FCS at 西はりま天文台公園 After Report ~星とFCS~

発端
 「FSCをカリキュラムとして取り入れてみたい。そのために一度体験してみたいんですが。」
CJ4以降、あちこちで「FCSをカリキュラムとして教育現場で取り入れないか?」といろんな人に紹介してきたが、昨年10月に西はりま天文台公園の複数 の研究員から、そう依頼された。西はりま天文台公園というのは兵庫県立で、兵庫県佐用郡という岡山県との境に近いところに建つ口径60センチの望遠鏡を備 えた施設だ。
昨年11月末に西はりまの坂元研究員を交えてCJのスタッフと検討し、年明けに一度シミュレーションを行うことになっていた。

年が明けて2002年3月2日、土曜日。この日、泊まりがけで西はりま天文台公園にてFCSのデモを行った。CJ側でFCSの設定などは全て準備し、向 こうではプレゼンテーションとデモという方針である。FCSもDCの簡易版とし、あんまり深くつっこんだ設定などは避けることにした。
さて当初14時からかと思っていたが、実際は15時からスタートとなった。台長の黒田さんが15時にならないとやって来ないなどの理由もあったし、何より 準備していたパワーポイントの画面が大型ディスプレイに表示されなかったからである。どうやら先方が準備していたコンバーターが激しい機種異存を持ってい るようだ。今後は注意がいりますな。
15時になると早速始める。まず大迫さんがFCSの歴史と概要を紹介。続いて阪本さんがパワーポイントを使ってのプレゼンテーション。主にCJの活動と FCSの流れについての紹介である。事前打ち合わせからすると若干の時間のずれはあったが、質疑応答まで入れて16時には終了。その後、FCSに入ること になった。

CJ側のスタッフは事前に班分けをして・・・いたのかいなかったのか、とりあえずその場で何となく決めた。西はりま側もスタッフを適当に二分し、同席し ている「人と自然の博物館」スタッフも半分に別れてFCSを始めた。西はりまにはスタディルームという大きな部屋があり、ここはパーティションで二部屋に 分割できるので、こういうときには大変楽である。


簡易ワールド・ビルド

 私が入ったのは「異星人2」というチームで、これは「改造地球人」という設定である。そこでまず地球人と異なる肉体的特徴を何か一つ付加すると言うことで議論が進んだが、これは大いにもめることとなった。これには以下のような意見が出た。

赤外線が見える
赤外線しか見えない
電波が見える
超音波を出せる

指の数を変える
光合成が出来る

性が3つ
単性生殖と両生生殖

大きく分けると3つに分類できる。つまり認識系の変更、体そのものの特徴付加、生殖系の変更である。生殖系は今回は見送られ、また同時に体への特徴付加 も見送られた。認識系だけをいじることにし、最終的には赤外線も見える。ということにした。具体的には「青、緑、赤外」と、現在の赤を感じる部分が赤外線 へと置き換わる形である。
これによりどのように社会に変化が現れるかを考えた。結果、いろいろと面白い話が出てきたので、まとめてみよう。
まず大きいのは「街灯がなくなる」というものである。街灯は「治安維持のため」ということで設置されることが多いのだが、我々は赤外線を見ることが出来 るため、人間がそこにいるのかを見ることが出来る。またついさっきまでいたかどうかを残留熱から判断できる。つまり闇討ち文化というのが発生しない。また 会話をしていても相手の体温の変化で感情の変化を感じることが出来るので、それを積極的に活用する文化が生まれる。つまり体温変化を併用して会話をし、微 妙なニュアンスを伝える補助手段とするとか、会話をするのは顔色をうかがいながら行うのが当たり前であり、「顔色をうかがう」をいうのは「会話をする」と いうのと同義語である、など。
天文学分野でもかなりの変更が見られる。つまり実際に今見えている星空だけではなく、星形成領域と呼ばれる、原始星が誕生している現場を望遠鏡さえあれば生で見ることが出来る。

続いて技術レベルであるが、これは事前設定として、シミュレーション開始時の技術レベルを1990年頃の地球と同じとした。つまり自分たちの惑星から人工衛星程度はOK。ということである。
ちなみに名称は、熱を見ることが出来る、ということでネツメ人とした。安直な名前と言ってしまうとそうなんですけどね・・・

簡易プレ・コンタクト
 さて、我々は1990年(シミュレーション上はー10年:以下SMY-10)に10光年離れたとことにあるとある恒星系でブルーシフトする電磁波を確認 した。どうやら核融合時などに発生するものらしい。どうやって確認したのかは少し問題があったが、まぁ、人工的な何かが見えたのは事実だ。しかもその光は 非常に短期間だけ見え、すぐに見えなくなってしまった。そこで我々は知的生命の存在を確認するため、電波と赤外線を主体として通信を行うこととした。何か (誰か)がいるのであれば受信して返答をもらえることを期待した。さらに単純な素数だけを送り続けるのも芸がないということで、以下のような工夫をしてみ た。
1)1年目、電波で19までの素数
2)2年目、2つの周波数(電波と赤外線)で、倍の数の素数を送る
3)3年目、3つの周波数でさらに倍の素数を・・・
4)4年目はさらに・・・
というように、毎年送る素数の数と周波数とを倍々にしていったのだ。これを10年ほど繰り返した。

しかし相手の正体については議論が分かれた。そもそもブルーシフトというのは何かがこちらに近づいているということをあらわしているのか?いや、もし宇 宙船の発進の時に噴射された粒子の発光が見えてのだとすると、それは地球からは遠ざかることになるわけだから、レッドシフトするはずである。しかし今回の はブルーシフト。とすると反対側のどこかに向けて出発したか、どこかからやってきて10光年先の恒星系で停止したかだ。

そしてブルーシフト検出から10年(SMY0)。に我々は相手星系の詳細な情報を得るために、専用の天文衛星「ジュガク」シリーズを打ち上げ、さらに月 面に電波天文台「モリモト」を建設した。これにより地球と月の38万キロを基線とする超高分解能電波観測を可能とした。それにより相手の星系の情報はかな りわかってきたが、どうやら文明らしき痕跡は見あたらない。ということであった。ということは、そこにやってきたのか?

SMY11。先方からの返事が返ってきた。やはりそこには何かがいたのだ。送られてきた通信は電波と赤外線の2つのチャンネル。電波は9個の素数を、赤 外線は18個の素数をヘッダにしたもので、彼らのいる位置を基準として、我々の太陽の位置、彼らのいる恒星、そして彼らのいる場所から20光年、我々の太 陽からだと30光年離れた場所にある恒星、をそれぞれ示す3枚の画像だった。おそらく我々のことを知っていて、彼らのいる場所を示して、というところまで はわかったが、問題になったのは3枚目。
「これはここに行きます、なの?それともここからやって来ました、なの?」
結論のでないまま、しかしそこに知的生命体がいると言うことだけは確認できたので、我々は友好の挨拶として、我々の姿(男女と子ども)、周期律表、体の組成、数学、計算式、人間・惑星・恒星からの距離など、大きさにまつわる情報を送った。

翌SMY12、こちらからの返事を待つまでもなく、彼らから姿や周期律表、体の組成、水素の波長(21センチメートル)を基準とした体の大きさなどが送られてきた。見たところ「二本足で立つでっかいねずみ」みたいだ。
「考えることは向こうも同じか。」
ちょっとくやしくはあったが、もしかしたら延々と素数を流し続けた10年間は無駄だったのかな?などと考えながらも、次の手を考える。
我々としては、30光年先の恒星から来たのか、そこに向かおうとしているのかは問題ではない。そこへ行こうとしているのであれば、
「そっちよりこっちのほうが面白いぞ」
と主張し、そこへ来たのなら
「もうちょっと足を延ばしてみない?」
と無理矢理にでも誘致する作戦に出た。いや、ちょっと無謀だったかもしれないし、あとで実際に「しまった!」とみんなで頭を抱えたのだが・・・。そんなこ とは当然そのときにはわからないので、我々の太陽の上に、相手の姿と我々の姿とを書き、「来て欲しい」という意図を伝えようとした。また我々の音楽を送る ことにした。これは
「もっと慎重に」
という意見もあったのだが、西はりまの黒田台長が
「空気の振動というのは宇宙に普遍にある。従って感じて楽しくなる振動というのがあって、音楽というのは宇宙で共通だ!」
という主張を受け入れてみたものである。かなりチャレンジングなことだったことは確かだろう。ではどんな音楽を送るのかももめた。曰く、
「宇多田ヒカルの歌には成分として云々・・・・」
とか
「それなら美空ひばりの歌にも・・・」
などと言うことが半ば真面目に、半ば投げやりに議論され、結局はクラシックなどではなく美空ひばりの歌をサンプリングして相手に送ることにした(スーパーバイザー:苦力さん、ごめんなさい)。

SMY13。彼らからの通信は再び新たなメッセージになる。先年送られてきた星図。これの中で議論になっている30光年先の恒星について3枚の絵が送ら れてきた。1枚目はそれまでと同じだが、2枚目ではその星が大きくなり、3枚目では消えている。しかも通信にはトリチウムの半減期を使ってその図に描かれ た状態への遷移時間が表されており、3枚目になるのは6万年後のことらしい。
「6万年後には超新星爆発で星がなくなるのか?」
「いや、そんなんだったら20光年離れたくらいじゃだめ。」
「人口爆発するとか?」
「6万年後の対策を今から練ってるのか、こいつらは?」
議論は白熱し、結局のところは
「情報が少なすぎてよくわからんが、とにかく6万年後に困ったことが起こるらしい。」
ということだけがわかった。しかし6万年後のことってどうやったらわかるんだ?謎である。

SMY14。彼らからは一方的に通信が送られてくる。今回も星図で、30光年先の恒星から3方向に別れて矢印とおぼしき記号が伸びている。伸びた先から再び次のところへ・・・という図がさらに続く。
「これ、人口爆発だ。6万年で人口爆発して、母星に住めなくなるからあちこちに移住して回ってるんだ。」
「やっぱり外見通りのネズミ星人だ。」
「でも通告はしてくるから、礼儀は正しいんだなぁ。」
「焦っているがマナーは守るネズミなんだ。」
なんなんだ?この印象は。しかしまぁ、その場にいたほぼ全員が礼儀正しいけど焦っているネズミを頭に浮かべながら議論を続けたのは間違いないだろう。
「じゃあ、『来て』って通信はまずかったんじゃあ・・・。」
「まずいなぁ。じゃあ、来るなっていうか。」
「ただ『来るな』じゃまずいから、領土っていうか、境界線を決めちゃおう。ここからは俺たちのもんだって主張しないと。」
というわけで、我々の太陽とその周辺には我々の姿、彼らがいるあたりには彼らの姿を描き、棲み分け提案をしようとした。さらには来て欲しくないと言うメッセージを伝えるために不快に感じる音楽(というか不協和音)をつけて送った。
しかし実際には「俺たちのもの」と主張した恒星にまで到達できる能力はない。技術レベルの差は圧倒的であり、科学力の面では勝ち目がない。我々は有言実行 できるために科学力のアップを図りながら、もしばれた際にはあやまる、つまりヘコヘコする方法を考えながら過ごすこととなったのである。

反省会
 お互いに言いたいことはあったのだが、ネツメ人側は相手の話を聞いてちょっと驚いた。まず、宇宙船は彼らが建造したのではなく、機械は先行文明の残した ものがそこかしこに転がっており、それを組み合わせて造ったというのだ。つまりどうやったら動作するのかはわかっても、その原理はあんまり詳しく知らな かったらしい。
また彼らは基本的にはDC1のヒュンヒュンであり、森の中に小集団に別れて生活している。集団間は楽器を鳴らすことで意志疎通や情報伝達を行う。より離れ たところへの通信も間にいくつかの集団を介することで行い、一種のインターネット状態を形成しているらしい。各集団は自分の好きな仕事をしたりするコミュ ニティーを形成しているので、いわばホームページを持ったオタク集団と位置づけられる、と言う報告があった。

また、30光年先の恒星はやはり彼らの母星で、6万年後に恒星が大規模な変動をおこして母星に住めなくなりそうだというので、移住先を求めて出発したら しい。10光年先で我々が観測したブルーシフト・イベントは宇宙船が制止するときの噴射を見たわけであり、彼らは我々が通信を送るまではこちらに気がつい ていなかったらしい。
そこで調査・補給を行った後母星に帰るつもりだったが、我々からの通信を受信したことで方針を変更。こちらに来る予定で補給を行っているということであった。

その後は設定や通信文の是非についての議論があった。まず6万年後の危機などというのをどうやって検知したのか?不可能ではないか、設定の不備ではないかと言う意見が出た。
まぁ、それは設定だけの問題なので、あんまり気にしなくても良いのだが、問題になったのは「音楽」の妥当性である。これはAC2などで議論が出ると良いの だが、やはり音楽を宇宙普遍のものと考えるのは無理があるのではないかという意見が出た。さらに言うと、美空ひばりはダメだろう、などなど。まぁ、わかっ てはいたが、やはりダメだったか。

最後に
 その他運用上の問題点などが話し合われたが、基本的には西はりまスタッフも来ていた「人と自然の博物館」のスタッフもFCSの特徴に関しては理解してもらえたものと思う。実際に、その後の懇親会では
「こういうやり方もできそうだ」
と、小学生相手に出来そうな事例の案を彼らから受けることが出来た。また
「実践例が出来たら是非紹介を」
という提案にも快く受けていただけたようなので、今後西はりま、ひいては兵庫県を中心としてFCSを取り入れた教育カリキュラムというのが広がるかもしれ ない。そういう意味ではFCSの内容自体には問題が多かったのだが、デモという目的は十二分に果たしたのだろう。FCSを行う上での注意点や問題点が多く 出たほうが、今後運用を行う上で出てくるであろう問題点を事前に察知することが出来るだろうから。

そして夜が更け、観望会の時間には空を覆っていた雲もどこかへ退き、我々はスタッフの案内の下、60センチの望遠鏡を占有して星を見ることが出来た。西はりまスタッフのみなさん、ありがとうございました。この場をお借りして、お礼を申し上げたいと思います。