)
考えにくいことではあったが、全く考えられないことでもなかった。それならば何らかの手を打たないと、ルナ・エクスプレス号はヒカリもろとも大気圏に飛び込んでしまい、燃え尽きてしまう可能性もある。
そう思い、彼は大会本部と連絡を取りたかったのだが、残念ながらそうも言っていられない状況になっていた。先ほどルナ・エクスプレス号に仕掛けた『光線集約の術』のため、速度が低下してしまっていたのだ。決して致命的なものではなかったのだが、後続のゼロゼロマシン号には十分だった。追い上げを見せたゼロゼロマシン号は、遂にニンジャマスター号を捉え、一気に追い抜く体制に入っていたのだ。
(何とかしないと、ゼロゼロマシンに相当の差を開けられてしまう。少しでも差を縮めておかないと、この後がマズい。)
そう考え、なるべく差の出ない軌道にニンジャマスター号を遷移させた彼は、ルナ・エクスプレス号がまもなく大気圏に突入してしまうことを知った。
「ヒカリ、ちゃんと脱出しただろうな?ま、大会本部がちゃんとやってるだろうから、心配してもしかたないんだろうけどな・・・」
勝負とはいえ、後輩に結構厳しい手を使ったことを彼は後悔し始めていた。本当にこれで良かったのだろうか、と。そして運命の最終周回がやってきた。

 地球上ではこの時間帯に中継チャンネルの視聴率がスタートに次いで高かったという。何しろ、ここで勝負の約七十パーセントが決まると考えられていたからだ。この後はただ単に各艇とも太陽からの光に押されるだけで、駆け引きをする余地がなくなってしまうため、一位で抜けてくる艇とのラップ差、そして各艇の加速性能だけで全てが決まってしまう。特にトトカルチョで自分のかけている艇が残っている人々の期待を、テレビ中継は一身に集めていた。
「半数以上の艇がすでにリタイアしていますが、さて先頭で抜けてくるのは・・・一体どの艇なのでしょうか?」
テレビ上ではCGによる各艇の現在地とスピードが刻々と記されている。
「さあ、まもなく最終チェックポイントを通過し、月への直線軌道に入ります。最初に抜け出したのは・・・・・エントリーナンバー十番、ゼロゼロマシン号です!」
ワッと歓声が起きた。同時により少ないがため息も漏れた。ジョルジュのニンジャマスター号にかけていた者達だ。だが、まだ幾分かの人たちは、ゼロゼロマシン号とのラップ差に最後の望みをかけて、かたくなに画面を見守っている。
「いま、ニンジャマスター号がチェックポイントを通過しました。トップのゼロゼロマシン号とのラップ差は九・八五秒、距離にして百キロメートル足らずです!」
この差にどれだけの者が期待を抱き、そして絶望感を抱いただろうか。期待した者は
「大した差ではない、ひっくり返せる」
と感じ、絶望した者は
「加速性能の差を考えると、逆転は不可能」
と考えた。だが実際にはこの後の解説者の説明が、ゼロゼロマシン号の優位が決定的なのを印象づけ、ニンジャマスター号にかけていた者の中には、券を破り捨てた者まで出た。
「えー現時点ではゼロゼロマシン号とニンジャマスター号の差は百キロメートルほどですが、ゼロゼロマシン号の方がわずかにスピードで上回っております。さらに加速性能ではゼロゼロマシン号の方が若干上ですから、月までの三十八万キロの間には決定的な差となって現れると考えられます。」
この放送を聴いたブラック伯爵は、うれしさのあまり、初めて他の艇との通信を行った。つまりニンジャマスター号のジョルジュに対しての勝利宣言である。
「残念だったなジョルジュ・ルイ君。『光線集約の術』のおかげでスピード不足か?いーっひっひっひ、優勝は我が輩がもらったよ。じゃあな。」
一方的な通信に半ばあきれ、半ば腹が立ったが、奴を驚かす手が残っている事を知っているジョルジュは全く慌てなかった。
「くそう、ブラック伯爵め、好き放題言いやがって。だがこっちにはまだ奥の手があるぞ。見てろ。」
そう思って最後の技を仕掛けようとしたその時、ジョルジュはレーダーが不審なものを捉えたのを見逃さなかった。そして技を仕掛けるのを一旦やめ、そのとばっちりを避けるべくニンジャマスター号の軌道をわずかに遷移させた。上手くいけば、奥の手を使わなくても何とかなりそうだった。
だが既にこの世の春を謳歌し、自らの功績をたたえるべく大音響で『ワルキューレの騎行』などをかけていたブラック伯爵はそれに全く気がつかなかった。
「よっしゃー!あとは月まで一直線に逃げ切るだけ!これで我が輩の優勝はほぼ決まったなぁ。いっひっひっひ。」
しかし、彼の余裕と勝利感はその数分後にはうち破られてしまった。突如としてレーダーが何かの接近を捉えていたのに気がついたのだ。実際にはもう何分も前から警告を発し続けていたのだが、大音響で気がつかなかったのだ。もしわずかながら静かになるこのパートがなければ、最後の最後まで気がつかないままだったろう。そして気がついたときには既に破局は目の前だった。
「あん?何じゃあれは?どこかで見たような・・・・・も、もしかして我が輩が打ち出した妨害用のデブリ?!し、しまったー、あのルナ・エクスプレス号を狙ってはずれた奴だ!こ、こら、来るな!来るんじゃない!来るなってば!!あ、あ、あ~れ~っっっっっ!」
デブリは当初のプログラミングに従い、軌道交錯したものに対して自爆し、散弾を打ち出した。散弾はゼロゼロマシン号の帆に穴を空けるだけに止まらず、制御装置をも破壊する。これにより、すでにゼロゼロマシン号はレース艇としての機能を全て喪失してしまっていた。
「ちくしょーっ!覚えてろよー・・・・・・」
絶叫する伯爵を乗せたゼロゼロマシン号を横目で追い抜きながら、ジョルジュはつぶやいた。
「ついてねぇ奴だな、デブリが当たったようだ。しかしこれで優勝は俺のものだな。」
テレビ中継もニンジャマスター号の優勝一色に染まった。それを知って天にも昇る思いになったとき、その突然のコールは入った。相手を知って慌てたジョルジュは急いで通信ウィンドウを開く。と同時に通信相手はこう宣言した。
「優勝は俺のものだと思ってたでしょうけど、そうはいかないわ!」
彼は驚愕した。艇が大気圏内に突っ込んでしまい、とうの昔にリタイアしてしまったと思いこんでいたからである。
「何?!まさかヒカリか?一体どうやって追いついたんだ?!」
慌ててレーダーを確認すると、そこにはニンジャマスター号よりも速いスピードで急接近してくるルナ・エクスプレス号の輝点が、確かに存在した。

栄光は誰の手に

 スクリーンに光るルナ・エクスプレス号に驚愕の色を隠せないジョルジュに対して、ヒカリは自分の策を披露した。
「何のことはないわ、あなたにもらった変な方向へのスピードを最大限に活用した軌道を取っただけよ。あなたは軌道変更を失敗し、ルナ・エクスプレスが大気圏内に飛び込んだと思っていたんでしょうけどね。確かに地球をかすめるときは生きた心地がしなかったけど。」
ひょいと首をすくめるジョルジュのまねをしたヒカリに対して、ようやく驚愕の色がとれたジョルジュは感心しながら言った。
「なるほど・・・まさかそんな手があるとはな・・・。」
コンピューターの計算では、今はまだ千キロメートル近い差があるものの、相対速度の差から、月軌道までには十分逆転されるであろうと予想された。何しろルナ・エクスプレス号は加速度を重視した艇なのだから。もちろんヒカリもそれを知っての上でだろう、勝ち誇っているのは。
だが、それを確認したジョルジュは不敵に笑うと、ヒカリの優越感を一蹴する事を言いだした。
「さすがだよ、ヒカリ。俺が見込んだだけのことはある。しかーし!やっぱり優勝はこの俺だ。見ろ!これが俺の奥の手だ!」
ジョルジュは「使わなくてもすむかも知れない」と思っていた奥の手を披露した。
「何?!ニンジャマスター号がっ!」
ヒカリが見ると、ディスプレイに映るニンジャマスターは、その四枚の帆と、デブリよけの装甲板をはじめとする船体の一部を切り離しつつあった。他から見ると、まるで空中分解したかのように見える。
「はっはっは、これぞ最終奥義『抜け身の術』!ここからの大幅な加速は望めないし、駆け引きも不可能だ。変なことをすれば月にたどり着けなくなっちまうからな。。だがここからの軌道にはデブリもほとんどない。なら装甲板や方向転換用の帆みたいな邪魔なものは捨てて、最低限のものだけを残して船を軽くした方が賢いだろ。軽くなれば加速度も多少は上がるしな。じゃあな、月で待ってるぜ。」
通信が切れたウィンドウを前に、ヒカリはコンピューターに相対速度と距離がどう変化していくのかをシミュレートさせた。なんと、相対距離自体はしばらくの間少しずつ縮まっていくものの、月まで三万キロを切る頃には相対速度はほぼゼロとなり、さがこれ以上縮まらないことを示していた。むしろ差が開いてしまうのだ。ヒカリはジョルジュと、ヨーロッパ共和国連邦チームの見事な戦術に感心したが、感心している場合ではないことに気づいた。
「うーん、あんな奥の手を持っていたのか。一体どうすれば・・・・・」
しばらく考えた後、結局はこちらも加速度を上げるしかないことに気づき、彼女は一つの決断を下した。
「そうだ、こちらもいらないものを出来る限り捨ててみよう!」
こうして第一回ソーラーヨットレースは、主催者や観衆が思いもつかなかった喜劇へと変化していくのである。
「ん?!ルナエクスプレスが追いついてきている?!」
最初に異常に気がついたのはジョルジュだった。定期的にルナ・エクスプレス号との差をレーダー及びドップラー・レーダーで調べていたのだが、もう既に六時間以上もドップラー・レーダーから吐き出される相対速度に変化が見られない。最初の一、二時間こそ誤差の範囲だと考えて笑っていられたのだが、ここまで変化が見えないと笑ってすまされる範囲ではなかった。このままだと月まで一万キロを切るあたりで逆転される可能性まで出てきていた。
「あいつ一体どんな手を使ったんだ?」
不審に思って光学カメラのズーム機能を使って、ルナ・エクスプレス号に生じたわずかな差がないか調べていた彼は、その後方に何か光ったものがあったような気がした。自分の目を確かめるためカメラの位置を戻し、ズームを最大にしたところ、スクリーンには少しずつではあるがルナ・エクスプレス号から遠ざかっていっている放熱パネルが映った。そこでもう一度ルナ・エクスプレス号にカメラを戻してみると、確かに八枚あったはずの放熱パネルが四枚になっている。これでは艇内は蒸し風呂になっているはずだが、おそらく宇宙服を着込んで消費電力も最低限に押さえ込んで、なんとか常温を保っているのだろう。
ジョルジュは「ヒカリの奴もなかなかやるじゃないか」と一瞬感心したが、それどころではないことに思い至った。
「なるほどヒカリの奴め、いらないものを捨て始めたのか!やばい!こちらもいらないものを捨てて、もっとスピードを上げなくては!」
こうして両艇の後ろには投棄された物が、分裂した彗星か小惑星よろしく、一列になって続くこととなった。本来なら宇宙利用のガイドラインである「国際宇宙協定」違反なのだが、ヒカリもジョルジュも一方的にではあるが大会本部に「備品を投棄する」旨を報告しているため、リタイア艇の帆の回収などを担当する船が総出で回収することになってしまった。大会本部側はこれに対する苦情を両艇に対して何度かし、何とか備品投棄をやめさせようとしたのだが、パイロットが席を外しているせいか、それともわざと無視しているかで、連絡を付けることが出来なかった。やむなしに両チームに申し入れをしたところ、
「帆の切り離し自体が国際宇宙協定に違反した行為であるのに、備品の投棄は何故いけないのか?このレースに関してだけは大会本部が責任を持つということで特例として認められていたのではないのか?」
と逆に問いつめられる始末。特に戦術として「抜け身の術」などと称する船体分離をおこなったヨーロッパ共和国連邦チームからの反論が強かったという。後に大会本部で運営を担当していた者が匿名で語ったところによると、
「大会本部としては、回収船のペイロードが一杯にならないうちに、さっさと月にたどり着いてくれるよう祈るしかなかったよ」
という状態だったらしい。
だが遂にこの喜劇的な状態も終わりを告げようとしていた。大会本部の祈りが通じたのか、両艇とも回収船のペイロードを一杯にするほどは備品を投棄できなかったのである。局面は最終段階に入っていた。
「あと一時間で月よね。ええい!これももういいわ!」
宇宙服で完全防備したヒカリはエアロックから食品を保存するのに必要だった冷蔵庫を押し出した。ここに至るまでの軌道にデブリとして残るわけで、国際宇宙法にも違反しているのも、大会本部からうるさいほど中止を求めるコールが入っているのも承知していたが、どうやら後ろをついて来る回収船がすべてを拾い上げることに気がつき、遠慮せずに捨てまくっていた。
その事はジョルジュも同様に気がついていたが、ヒカリよりも多くの物を捨てないとレースに勝てない事を悟っているジョルジュは、手をゆるめるわけにいかなかった。そもそも「抜け身の術」自体がデブリを増やす戦法なのだから、今更気にしても仕方がない、という開き直りもある。彼はヒカリが最後に捨てたものが何であるかに気がついて、思わずこう叫ばずにはいられなかった。
「あっ、あいつ、冷蔵庫まで捨てやがった。じゃあこっちは一緒にフライパンも捨ててやる!」
だんだん低次元の争いに移行しつつあったが、それでも両艇は月へ向かって少しずつ加速度を上げつつあった。だが、そんな努力にも限界がある。先に気が付いたのがどちらかは分からないが、少なくともヒカリのまわりからは冷蔵庫を最後に投棄できるものがなくなっていた。
「あとは・・・と、・・・髪の毛くらいかしら?あんまり変わらないと思うけど、優勝の願掛けぐらいにはなるかしら?四年後までにはまたのびるわよね。」
そうつぶやくと、彼女は自慢だった長い黒髪をばっさりと切り、エアロックから愛おしそうに宇宙へ放出した。古代エジプトの王妃ベレニケにならった、願掛けが成功するかどうかは、もう数十分で判明するはずだった。
地球上ではここ数日のデッドヒートの様子に多くの観衆が目を離せずにいた。何しろ何が投棄されるのかによって、両艇の加速性能が一時間単位でコロコロと変化するのである。双方を応援している者達は
「あれを捨てろ、これを捨てろ」
と大騒ぎをし、中には両チームの本部に
「何故○○を捨てさせないのか!」
と電子メールを送ったり、TV電話をかけたり、挙げ句の果てには直接押し掛けてくる者が続出した。
テレビ中継も
「ただいまの備品投棄状況」
などというコーナーが出来、「国家の威信」などという言葉からはほど遠いものとなってしまっていた。
そんな中、遂に両艇ともが月軌道に達する瞬間がやってきた。国営放送のアナウンサーは努めて冷静に中継をしようとしていたが、やはり興奮を隠せないのか、声が少し甲高くなっていた。
「えーこの数日間、ゴミをまき散らしながら続いた第一回ソーラーヨットレースですが、ついに二隻とも月の裏側に回り込み、見えなくなってしまいした。果たして、先に写真を送ってくるのはどちらなのでしょうか?」
多くの者にとって、とくに両チームのスタッフにとっては無限とも思える時間が流れた。心臓の鼓動が聞こえなくなったような、そんな気がする瞬間だった。日本・韓国チームのブースではキョーシローを始めとするスタッフが息をのんで結果の瞬間を待ち続けた。
そして大会本部に設置された端末の音が鳴った。データが着信したのだ。このデータを送った方が優勝者となる。そして受信機のトレイの上には、表側と違い、クレーターだらけの表面が映った月の裏側の写真が、ルナ・エクスプレス号を示す船籍を刻印されて吐き出された。
「来ました!優勝はルナ・エクスプレス号です!」

エンディング

 四日後、地球軌道にまで戻ってきたヒカリを出迎えたのは、報道関係者によるフラッシュと質問の嵐だった。彼女は一つ一つの質問にまじめに答えていった。
「ヒカリさん、今の気持ちを一言。」
「ええ、やっぱりうれしいです。」
「月の裏側が見えたときはどんなお気持ちでしたか?」
「ちゃんと一番に送れるかどうか、心配で仕方なかったです。」
「誰にこの勝利を送りたいですか?」
「これまで支えてくれたチームの仲間です。」
「いやぁ・・・しかしお美しいですねぇ・・・スリーサイズは?」
「えーと、上から八十四、五十九、八十八・・・・・ってジョルジュ!」
気分良く質問に答えていたヒカリだったが、変な質問にハッと我に返ると、そこには記者に混じってメモなんぞを取っているジョルジュの姿があった。月の孫衛星軌道で回収船に拾われ、地球周回軌道に一緒の船で帰ってきたはず、そして彼女の後ろにさっきまでいたはずなのに、いつの間にやらちゃっかりと記者の間に混じっている。
「はっはっは、いやいやご協力有り難う。じゃあ、またな!」
「待ちなさい、ジョルジュ!ちょっと、待ちなさいったら!!」
他の質問をほとんど無視する形で彼女はジョルジュを追いかけて走り出した。だが、マスコミ関係者も黙ってこれを見逃すはずはない。
この日、表彰式がおこなわれるまでの間、軌道上で最大規模のステーションであるクラーク・ステーションは上を下への大騒ぎとなった。
この様子をテレビで見ていたキョーシローは
「相変わらず、仲のおよろしいこと」
とあきれ果て、他のスタッフ一同も
「今日のニュースはレースとは違う話題で盛り上がるんだろうなぁ・・・」
とため息をついたという。

 表彰式の数時間後。ようやくマスコミにも解放されたヒカリは、クラーク・ステーション内のとある喫茶店で、ジョルジュと向かい合っていた。目の前に置かれたレモンティを一口すすると、こうジョルジュにかみついた。
「公表なんてしたら承知しないんだから!」
「ああ、ヒカリの体重が四十七キロでスリーサイズが八十四・五十九・八十八ってやつか?」
「そうよ。」
ぶっ殺しそうな目をしたヒカリとはなるべく目を合わさないように努力をしながら、ジョルジュはとぼけた。いかにも
「コーヒーが美味しいです」
という表情で誤魔化そうとするジョルジュをヒカリは睨み続ける。やむなくいつまでも黙りやおとぼけを続けることが不可能だと感じた彼は、ヒカリにこういった。
「いやいや、いいプロポーションでないの。才色兼備の女性パイロット。最高だね。俺だったら何でも言うこと聞いちゃう。」
「そう思うんなら、そのメモ捨ててよね。これまで内緒にしてたんだから。」
コホン、と一つ咳をすると、彼はヒカリに対してこういった。
「まあ、それはそれとしてだ、何で髪切ったんだ?」
ヒカリはふと、同じ質問を記者にされたときとは違った感想を持った。その思いをジョルジュにぶつけてみる。
「似合わない?」
「いや、似合ってはいるけど・・・そうだな、俺の好みを言わせてもらうと、長い方が好きだけどな。」
「そう・・・ま、あなたに見せるために伸ばしてたわけじゃないからいいんだけど・・・」
何か引っかかることがあるのか、少し寂しそうにしているヒカリを元気づけようとして、ジョルジュは突如ニヤリと笑ってこういった。
「でもまさか、そこまでやるとは思わなかったよ。俺の完敗だ。だけど言っとくけどなヒカリ、今度は負けないからな。」
それを聞いて、ヒカリもニヤリと笑って受け答えた。
「ええ、いつでも受けて立つわよ。」
喫茶店の中に二人の笑い声が響いた。

 同時刻、リタイア後に自分の専用ステーションに戻っていたブラック伯爵は、先ほどまで行われていた表彰式の様子を録画で何回も未練がましく見返しながら、叫んでいた。
「くそーっ!本来ならあそこに立っているのは我が輩のはずだったのに・・・今度こそは見てろよ!」
録画されたテレビ放送の中で、アナウンサーがこう告げて、幕を下ろした。
「それでは皆さん、また次のレースでお会いしましょう!」

蛇足

 「ジョルジュ!あれだけ内緒にしといてって言ったのに!」
レースから一週間ほど経ったある日の午前十時頃、トレーニングウェアを着ているジョルジュを、今し方登校したばかりなのだろう、Tシャツにジーパン姿のヒカリが追いかけていた。
「しゃーねぇだろ!プレスが書いた記事にまで責任持てるか!」
彼女の身長・体重・スリーサイズは、インタビューの時に居合わせたゴシップ雑誌の記者によって世界中に流された。あの場にいたのは二人だけではなかったのだから、当たり前と言えば当たり前の結末であった。この記事はこれを読んだ何者かの手によって学内掲示板に張り出され、今や彼女のパーソナルデータは、学内で知らない者はないほど有名になっていた。
ヒカリは広いキャンパスの廊下で、ジョルジュを追いかけながら叫んだ。
「ちゃんと責任取ってよね!」
 

アベノ橋魔法☆商店街のモデルとなった地域取材記

1.はじめに
 「アベノ橋魔法☆商店街」というガイナックス製 アニメの舞台となった天王寺・阿倍野界隈を久しぶりにフラフラすることにした。DVDを買ってしまった上、大学・大学院時代にはJRで一駅隣の寺田町が最 寄りの大阪教育大学天王寺学舎に通っていたため、この辺はよく買い物をしたり晩ご飯を食べに来たりした場所である。アニメでも語られている通り、再開発も かなり進みつつあることであるし、折角だから安倍晴明神社の取材も兼ねて、アニメに出てきた風景を撮影して回ろうと思いついた。

2.天王寺~東天下茶屋
8月17日 晴れ

 久しぶりにやって来た天王寺。家から地下鉄を乗り継ぎ天王寺までやって来た。今日の取材予定はまず安倍清明神社を回って、その後阿倍野・阿倍野筋商店街、そして「あべの銀座」へ。
「いやぁ、あっついなぁ大阪は」という鶴田謙二版のあるみちゃんがつぶやいていた様な日でありましたが、まずは阪堺電車で安倍清明神社の最寄り駅である 東天下茶屋へ。駅を降りて「この辺やったかなぁ」などと思いながら歩いていると、まず見つかったのが「阿倍王子神社」。ここの飛び地みたいな感じで「安倍 清明神社」はあるらしいので、まずはこの阿倍王子神社で参拝をした後に、目的の安倍清明神社へ。ちなみにこの阿倍王子神社にはとっても大きいクスノキがあ り、これがあのクスノキになったのでしょうか。

  そしていざ、安倍晴明神社。おお!これが、かの物語の舞台になった神社か・・・って小さいなぁ・・・とてもラジオ体操が出来るような広さはない。どちらか というと阿倍王子神社の方がそれらしい感じだったので、きっとその辺を混ぜて作品にしたのでしょう。でもさすがにお稲荷さんもありましたし、やはりここで も「ご縁がありますように」とお祈りしてきました。

3.阿倍野~再開発地域
  再び阪堺電車に乗って、今度は天王寺までは行かず、その一つ手前の阿倍野駅で降りる。ちょうど阿倍野ベルタの正面にあるんですよ、この駅。しかも!1話で 雅ジイが入院した後に出てくるシーンの元ネタ場所がありました。そう、この「サンタの作りたて工房」は、ちんちん電車が通り過ぎたときに見える「マンタの 作りたて工房」と全く同じシーンではありませんか!「そうかぁ、ここが元になっているのか」と、妙にマニアックな感心をしておりました。ちなみに、このあ と「折角だから」と阿倍野ベルタにあるはずのアニメイトに寄ろうとしましたが、場所がわからず断念。リベンジしに行かなくては・・・。

  そしていざ、「あべの銀座」から再開発地域へ。大和銀行の手前にあるのが「あべの銀座」の入り口なんですよ。いやぁ、久しぶりに行きましたが、だんだんお 店の数が減ってきているような・・・いや、もともとお店の数自体もそんなに多くない商店街なのですが、昔からあったアポロの横にもルシアスとかいう新し い、少なくとも学生時代を思い出したときには記憶にない建物も出来ていて、ずいぶんと変わってきている様子。「う~ん、再開発もここまで・・・」と思った 一幕でありました。

  そしてさらに裏の方にまわると、ありましたよ。「大阪市管理地」の看板。あの「亀の湯」の跡地に張られたフェンスにも張ってありましたよね。あの看板です よ。残念ながら「亀の湯」の元になったであろう銭湯は今回発見できませんでしたが、本当にあるんだなぁ、あの看板。しかもクレーンが持ち込まれている一角 もあり、「本当に再開発をやっているんだなぁ」と実感させられるところもありました。もう一回あの辺を回って、レポートしてみたいものです。


4.グリル・ペリカン?!

  その後、見つけてしまいました!そう、あるみちゃんの家「フランス一品料理グリル・ペリカン」の元になった場所!その名も「フランス一品料理グリル・マル ヨシ」!「『フランス一品料理』って、そんな店あるんかいな」って思っていましたが、本当にあるんですねぇ。しかも!この路地の形は、あるみちゃんとサッ シが走っていた、そして雅ジイが落下してきたあの形にそっくり!看板もペリカンの看板そっくり。しかもしかも、この「マルヨシ」の入り口は「ペリカン」と 同じような扉で、カーテンも同じ。ついでに言うと、「エスカルゴが3個で900円」というところまで一緒!

  うぉぉぉぉ!間違いなくここがモデルだ!しかもショックなことに、この奥には大衆中華料理チェーン店である「眠眠」があり、私は大学・大学院時代にこの道 を通って晩ご飯を食べに行っていたのである。しかも一回や二回ではない。なんで番組を見たときに思い出さなかったんだろう・・・?不思議である。シェフの おっちゃんに訊いたら昭和21年からやっているそうな。
ちなみに今日のお昼ご飯は当然「マルヨシ」でとった。ランチメニューがあり、1200円で食べることが出来る。内容はメニューに「洋風料理」と書かれて おり、「フランス料理」というよりは洋食屋さんメニューであったが。よし、次はあのメニューに書いてあったフランス料理を食べに行くぞ!というわけで、ツ アー参加者募集中!

2020/07/11追記

 

 

リクエストを受けまして、追記します。「グリル・マルヨシ」の場所ですが、すでに再開発により失われております。現在はあべのキューズタウンが建っています。赤い★マークを付けたあたりにありました。

5.次回に続く
 というわけで、「アベノ橋魔法☆商店街」の舞台となった地域を歩いて回った訳だが、まだまだ未発見のものがあると思われる。そこで、本来なら今日一日で終 わらせるつもりであったこのツアーをもう一回、今度は「あべの銀座」から新今宮駅の方まで拡張して行おうと思う。当然、あの「グリル・マルヨシ」でご飯 を、しかも今度はフランス料理を食べるのも目的としてだ。一人で行っても面白くないので、出来れば参加者募集!あ、ちなみに一人で行ってみたい人のために 「グリル・マルヨシ」の場所を示しておく。この大和銀行裏に小さな路地があり、そこを入ったところなので、もし行ってみたい人は是非どうぞ。ついでにここ に紹介しなかった写真を下の「写真集」をクリックすれば見ることが出来ますので、よろしければそちらもどうぞ。
では、第二回に乞うご期待!

北野異人館取材記

1.はじめに
 神戸の北野異人館である。大阪に住んでいるのだから神戸の異人館などいつでも行けるし、レポートを書くほどでもなかろう、と思われるだろうが、書いてしまったのだから仕方がない。しばらくおつきあいを願いたい。

2.出撃
8月4日 晴れ

神戸・三宮方面に取材に出かける。昨日急に思い立ったものだが、別に思い立ったから行くのではなく、プラネタリウムのシナリオを書いていたときに、異人 館の雰囲気がどうしても思い出せなくて困ったから、もう一度確認するのと同時に写真を撮影しておこうと思ったからである。
また以前からテレビで見て気になっていた、異人館通りあたりにある中華のお店に行ってみたいという希望もあったのは言うまでもない。しかし一人で異人館かよ・・・。さみしいものがあるな。
家を出たのはすでに11時半。もっと早く外出するつもりだったのだが、ついホームページの更新をしていて遅くなってしまった。まぁ、気になるところを次 々と見つけてしまったのだから仕方がない。それにしてもこのレポートがあがると、ますます「SF」からは遠ざかるなぁ・・・何か「SF」っぽくするコンテ ンツを開発せねば。
ついつい愚痴モードに入ってしまうが、折角晴れているし、それほど湿度も高くないので過ごしやすい日だし、たまにしか出かけないわけだから、楽しくやろう。

で、家の近所にある阪神電車野田駅から西宮行き急行に乗る。三宮まで直通では行けないらしい。まぁ、急ぎでもないし、のんびりと行けばよいだろう、と思 い途中で乗り換えることにする。海方向を見て、つまり陽が当たらないように北側の座席に座っているのだが、目の前に阪神高速の高架が見える。あ、そろそろ 甲子園か。道理で。そういや甲子園パークも閉園したんだっけ?すでに「住宅展示場」の看板が見える。さみしいものだ。
などと書いているうちに西宮到着。ここでいったん電車を降り、須磨浦公園行きの特急に乗り換える。現在12時5分。この調子で行けば12時20分頃には 三宮に到着できるかな?するとまず中華屋さんを捜していきなりお昼ご飯コースか。まぁそんなもんだろう。取材は13時頃からスタートすれば、18時までは 5時間も使える。いや、実際にはそんなに足がもたないだろうから、16時くらいには切り上げるとは思うが。すると図書館に本を借りに行くことが出来るか も。おお、なんて取材活動な一日だろうか。ライターの鏡ですな。プロじゃないけど。いや、お金もらってるからプロか。

車内の様子も、昔を思い出してみるとずいぶんと変わったものだと思う。新聞を読む人は当然いた。音楽を聴きながら本を読む人も、私が作品を書き始めた頃 にはいたが、ずっと携帯電話でメールを書いている女性とか、ましてや私のように小型端末で文章を書いている人などは考えられなかった。当時のワープロは ラップトップになった頃だったしね。あれから考えると15年。本当に世の中変わったものだと思う。15年でこの有様なのだから、100年後の未来を予想し ようなんて、鬼が笑うどころか滑稽でしかないのかもしれない。でもSF作家はいろいろと未来を考えるし、将来を予想したがるものだ。ジュブナイルやライト ノベル系は別として。そうだそうだ、折角だから、うちのホームページには「こんなのは開発できないだろう!」と大見得を切って言える変なものを準備しよ う。あの「重力ソフトレンズ」みたいに。あれなんかはっきり言って、私が考えた中で無用の長物第1号になるものだろうなぁ、という変な自信を持っている ぞ。

と、三宮到着。時刻は予想通り12時20分ちょっと前。さぁ、いざ北野異人館方面へ。まずは昼飯だ!

3.異人館めぐり
 などと書いていたにもかかわらず、北野坂への入り口のところで1300円の「パスポート」なるものを購入してしまい、しかも中華屋さんが見つからなかっ たため、そのまま先に取材をすることに。まず目指したのは「香りのオランダ館」「デンマーク館」「オーストリアの家」。「香りのオランダ館」は旧オランダ 総領事邸らしい。ライプライターだのオルゴールだののアイテムの写真を撮る。中は香水の香りで良い感じなのだが、何しろ目的が目的なので香りなんぞそっち のけで、ひたすら雰囲気がわかる写真と珍しいアイテムを撮影することしかしない。楽しみ方としてはちょっと違う気もするが、まぁ取材なのでよいだろう。
続いての2館はテーマ館。まぁ、半分はどうでもいい感じだった。一応デンマーク館の方で、昔の傘やステッキ、ヴァイキング時代の男性・女性の衣装を撮影できたので良しとしよう。オーストリアの家でも貴族の衣装を撮影できたので、これもそれで良しとする。

これだとあんまり目的を達したような気がしない。そこでさらに回ることに。続いて行ったのは旧中国領事館。いや、「うろこの家」に行くつもりが通り過ぎ てしまい、そこまで行ってしまったんだけど。ここで3500円払って「うろこの家グループ9館」を回ることの出来るチケットを購入。すでに昼ご飯のことな どどこへやら。ここから怒濤の異人館めぐりが始まったのだ。
旧中国領事館はやっぱり中国の家具が多い。こちらの欲しいイメージとはちょっと違うので、とりあえず撮影はするがパス。続いて北野外国人倶楽部(旧フ リューガ邸)。ここは結構ものの揃ったキッチンがあったり、その上にメイドさんの部屋があったりで結構面白い。外では特選入館券を買った女性がドレスを着 させてもらったりしている。結構良い感じだ。そして山手八番館(旧サンセン邸)。やたらと仏像や前衛彫刻なんかがあったりして、仏教美術展を見ているよう だ。しかも何故だか1階にも2階にもドン・キホーテとサンチョの像がある。何なんだろう、これは?
さらに「うろこの家(旧ハリヤー邸)」。ここは良いぞ!タイプライターにカメラと三脚。それにあれはテニスラケットか?うむ、良いものを見せてもらった。ついでに言うと隣の「うろこ美術館」も良い感じだった。今度はあの2館だけを回るのも良いかも。

さぁ、中盤も終わり終盤戦開始。まずは市営の「ラインの館」へ。残念ながら調度品はほとんどなし。期待はずれであった。さらに旧パナマ領事館。船の模型 がたくさんあるところはさすがに海運国パナマの領事館である。しかも入り口にあるのはシーホース像ときたもんだ。ちゃんと頭をなでてきましたよ。
残るは3館。まずは英国館(旧フセデック邸)。1階にも2階にもバーがあり、カウンターがある。良いのは裏に井戸があったりしたところか。続いて洋館長 屋(旧ボシー邸)。ここにはいろんな調度品があって、非常によい。いろいろ撮影したが、ちょっとピンボケ気味だったのは、逆光になるポジションのものが多 かったからか。しかも自分で光を放っている調度品もあるし。最後はベンの家(旧アリソン邸)。家中剥製だらけ。ホッキョクグマもいたが、あれで2.5m か・・・すごく威圧感がある。やはり身長差があると威圧感はそれだけ出てくるものだなぁ。勉強になる。
これで全て回った。途中結婚式を行っているカップルがいたりして、良い感じの一日だった。

4.その後
 その後、中華料理屋を捜してハンター通りへ。ようやく見つけるも15時まで?時計を見てみると・・・あ、回ってら。うーん、残念。今度にするか。
やむを得ずそのままうろうろし、結局のところ駅前の地下飲食街で昼食。3時間に渡って歩き続けたものだから、足が棒のようだった。
昼食後はとっとと家に戻ってしまった。まぁ、こんなもんだろう、今日のところは。
次回は「風見鶏の館」とか、西の方を回ろう。いや、もう別に資料は揃ったから行かなくても良いという噂もあるのだが。

CJ Extra for NHK After Report ~アヒスト再び~

発端
 2/10。昨日のAC1に引き続いて、NHKの取材のためにFCSをやるというので、やって来たのがここ、新大阪コロナホテル。今日のは簡易版なので、 最初から異星人設定も作られたものがあるようだ。9:00開始だと聞いていたので8:30過ぎにホテルに着くと、そこにいたのは林さんと大井さんだけ。あ れ?他の人はまだ?
とりあえず3人で机を並べているうちにNHKスタッフが到着。1部屋しか借りていなかったCJ側に対し、
「FCSやるのなら2部屋あった方がいいですよね。もう一部屋借りましょう」
と借りてくれる。さすがはNHKだ。
で、人もだんだん集まって来たので、チーム分けをする。あ、私は今回異星人側か。では地球人のみなさん、さようなら。と地球人が全員出ていったところ で、異星人なんだけど・・・あの~、これってCJ4のアヒスト・・・あの時、私は地球人側で痛い目に遭わされたんですけど・・・。まぁ、いいか。「これも 経験だ」と割り切り、アヒストの設定を思い出す。
「確か無顎類から進化して、性は2つ。卵生でバカみたいに人口が増える。産児制限とか血縁重視はタブー」だったよね。これがどれだけ役に立つのかわからないけど。
9:30。FCSが始まる。生物設定はアヒストだけど、それ以外の設定が明かされる。まず、居住しているのはくじら座タウ星。タウ・セチとしてSETI では有名な恒星である。この星は地球人にとっても探査対象になっているので、すでに電波文明は脱していて、ここ100年くらいは電波発信を一切行っていな いことにする。
また惑星の数は7つ。そしてその第2惑星に我々は住んでいる。

プレ・コンタクト
 これよりアヒスト・モードに入る。但し年は地球の西暦、単位系は地球の標準的な単位系である。

2040年、我々は滅亡の危機に瀕していた。医療技術の進歩により、もともと多産であった我々アヒストは、人口が爆発的に増え始めたのだ。計算すると単 純計算でも40年の一生の間に2人で始まった一族が1万人を越えるため、どこかに移住先を求めることになり、恒星間探査・移民船の開発に力を注いできた。 そしてようやく完成の目途が立ち、以前から調査を続けており、知的生命体が存在すると考えられる惑星系にメッセージを送ることとした。この惑星系は牛飼い 座のはずれ、冠座との境界方面に10光年ほど離れた場所にあり(この星座は便宜上そう書いているだけであり、実際にタウ・セチからは全く異なった配列にな るはずです)、ハビタブルゾーン内にある第3惑星からかなり強力な電波が発せられていることがわかっている。第4惑星もゾーン内にはあるが、電波強度自体 は大したことがないので、おそらく彼らは主に第3惑星に住んでいるのだろう。

我々はかの星系に対し友好と移住したい旨を伝えるメッセージを電波で発信するとともに、恒星間探査機の建造に着手した。メッセージには相手星系の惑星の軌道半径と赤道半径を示すグラフ、そして我々アヒストの挨拶のポーズ、さらには第3惑星と第4惑星の上に同じ絵を置き、
「この惑星にすんでいるのか?」
と問い合わせるつもりのメッセージを送信した。サイズは1023×1023ドットという、かなり大きなものである。

10年後、2050年。恒星間無人探査機が完成した我々は20年後に着くように、0.13G加速を行うよう設定して相手星系に向けて発射した。当然、探 査機を送ることは相手に知らせる。相手星系で停止する(正確には人工惑星となる)探査機は、親機が母艦機能を持ち、通信の中継などを行う。同時に詳細な観 測を第3及び第4惑星に対して行うための子機2機、さらにバックアップ用に1機を積んでいる。
また同時に移民用コールドスリープ併用恒星間宇宙船の建造を開始した。これは探査機の設計をベースに大型化したものであり、20年後に完成の予定である。
この年、周期律表、我々の生体組成表、地質学的データ、大気組成・表面地質情報などの惑星環境データを送信した。相手がこれを解釈して、我々の母星に対する知識を得て、我々とよりよい関係を持ってくれることを望んでいるのだ。

2060年。そろそろ最初の返事が来る頃である。我々は次のメッセージを準備しつつも、彼らからの返信を待った。そして翌年、待ちに待った彼らからのメッセージが到着した。その内容は
1)第3惑星にのみ相手の姿らしきもの
2)我々の星系に我々の姿(第2、3惑星両方に)
これは第3惑星だけに居住しているという意味だろうか?それとも・・・少なくとも②は我々が恒星系の中のどちらかに住んでいるのだろうと考えていることを示している。すると、ただ単に向こうは第3惑星にのみ居住しているとも受け取ることが出来る。

明けて2062年。我々は先年のメッセージに対する返答を送ることにした。それは下のようなものである。
1)我々の星系(第2惑星にのみ我々の姿)
2)相手の星系(第3に相手、第4に我々の姿。上に)
これで我々は恒星系の第2惑星に居住していることを示し、相手側の恒星系の第4惑星に住みたい、若しくは行きたい旨を示した。
また同時に共通のコミュニケーション基盤を構築するために、文字、数字、演算記号、論理記号、単位系を送信する。これを2070年まで送信することとした。

2065年。2060年から逆噴射を始めた探査機を相手が観測可能になる。これで我々が向こうに対して探査機を送っていたことが我々の通信以外にもはっきりとわかるはずだ。

2070年。遂に待望の移民船が完成した。ちょうど探査機も先方に到着した頃である。我々は探査機からの結果が帰ってくる10年後に出発することを決 め、もう一隻の宇宙船を建造することにした。2隻体勢であれば、万が一どちらかがトラブルを起こしても、相手の恒星系にたどり着ける可能性が高まるから だ。また、あらかじめ出発前に予告を送ることにした。それは「第4惑星まで行きます。そこで会いませんか?」という意味のメッセージである。

しかし、気になることもないではない。向こうからのアプローチがあんまりないのだ。こちらから送ったデータに反応し、返答が来るまで最低20年かかるの は理解できるが、それにしても情報の露出があんまりないような気がするのは気のせいか?とはいえ、我々には残り時間や選択肢が限られているのだから、これ はもう仕方がない。

2080年。2隻目の宇宙船が完成するのと同時に、ついに待っていた探査機からの結果が返ってきた。その結果、第4惑星は大気が薄く、居住には適さない ことがわかった。また都市らしきものはないが、小規模な文明活動が認められた。一方第3惑星の方は窒素と酸素からなる大気を持ち、都市と大規模な文明活動 が見られた。当然我々の生存にも適した環境だ。だが相手の母星でもあるため、ここに移住させてもらえるかは交渉次第となる。
一刻の猶予もない我々は、この探査結果を受け、早速宇宙船を発進させることにした。2隻の船の1隻目には人員500人と居留地建設用の資材を、そして2隻 目には人員ばかり1000人を搭乗させ、20年後の2100年に到着するスケジュールで送り出した。当然のことながら、向こうでの居留地建設には技術者が 欠かせないので、かなり比率が高くなっている。
同時に母星側からは相手側に対し2100年に到着予定であること、そして第4惑星で会いましょうと言うメッセージを送った。また、まだまだ移住先を模索するとともに、移民を継続しないといけないので、3隻目の建造を開始する。

2082年。新しいメッセージが到着した。しかもこれは探査機を経由してきたものらしい。どうやら彼らは探査機を有人であると勘違いしてしまったよう だ。内容はどうやら第4惑星で会いましょうとも受け取ることの出来るもの、そして第4惑星表面上の地図である。ちなみに地図だとわかったのは、先年に探査 機から送られてきていた地図と一致したからである。ここで会談を行うつもりだったのだろうか?少なくともコンタクトには積極的らしい。これならば、先に発 進した2隻も先方の恒星系で無事コンタクトが出来るに違いない。

と、ここで時間がやってきたので、今回はコンタクトなしとなった。

反省会
 さて、反省会である。まず、今回のコンタクト全体に言えることであるが、先日のAC1の結果が反映されていたのは言うまでもない。どんな際にも相手の不 信感を招かないために、アヒスト側は何かを送る際には必ず予告を出した。また、フライバイ型の探査機はほとんど役に立たないであろうと言う結論から、相手 星系で停止するタイプのものが採用された。
地球人側からは新しい提案があった。短い期間で質問をするのは難しい。そこでとりあえず「これが事実なんだろう?」と突きつけてみる。もし間違っていれ ば、訂正されて返ってくるだろうというものだった。全ての項目についてこれらが使用できるかは判断が難しいところだが、少なくともアヒスト側は訂正した情 報を送り返したのだから、地球人側の意図は成功したと言って良いだろう。

しかしそれ以外には結構厳しい意見も出た。まずアヒスト側の出した最初のメッセージだが、地球人が第3、4惑星に住んでいるという事実の確認と同時に、 我々がそこに移住したいという意図を伝えたつもりだったが、これが相手には伝わらなかった。複文にしてしまってはわかりにくいということだ。つまり、最初 のメッセージは
「挨拶」
「相手星系の姿を示すという事実」
「第2、第3に住んでいるのか、という質問」
「そちらに移住したい、という希望」
と最低でも4枚は必要だったということだ。これを1枚で済ませてしまったのは、確かにわかりにくいかもしれない。以降についても同様である。また途中から地球人側のレスポンスが落ちたのは、我々の探査機が有人だと勘違いし、
「どうせ来るのなら無理に通信なんかしなくても、相手が来てから会見して訊けばいいや」
と、待ちに入ってしまったためであった。そういう意味ではこちらの動きは性急にすぎたのかもしれないが、かなり逼迫した状況を設定されてしまったため、や むを得なかったと言うべきかもしれない。あんまり厳しい初期条件を与えると、コンタクトは可能かもしれないが、プレ・コンタクトがおろそかになる可能性を 指摘されたわけだ。

FCS at 西はりま天文台公園 After Report ~星とFCS~

発端
 「FSCをカリキュラムとして取り入れてみたい。そのために一度体験してみたいんですが。」
CJ4以降、あちこちで「FCSをカリキュラムとして教育現場で取り入れないか?」といろんな人に紹介してきたが、昨年10月に西はりま天文台公園の複数 の研究員から、そう依頼された。西はりま天文台公園というのは兵庫県立で、兵庫県佐用郡という岡山県との境に近いところに建つ口径60センチの望遠鏡を備 えた施設だ。
昨年11月末に西はりまの坂元研究員を交えてCJのスタッフと検討し、年明けに一度シミュレーションを行うことになっていた。

年が明けて2002年3月2日、土曜日。この日、泊まりがけで西はりま天文台公園にてFCSのデモを行った。CJ側でFCSの設定などは全て準備し、向 こうではプレゼンテーションとデモという方針である。FCSもDCの簡易版とし、あんまり深くつっこんだ設定などは避けることにした。
さて当初14時からかと思っていたが、実際は15時からスタートとなった。台長の黒田さんが15時にならないとやって来ないなどの理由もあったし、何より 準備していたパワーポイントの画面が大型ディスプレイに表示されなかったからである。どうやら先方が準備していたコンバーターが激しい機種異存を持ってい るようだ。今後は注意がいりますな。
15時になると早速始める。まず大迫さんがFCSの歴史と概要を紹介。続いて阪本さんがパワーポイントを使ってのプレゼンテーション。主にCJの活動と FCSの流れについての紹介である。事前打ち合わせからすると若干の時間のずれはあったが、質疑応答まで入れて16時には終了。その後、FCSに入ること になった。

CJ側のスタッフは事前に班分けをして・・・いたのかいなかったのか、とりあえずその場で何となく決めた。西はりま側もスタッフを適当に二分し、同席し ている「人と自然の博物館」スタッフも半分に別れてFCSを始めた。西はりまにはスタディルームという大きな部屋があり、ここはパーティションで二部屋に 分割できるので、こういうときには大変楽である。


簡易ワールド・ビルド

 私が入ったのは「異星人2」というチームで、これは「改造地球人」という設定である。そこでまず地球人と異なる肉体的特徴を何か一つ付加すると言うことで議論が進んだが、これは大いにもめることとなった。これには以下のような意見が出た。

赤外線が見える
赤外線しか見えない
電波が見える
超音波を出せる

指の数を変える
光合成が出来る

性が3つ
単性生殖と両生生殖

大きく分けると3つに分類できる。つまり認識系の変更、体そのものの特徴付加、生殖系の変更である。生殖系は今回は見送られ、また同時に体への特徴付加 も見送られた。認識系だけをいじることにし、最終的には赤外線も見える。ということにした。具体的には「青、緑、赤外」と、現在の赤を感じる部分が赤外線 へと置き換わる形である。
これによりどのように社会に変化が現れるかを考えた。結果、いろいろと面白い話が出てきたので、まとめてみよう。
まず大きいのは「街灯がなくなる」というものである。街灯は「治安維持のため」ということで設置されることが多いのだが、我々は赤外線を見ることが出来 るため、人間がそこにいるのかを見ることが出来る。またついさっきまでいたかどうかを残留熱から判断できる。つまり闇討ち文化というのが発生しない。また 会話をしていても相手の体温の変化で感情の変化を感じることが出来るので、それを積極的に活用する文化が生まれる。つまり体温変化を併用して会話をし、微 妙なニュアンスを伝える補助手段とするとか、会話をするのは顔色をうかがいながら行うのが当たり前であり、「顔色をうかがう」をいうのは「会話をする」と いうのと同義語である、など。
天文学分野でもかなりの変更が見られる。つまり実際に今見えている星空だけではなく、星形成領域と呼ばれる、原始星が誕生している現場を望遠鏡さえあれば生で見ることが出来る。

続いて技術レベルであるが、これは事前設定として、シミュレーション開始時の技術レベルを1990年頃の地球と同じとした。つまり自分たちの惑星から人工衛星程度はOK。ということである。
ちなみに名称は、熱を見ることが出来る、ということでネツメ人とした。安直な名前と言ってしまうとそうなんですけどね・・・

簡易プレ・コンタクト
 さて、我々は1990年(シミュレーション上はー10年:以下SMY-10)に10光年離れたとことにあるとある恒星系でブルーシフトする電磁波を確認 した。どうやら核融合時などに発生するものらしい。どうやって確認したのかは少し問題があったが、まぁ、人工的な何かが見えたのは事実だ。しかもその光は 非常に短期間だけ見え、すぐに見えなくなってしまった。そこで我々は知的生命の存在を確認するため、電波と赤外線を主体として通信を行うこととした。何か (誰か)がいるのであれば受信して返答をもらえることを期待した。さらに単純な素数だけを送り続けるのも芸がないということで、以下のような工夫をしてみ た。
1)1年目、電波で19までの素数
2)2年目、2つの周波数(電波と赤外線)で、倍の数の素数を送る
3)3年目、3つの周波数でさらに倍の素数を・・・
4)4年目はさらに・・・
というように、毎年送る素数の数と周波数とを倍々にしていったのだ。これを10年ほど繰り返した。

しかし相手の正体については議論が分かれた。そもそもブルーシフトというのは何かがこちらに近づいているということをあらわしているのか?いや、もし宇 宙船の発進の時に噴射された粒子の発光が見えてのだとすると、それは地球からは遠ざかることになるわけだから、レッドシフトするはずである。しかし今回の はブルーシフト。とすると反対側のどこかに向けて出発したか、どこかからやってきて10光年先の恒星系で停止したかだ。

そしてブルーシフト検出から10年(SMY0)。に我々は相手星系の詳細な情報を得るために、専用の天文衛星「ジュガク」シリーズを打ち上げ、さらに月 面に電波天文台「モリモト」を建設した。これにより地球と月の38万キロを基線とする超高分解能電波観測を可能とした。それにより相手の星系の情報はかな りわかってきたが、どうやら文明らしき痕跡は見あたらない。ということであった。ということは、そこにやってきたのか?

SMY11。先方からの返事が返ってきた。やはりそこには何かがいたのだ。送られてきた通信は電波と赤外線の2つのチャンネル。電波は9個の素数を、赤 外線は18個の素数をヘッダにしたもので、彼らのいる位置を基準として、我々の太陽の位置、彼らのいる恒星、そして彼らのいる場所から20光年、我々の太 陽からだと30光年離れた場所にある恒星、をそれぞれ示す3枚の画像だった。おそらく我々のことを知っていて、彼らのいる場所を示して、というところまで はわかったが、問題になったのは3枚目。
「これはここに行きます、なの?それともここからやって来ました、なの?」
結論のでないまま、しかしそこに知的生命体がいると言うことだけは確認できたので、我々は友好の挨拶として、我々の姿(男女と子ども)、周期律表、体の組成、数学、計算式、人間・惑星・恒星からの距離など、大きさにまつわる情報を送った。

翌SMY12、こちらからの返事を待つまでもなく、彼らから姿や周期律表、体の組成、水素の波長(21センチメートル)を基準とした体の大きさなどが送られてきた。見たところ「二本足で立つでっかいねずみ」みたいだ。
「考えることは向こうも同じか。」
ちょっとくやしくはあったが、もしかしたら延々と素数を流し続けた10年間は無駄だったのかな?などと考えながらも、次の手を考える。
我々としては、30光年先の恒星から来たのか、そこに向かおうとしているのかは問題ではない。そこへ行こうとしているのであれば、
「そっちよりこっちのほうが面白いぞ」
と主張し、そこへ来たのなら
「もうちょっと足を延ばしてみない?」
と無理矢理にでも誘致する作戦に出た。いや、ちょっと無謀だったかもしれないし、あとで実際に「しまった!」とみんなで頭を抱えたのだが・・・。そんなこ とは当然そのときにはわからないので、我々の太陽の上に、相手の姿と我々の姿とを書き、「来て欲しい」という意図を伝えようとした。また我々の音楽を送る ことにした。これは
「もっと慎重に」
という意見もあったのだが、西はりまの黒田台長が
「空気の振動というのは宇宙に普遍にある。従って感じて楽しくなる振動というのがあって、音楽というのは宇宙で共通だ!」
という主張を受け入れてみたものである。かなりチャレンジングなことだったことは確かだろう。ではどんな音楽を送るのかももめた。曰く、
「宇多田ヒカルの歌には成分として云々・・・・」
とか
「それなら美空ひばりの歌にも・・・」
などと言うことが半ば真面目に、半ば投げやりに議論され、結局はクラシックなどではなく美空ひばりの歌をサンプリングして相手に送ることにした(スーパーバイザー:苦力さん、ごめんなさい)。

SMY13。彼らからの通信は再び新たなメッセージになる。先年送られてきた星図。これの中で議論になっている30光年先の恒星について3枚の絵が送ら れてきた。1枚目はそれまでと同じだが、2枚目ではその星が大きくなり、3枚目では消えている。しかも通信にはトリチウムの半減期を使ってその図に描かれ た状態への遷移時間が表されており、3枚目になるのは6万年後のことらしい。
「6万年後には超新星爆発で星がなくなるのか?」
「いや、そんなんだったら20光年離れたくらいじゃだめ。」
「人口爆発するとか?」
「6万年後の対策を今から練ってるのか、こいつらは?」
議論は白熱し、結局のところは
「情報が少なすぎてよくわからんが、とにかく6万年後に困ったことが起こるらしい。」
ということだけがわかった。しかし6万年後のことってどうやったらわかるんだ?謎である。

SMY14。彼らからは一方的に通信が送られてくる。今回も星図で、30光年先の恒星から3方向に別れて矢印とおぼしき記号が伸びている。伸びた先から再び次のところへ・・・という図がさらに続く。
「これ、人口爆発だ。6万年で人口爆発して、母星に住めなくなるからあちこちに移住して回ってるんだ。」
「やっぱり外見通りのネズミ星人だ。」
「でも通告はしてくるから、礼儀は正しいんだなぁ。」
「焦っているがマナーは守るネズミなんだ。」
なんなんだ?この印象は。しかしまぁ、その場にいたほぼ全員が礼儀正しいけど焦っているネズミを頭に浮かべながら議論を続けたのは間違いないだろう。
「じゃあ、『来て』って通信はまずかったんじゃあ・・・。」
「まずいなぁ。じゃあ、来るなっていうか。」
「ただ『来るな』じゃまずいから、領土っていうか、境界線を決めちゃおう。ここからは俺たちのもんだって主張しないと。」
というわけで、我々の太陽とその周辺には我々の姿、彼らがいるあたりには彼らの姿を描き、棲み分け提案をしようとした。さらには来て欲しくないと言うメッセージを伝えるために不快に感じる音楽(というか不協和音)をつけて送った。
しかし実際には「俺たちのもの」と主張した恒星にまで到達できる能力はない。技術レベルの差は圧倒的であり、科学力の面では勝ち目がない。我々は有言実行 できるために科学力のアップを図りながら、もしばれた際にはあやまる、つまりヘコヘコする方法を考えながら過ごすこととなったのである。

反省会
 お互いに言いたいことはあったのだが、ネツメ人側は相手の話を聞いてちょっと驚いた。まず、宇宙船は彼らが建造したのではなく、機械は先行文明の残した ものがそこかしこに転がっており、それを組み合わせて造ったというのだ。つまりどうやったら動作するのかはわかっても、その原理はあんまり詳しく知らな かったらしい。
また彼らは基本的にはDC1のヒュンヒュンであり、森の中に小集団に別れて生活している。集団間は楽器を鳴らすことで意志疎通や情報伝達を行う。より離れ たところへの通信も間にいくつかの集団を介することで行い、一種のインターネット状態を形成しているらしい。各集団は自分の好きな仕事をしたりするコミュ ニティーを形成しているので、いわばホームページを持ったオタク集団と位置づけられる、と言う報告があった。

また、30光年先の恒星はやはり彼らの母星で、6万年後に恒星が大規模な変動をおこして母星に住めなくなりそうだというので、移住先を求めて出発したら しい。10光年先で我々が観測したブルーシフト・イベントは宇宙船が制止するときの噴射を見たわけであり、彼らは我々が通信を送るまではこちらに気がつい ていなかったらしい。
そこで調査・補給を行った後母星に帰るつもりだったが、我々からの通信を受信したことで方針を変更。こちらに来る予定で補給を行っているということであった。

その後は設定や通信文の是非についての議論があった。まず6万年後の危機などというのをどうやって検知したのか?不可能ではないか、設定の不備ではないかと言う意見が出た。
まぁ、それは設定だけの問題なので、あんまり気にしなくても良いのだが、問題になったのは「音楽」の妥当性である。これはAC2などで議論が出ると良いの だが、やはり音楽を宇宙普遍のものと考えるのは無理があるのではないかという意見が出た。さらに言うと、美空ひばりはダメだろう、などなど。まぁ、わかっ てはいたが、やはりダメだったか。

最後に
 その他運用上の問題点などが話し合われたが、基本的には西はりまスタッフも来ていた「人と自然の博物館」のスタッフもFCSの特徴に関しては理解してもらえたものと思う。実際に、その後の懇親会では
「こういうやり方もできそうだ」
と、小学生相手に出来そうな事例の案を彼らから受けることが出来た。また
「実践例が出来たら是非紹介を」
という提案にも快く受けていただけたようなので、今後西はりま、ひいては兵庫県を中心としてFCSを取り入れた教育カリキュラムというのが広がるかもしれ ない。そういう意味ではFCSの内容自体には問題が多かったのだが、デモという目的は十二分に果たしたのだろう。FCSを行う上での注意点や問題点が多く 出たほうが、今後運用を行う上で出てくるであろう問題点を事前に察知することが出来るだろうから。

そして夜が更け、観望会の時間には空を覆っていた雲もどこかへ退き、我々はスタッフの案内の下、60センチの望遠鏡を占有して星を見ることが出来た。西はりまスタッフのみなさん、ありがとうございました。この場をお借りして、お礼を申し上げたいと思います。