我々が観測しているのはあくまでも重力ポテンシャルの形だからね!

 前々から気になっている表現があります。

「ダークマターの分布を観測した」

 この言い方、間違いだと考えています。真実かもしれないけど、事実ではない、というのが筆者の意見です。どういうことか説明していきましょう。

●そもそも「ダークマター」とは

 1920~30年代にかけて、太陽系近傍の恒星の運動を分析した研究が行われていました。ヤコブス・カプタインやヤン・オールト(オールトの雲で有名な天文学者)は、恒星の運動を説明するためには、見えていない物質が大量に必要となることを指摘しました。
 また1930年代には銀河団の観測を行っていたフリッツ・ツヴィッキーも、銀河団中の銀河の軌道速度の研究から、やはり見えていない物質が必要だと考えたのです。これらは当時「ミッシング・マス(行方不明の質量)」と呼ばれていました。

 その後、1960年代になってX線の観測が始まると、1970年代には銀河団にX線を発する高温のガスが存在することも判明し、これを閉じ込めておくには銀河団中に存在する銀河の全質量が作る重力ポテンシャルでは不可能だとわかりました。
 また、多くの銀河の自転速度を調べる研究からも、本来であれば中心から外側に行くほど速度は落ちる(太陽系でも太陽から遠い惑星や天体は公転速度が遅い)はずなのに、どの銀河も外側まで一定の速度で回転していることがわかってきました。これは「銀河の回転曲線問題」として知られるようになりました。
 これらの現象を説明するには、観測で見えている天体の質量ではまったく足りず、10~100倍もの観測されていない質量が必要だとされました。これだけの量が見えていないとなるのであれば、もはや「行方不明」どころではありません。そこで「(暗くて)見えていない物質」ということで「Dark Matter(ダークマター)」という名称が使われるようになったのです。

●「重力ポテンシャル」ってなに?

 さて少し話を戻します。重力がどの様に働いているのかは、天体が作る重力の分布を調べることでわかります。例えばある天体からどれくらい離れた所では、どの程度の強さの重力(引力)が効いているのかを調べていきます。
 例えば太陽系の場合、太陽の重力が圧倒的に強いのですが、それでも太陽のそばからどんどん太陽系の果ての方に離れていくと、太陽からの重力はどんどん弱くなっていきます。太陽からどれくらいの距離であれば、重力の強さがどの程度なのかをグラフ化すると、ニュートンの万有引力の法則で想定されている逆二乗則の曲線となります。これが太陽の重力ポテンシャルというわけです。実際には空間は3次元ですので、グラフには描きづらいのですが、皆さんも天体のある場所が凹んでいる膜のイラストを見たことがあるでしょう。あれが重力ポテンシャルです。
 我々は天体の運動を観測することで、その場所にどれくらいの強さの重力が存在している必要があるかというのはわかります。その強さをマッピングするということは、つまり重力ポテンシャルを観測してマッピングしていると言い換えても良いでしょう。
 ですので「ダークマターの分布を観測」と言われると、個人的には違和感があるわけです。だって観測してマッピングしているのは、あくまでも「重力ポテンシャル」でしかありませんから。これが冒頭に書いた「真実かもしれないけど事実ではない」の意味です。

●「重力ポテンシャル」には物質が必要なのか?

 とはいえ、そこにそれだけの重力がかかっているということは、何らかの原因があるわけです。そして重力というのは物質が作るということになっています。もし物質が存在しなければ、そこには重力を及ぼすものはなく、従って重力ポテンシャルは、先の例で言えばどこにも凹みのない膜です。凹みを作るのは天体、そしてそれを作る物質だというのが現代物理学の基礎です。
 ということは、見えている天体がつくる重力ポテンシャルよりももっと深い、つまりもっと強い重力が存在しているのであれば「見えていない物質(ダークマター)」が存在するはずだ、というのは自然な流れなのです。
 ですが世の中には「それは本当か?」と考える人たちもいます。そのうちの大きな一派は「MOND」と呼ばれる理論を提唱しています。これは「MOdified Newtonian Dynamics(修正ニュートン力学)」の略です。つまり、天体の質量から重力の強さを求めるニュートンの万有引力の法則が間違っているのではないかという指摘です。もちろん、万有引力の法則は私たちの太陽系内では問題なく使えている理論ですので、大幅に変更する必要はありません。それでも「少し」修正することは可能だろう、というわけです。
 残念ながらこのMONDはなかなか上手く行っていません。相対性理論に対応しているわけではないというのもありますが、こちらについてはTeVeS (Tensor-Vector-Scalar gravity) という理論が提唱されています。
 他にも1990年頃には「銀河の回転曲線問題」には磁場の影響を持ち込んで説明する理論もありました。これは銀河内の物質はプラズマ化されている物が多く、プラズマは磁場の影響で一定の速度で回転するため、「銀河の回転曲線問題」を説明できるという物でした。とはいえ、これだけでは重力レンズ効果による重量ポテンシャルを説明することはできませんので、あまり良い解決方法ではないとみなされています。

●SF的に考えてみよう!

 では他には何か解決方法はないのでしょうか。ちょっとSF的に考えてみましょう。筆者であれば「物質が重力ポテンシャルを作る」という部分を外してしまいます。どういうことかと言えば、次のように考えるのです。

「物質も重力ポテンシャルを作るが、そもそも重力ポテンシャルは物質が存在しない空間でも存在しうる」

 つまり宇宙がビッグバンによって始まったときには既に強い重力ポテンシャルが存在していた。物質はその重力ポテンシャルに引き寄せられて集まり、銀河や銀河団、超銀河団といった天体を作ったと考えるわけです。そうすれば「ダークマターの正体」など考える必要はありません。だって物質が存在しなくても、そもそも空間は歪んでいて、重力ポテンシャルを持っているのですから。
 もっとSF的に考えましょう。万有引力を考えると重力ポテンシャルは凹みしか存在しません。凸部分は存在しないのです。もし凸部分が存在すれば、それは周囲の天体を遠ざける「万有斥力」として働きます。例えば超銀河団の間にはボイドと呼ばれるほとんど物質の存在しない空間があります。ここにもし凸な重力ポテンシャルがあったとしたら……そこに物質がない事の説明になるかも知れません。宇宙は卵パックのような重力ポテンシャルをしていて、出っ張りから凹みのところに物質を移動させているのかも知れません。
 もちろんこれは観測的に証明されたわけでもなければ、既存の観測結果をすべて説明する理論としても成立していません。でも「ダークマターが存在している」として研究されてきた研究結果をかなり転用できるはずだとも考えています。
 いずれにせよ、そういうSF作品を書いて世に出すのも面白いでしょうね。

「準惑星」はスジが悪い(個人の意見です)

 2006年にプラハで開催された国際天文学連合の総会で、冥王星が惑星から準惑星に格下げされたというのは知っている人も多いでしょう。今回はその経緯を含めて再考し、この「準惑星」という天体の定義が如何にスジの悪いものであるかを見て行きたいと思います。

●なぜ冥王星降格議論が始まったのか

 そもそも20世紀には太陽系の惑星は9つであるとされてきました。太陽に近い順から水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星です。それ以外に火星と木星の間には小惑星帯があり、海王星軌道から遠方にはトランス・ネプチュニアン、そしてエッジワース・カイパーベルトと呼ばれる、惑星にはなれなかった小さな天体があるという認識でした。
 ところが望遠鏡が大型化し、さらに撮影もフィルムからCCDなどの電気素子を使ったカメラに変わってくると、今までは写らなかった暗い天体が数多く見つかるようになりました。
 太陽系内の天体は、太陽の光を反射して光っています。その明るさは、ざっくりというと次の式で決まります。

「天体の明るさ=反射率×太陽からの距離の二乗×見かけの面積」
 
 ですから「暗い」というのは、あまり太陽の光を反射しない、太陽からの距離が遠い、または天体が小さいなどが原因になっているわけです。本当は「地球からの距離が遠い」というのもあるのですが、それは一旦忘れても良いでしょう。

 1990年代以降、この「暗い天体」が数多く見つかり始めました。特に、見かけの面積はそれなりに大きいのに、太陽からの距離が遠いために暗い天体が、です。中には冥王星の大きさに近い天体も含まれていたことから、「惑星の数を増やそう」という話もあったほどです。
 そしてエリスという、冥王星よりも大きい天体(現在では冥王星よりも少し小さいと考えられています)が発見されたことで、この論争が天文学者の間で大きくなりました。

●「準惑星」が定義された経緯

 でもエリスの発見ですぐに冥王星が準惑星になったわけではありません。当時、「惑星の定義をどうするべきか」については幾つかの案がありました。
 一番最初に提案されたのは、「基準を示して惑星の数を増やす」と言って良いものでした。次の2つの両方の基準を満たす天体を「惑星」にするとしたのです。
「自己の重力が剛体力に打ち勝ち、静水圧平衡にあると推定される十分な質量を持つ天体」
「恒星の周りの軌道にあり、恒星でも惑星の衛星でもない天体」
 この定義に従えば、冥王星は惑星のままで、冥王星の衛星であるカロンも惑星であると考えられます。正確に言うと冥王星-カロンは二重惑星だということです。
 また小惑星であるケレスも「惑星」に昇格します。他にもマケマケ、ハウメア、クワオワー、セドナ、オルクスなどが候補に挙げられました。
 この定義の下では、太陽系内で太陽の周りを公転している天体は「惑星」と「それ以外」に分けられます。「それ以外」の天体は「太陽系小天体」と定義されました。
 そしてこの定義に従う限り、その後も大量の「惑星」が発見されるだろうということが容易に想定される状況になったのです。

 すると「本当にそんなに惑星の数を増やすのか?」という問題意識が出てきました。そこで出て来たのが、先の2つの基準に追加される形となった、次の基準です。

「その軌道近くから他の天体を排除している」

 これは、その軌道またはその軌道の周辺を1つの天体が占有しているということです。この定義に従えば、小惑星帯にあるケレスは他の天体を排除しているとは言えません。冥王星も軌道の近くに多くのエッジワース・カイパーベルト天体を擁しているために、「惑星」の基準からは外れるというわけです。
 この定義は2006年8月24日にチェコのプラハで行われた国際天文学連合総会にて採決されました。

●「準惑星」のどこが問題なのか

 すでに「宇宙戦艦ヤマト2199」では冥王星は準惑星として登場します。いろんなところで準惑星という言葉は定着しつつあると言えます。そして本来なら存在しないはずの「小惑星」という言葉はいつまでも消えずに残り続けています。本来なら「太陽系小天体」としなければならないはずなのですが。
 でも、この準惑星という定義は非常に問題をはらんだものです。それを説明しましょう。

 何と言っても問題なのは3つ目の基準です。

「その軌道近くから他の天体を排除している」

 すでに「木星軌道上にはトロヤ群があるため、木星は『他の天体を排除している』とは言えないのでは?」という批判も出ています。もちろんこれに対しては「圧倒的な重力によってトロヤ群が存在する場所に集めて、コントロールしている」という反論が出ています。そもそもこの批判自体はこじつけに近い面がありますので、あまり気にしなくて良いだろうと筆者も考えています。
 ですがもっと問題なのは冥王星・カロン系の様に、二重惑星みたいになっている場合です。例えば先に紹介した「宇宙戦艦ヤマト」シリーズでは、ガミラス・イスカンダル系という二重惑星が存在します。また似たような設定の惑星系はロバート・L・フォワードの「ロシュワールド」でも出て来ます。
 これらの惑星はお互いの共通重心の回りを回っていることになりますので、どちらかがどちらかの衛星ではありません。こういった場合「その軌道近くから他の天体を排除している」とは言えなくなります。つまり、もし太陽系外にまで定義を広げてしまうと、ガミラスとイスカンダルは共に準惑星ということになります。もちろんこういう場合、新たに「二重惑星」の定義を作って「準惑星」とは区別するのかも知れませんが、その場合は「衛星」の定義とバッティングすることは目に見えています。
 そういう意味では地球・月系は何とか地球内部に共通重心がありますので惑星・衛星という関係が成り立っていますが、もし月がもう少し大きかったら、地球も二重惑星または準惑星扱いになっていた可能性があります。また「他の天体を排除している」という定義に基づけば、「はやぶさ」や「はやぶさ2」の目的地であったイトカワやリュウグウも地球軌道周辺を回っているため、そもそも地球自体が「他の天体を排除できていないのではないか」という意見もあります。

●太陽系外惑星の定義はどうするのか

 実はこの惑星の定義、太陽系内でしか通用しない定義だとされています。つまり他の恒星系では適用できない定義だというのです。先ほどガミラス・イスカンダル系が準惑星になるかもという話を書きましたが、太陽系でしか適用できないのであれば、ガミラスとイスカンダルは惑星ということになり、一件落着……というわけにはいきません。じゃあそもそも他の恒星系にも適用できる惑星の定義って何よ? という質問には答えられていないからです。

 実は惑星の定義を巡っては他にも大きな問題があります。1つは惑星と恒星の境目の問題です。太陽系の中で最も大きな惑星は木星ですが、他の恒星系では木星よりも遙かに大きな惑星が見つかっています。
 恒星は核融合反応を起こし、自ら光を放っているという事になっていますが、質量が小さくなればなるほど核融合は起こしにくくなります。核融合を起こしていない天体は褐色矮星と呼ばれていますが、この褐色矮星と木星のようなガス惑星の境目についての定義もありません。一応、重水素による核融合を起こすためには木星の13倍以上の質量が必要であるとされていますので、そのあたりが基準になるはずですが。

 もう1つ、元々は恒星の周囲を公転したいたにもかかわらず、他の惑星との重力相互作用によって恒星間空間に放逐されてしまった天体はどう呼ぶのか、があります。現在は「浮遊惑星」または「自由浮遊惑星」と呼ばれています。「宇宙戦艦ヤマト2199」で登場したバラン星などがこれにあたります。ですが、ここに「惑星」という言葉を入れても良いのでしょうか。

 最もしっくりくる定義は、最初に提案された基準ではないでしょうか。

「自己の重力が剛体力に打ち勝ち、静水圧平衡にあると推定される十分な質量を持つ天体」
「恒星の周りの軌道にあり、恒星でも惑星の衛星でもない天体」

 これが最もしっくりきます。これであれば直径や質量だけでほぼ決まります。残りは太陽系小天体。惑星の数は現在よりも大幅に増えますが、そもそも惑星を全部覚える必要はありませんし、「第○番惑星」みたいな数字によるカウントさえ止めてしまえば良いだけです。

●「衛星」の定義で揉めることになる

 もし準惑星のような現状の定義を残すと、今度は衛星の定義で揉めることとなります。現状では衛星に対する明確な定義はありません。せいぜい「惑星の周りを公転している」という程度です。
 そのため木星と土星には観測能力の向上に伴ってものすごい数の衛星が発見されるようになりました。特に土星は環を持っている関係上、小さな氷のかけらまで含めるとものすごい数の天体が周囲を公転しています。どんどん小さい天体を衛星と認定していくと、どこまでが衛星で、どこからが環の成分なのかがわからなくなるのは自明の理です。

 ですから衛星も次のように定義してしまってはどうでしょう。

「自己の重力が剛体力に打ち勝ち、静水圧平衡にあると推定される十分な質量を持つ天体」
「惑星の周りの軌道にあり、恒星、惑星ではない天体」

 そうすれば大きな天体のみが衛星として認定され、小さな天体は太陽系小天体として整理できます。そうなると火星の衛星であるフォボスとダイモスは「衛星」という定義からは外れてしまいますが。

●SFに出てくる「定義に困る惑星」達

 SF作家というのは、いろんなものを考え出すものです。先ほど紹介した「ロシュワールド」の惑星は奇妙な二重惑星の典型例です。ロシュローブを満たしてお互いの大気が行き来するような惑星は他に例がありません。これはそういう世界での出来事を考えるために科学的に結構細かく考えられた惑星です。
 一方、単に舞台として用意された変わった惑星達もあります。例えば田中芳樹の「灼熱の竜騎兵(レッドホット・ドラグーン)」に登場した38個もの地球大の人工惑星は、地球の公転軌道上に存在しています。重力的に安定するかどうかはわかりませんが、この世界が実現すると、地球自体が準惑星になりますね。

 重力的に不安定と言えばラリイ・ニーヴンの「リングワールド」も、かなり風変わりな「天体」と言って良いでしょう。何しろその恒星系にいた異星人が過去に住んでいた惑星を分解して恒星の周りに巨大なリングを作って住居を作れる面積を増やした天体ですので。すでに「自己の重力が剛体力に打ち勝ち、静水圧平衡にあると推定される十分な質量を持つ天体」という基準を満たしていませんので「惑星」とは認められないでしょうけど。

 「宇宙戦艦ヤマト 完結編」に登場した水の惑星アクエリアスは「回遊惑星」などとされていましたが、現在の天文学上の分類で言えば「自由浮遊惑星」となります。ただ、恒星の周囲を公転していない惑星は単純に恒星間浮遊天体ということで良いと思います。そのうちこれを舞台とした物語を書くのもありかな。

総合学習への提言 ~FCSノススメ~

1.はじめに
 現行の学習指導要領から施行されている「総合学習」の時間。従来型の教科の枠に捕らわれたままの学習では問題があるとして、その枠を超えた学習を行うた めに設けられた枠である。しかし実際のところは「何をして良いのかわからない」と、時間が不足した授業の補習時間に使われたりしているのが現実のようであ る。
しかし2002年度から全面実施される新学習指導要領では「調べ学習」、「自学力の形成」などがスローガンとして挙げられ、「総合学習」枠への期待が持たれている。
そこで総合学習の一つの形として、ファースト・コンタクト・シミュレーション(以下FCS)というものを紹介したい。

2.FCSとは
 1979年、カリフォルニア州のカブリロ大学で文化人類学を教えていたジム・フナロ(Jim Funaro)は学生の講義に使えるネタを探していた。「異文化との交流」がテーマであり、「どのようにすれば全く異なる文化を持つ人々と分かり合えるの か」を考えさせ、シミュレーションにより「何がコミュニケーションの妨げとなるのか」を調べさせようとした。その時に考えついたのは「どうせなら異星人と であれば容姿も文化も何もかもが異なるのでよいのでは」ということだった。このアイデアは文化人類学者のグレゴリイ・ベイトスン博士が提唱したものであ る。
そこで学生に地球と異なる惑星を想定させ、その惑星上でどのような生物が発生しうるか、そして知的生命体にまで進化したときにどのような外見、言語、行 動様式、社会を持ちうるかを考えさせ、地球人とファーストコンタクトを行った際には相互理解の上でどのような障害が発生しうるかを、実際にシミュレーショ ンを行うことによって体験させた。
彼のこの活動は幾人かの彼の友人によって大きくなっていった。彼はSF作家たちの協力を得てCONTACTという組織を作り、現在では年に1回大会を開 いている。1983年に第1回大会が開かれたと言うから、今年ですでに20回目になる。ここには故カール・セーガン氏を始め多くの科学者も参加し、特に SETIがらみの研究も多く行っているNASAのエイムズ研究所は大きく関与している。この組織には文化人類学者や天文学者のみならず、生物学者、言語学 者、教育関係者など、様々な分野から人間が集まり、多面的な研究が行われている。SETIを進めるものもいるし、異星人とのコンタクト手順を開発しようと いう者、はたまた異星人とのコンタクト時に必要となる辞書を構築しようという者もいるそうだ。
日本では翻訳家の大迫公成氏がヨーロッパで行われた世界SF大会で行われたFCSのプレゼンテーションに興味を持ち、持ち込んだのが最初である。 1991年のことだそうだ。その後、組織化を行い、CONTACT Japanを結成。1994年からは2泊3日のCJ(CONTACT Japan)というイベントを行い、主にはそこでFCSを行っている。また2001年からはFCSのすそ野を広げるために1日でFCSの全てを体験できる イベントとしてDay Contact(DC)を行っている。また今年からはFCSを行う上での問題点を研究するAdvanced Contact(AC)が行われることになっている。
2002年のスケジュールとしては、AC1が2月に大阪で、DC4が6月に東京で、11月には2泊3日のCJ5が開催の予定である。詳しくは CONTACT Japanのホームページ(http://www.ne.jp/asahi/contact/japan/)を参照されたい。

3.FCSの流れ
3.1.FCSの概略
 FCSはかなり多くの作業を要するシミュレーションである。大きく分けると4段階あるが、まず「ワールド・ビルド」と呼ばれる異星人世界の構築がある。もし2つの異星人同士のコンタクトを行うなら、2つの地球以外の異世界を構築しなければいけない。
ワールド・ビルドは相当奥が深いが、たとえば惑星の表面重力が半分だったら、海陸比が異なっていたら、中心の恒星がG型でなかったら、または距離が1天 文単位ではなかったらなどなど、徹底的にやる場合には最初に初期条件を与え、そこから丸ごと一つの惑星世界を構築する。そのような世界ではどのような生命 進化が起こり、どのような生物相ができあがるのか。そしてもし知的生命体が発生するとしたならば、どのような姿をし、どのような生態をし、慣習やタブーは 何か、社会様式は、科学技術はどのような分野が進むのか・・・などを考え、決めていくのだ。様々な分野の知識が要求されることがわかると思うが、これだけ で1冊の本(※参考文献参照)になるほどだ。アメリカには「ワールド・ビルド」で単位の取れるコースがある大学もある。
続いて2つの種族が通信によって相手とやりとりをし、相手の情報を収集し理解につとめる「プレ・コンタクト」。SETIによって異星人が発見された後に 行われる活動であり、実際に通信文のやりとりをし、相手についての理解を深めることが目的のフェーズである。ただし超能力、超科学、超自然現象などは使わ ない。
プレ・コンタクトは幾つかのSETIがらみの解説本などで紹介されているように、まず出来る限り宇宙で共通の何かをもって、自分の存在を誇示するところ から始める。自分たちの種族が通信文を送る場合には、まず水素の禁制線である波長21cmの電波を使い、素数や円周率などの数学的基盤、そして元素の周期 律表などを送信するところから始めることになるだろう。受信した相手がそれを理解できれば四則演算、論理演算等を通してまずYESかNOを主張できるよう に基盤を整備する。そして長さ、重さ、時間にまつわる単位系を構築し、さらに自分たちの姿・大きさ・構成している物質、住んでいる惑星系、その他諸々の情 報を交換しあう。これを発展させ、お互いが相手のことを理解でき、さらに会ってみたいという話になれば、次のフェーズである「コンタクト」へと移行するこ とが出来る。忘れてはならないのは、交信相手の距離である。1回の交信に何十年もかかるような相手では、我々の寿命やシステムの継続性が問題となる。ま た、ここで相手の意図などを把握できなかったり、相手と会うメリットを確認できなかった場合は、そこでシミュレーションは終了することとなる。
そして実際に会う「コンタクト」。このフェーズでは実際に相手と会って話をする。ここで共通言語基盤というか、翻訳可能なほどまでプレ・コンタクト時に 話が進んでいれば楽だが、そこまで達していない場合には会っても結局はプレ・コンタクトの延長線上にしかならない。もちろんそれでも実際に会ってみないと わからないこともあるので、決して無意味ではない。
忘れてはならないのはその後に行われる最後のフェーズ「反省会」である。お互いが今回の設定を持ち寄り、まずワールド・ビルド部分で行われた設定を紹介 し、それには矛盾はないかを討論する。続いてプレ・コンタクト、コンタクトの両フェーズを通して、相手に何を伝えたかったのか、そしてそれは成功したの か、もし失敗して意図が伝わっていなかった場合には、何が原因だったのかを話し合う。そして次回のFCSにその結果を反映することが求められるのだ。

3.2.FCSの実例
 では2000年11月に行われたCONTACT Japan4(以下CJ4)と2001年に3回行われたDay Contact(以下DC)を例にして実際の流れを紹介してみよう。

3.2.1.CONTACT Japan4
「西暦2050年1月。人類は初めて異星人からのメッセージを受信した。それは核融合エンジンを使った可視光モールス信号とも言うべきものであった。この 技術に驚嘆した人類は、早速コンタクトを行うため、太陽系開発機構(SSDO)の下部組織として異性文化交流委員会(ETCEC)を設立。ファーストコン タクトへの準備を始めた・・・。」

2泊3日で行われたCJ4は、このような設定で始まった。その時間的な制約から「ワールド・ビルド」部分はプロのSF作家にお願いし、「プレ・コンタクト」から始まった。異星人側の設定はカナダのロバート・J・ソウヤー氏が、地球人側の設定は野尻抱介氏が担当した。
CJ4におけるFCSは地球よりほぼ1光年離れたオールト雲の中に突如異星人のものとおぼしき宇宙船が出現し、信号が送られてきたところから始まった。 参加者約80名は地球人側がB、C、Dの3チーム、異星人側がS、T、Uの3チーム、計6チームに分かれ、BとS、CとT、DとUがそれぞれコンタクトを 行った。とはいえ参加者には互いにどのチームとコンタクトするのかは知らされていなかったが。
さて、参加チームは相手の正体、目的などを通信のやりとりによって聞き出していくしかない。それも当然のことながら日本語や英語が通じるわけがないの で、まずは共通の通信ルールの構築から始めないといけない。四則演算や論理演算を定義し、相手の使用する記号や単位が納得できたら、それを応用した通信文 を送り・・・ということを繰り返して、相手の姿、体の構成物質、目的を聞き出すということをした。
通信文の中身は各チームで協議の上作成していく(写真1)。議事進行役として議長が、議事内容の記録を書記が行う。またそれとは別にスーパーバイ ザー(以下SV)と呼ばれる役職の人間が一人いる。SVは完成した通信文を相手チームに手渡す役目を負っており、相手チームのSVと共に通信文の内容の意 図が何であるか、どういうシチュエーションで作成されたかを確認する。ただし、通信文のそのものについての説明は一切しない。それは各チームを構成するメ ンバーが自分たちで考えなければならない。またSVはチームがやろうとしていることが、その世界の技術水準レベルで可能かどうかも判断する。従って、突拍 子もない設定が作られそうになったり、妙な行動が行われようとした場合には議長以下、全員に「待った」を掛けることが出来る。
このようなシステムの下で相手チームとのやりとりが行われた訳であるが、少なくとも私の所属していたD-Uチームは成功したとは言い難い。相手のことが コンタクト直前まで理解できなかったばかりか、目的を勘違いして一触即発の状況に陥ったし、まともな会話はほとんど出来なかった。

3.2.2.Day Contact

 またDCは2001年に3度行われたが、全て同じ初期設定の下に行われた。設定は以下の通りである。

「あなた方は母星から5光年離れた惑星系に向かう宇宙船に乗っています。何故その星系を目指しているのでしょう?どんな種族(姿、大きさ、寿命等)で、どんな習慣・タブーなどを持っているのでしょう?そして人数はどれくらいなのでしょう?」

10時に始まり、14時頃までかかって、自分たちの姿や目的を設定する。つまり簡易ワールド・ビルドである。その後1時間ほどかけて簡易プレ・コンタクトを行い、15時から16時にかけて簡易コンタクト、最後に1時間の報告会を行った。
参加者は2つのチームに別れ、独自にこれらの設定をこなしていく(写真2:DC2での様子)。そして片方のチームは先に惑星系に辿り着いており、もう片 方のチームは後でやって来るというシチュエーションが与えられた。DC1の際に私の属したチームが行った設定は「母星から迫害されて逃げ出した」であり、 あとで辿り着いた方のチームであったため、プレ・コンタクト中は
「一緒に住まわせてもらえるのか?もし交渉が決裂した場合、次の惑星系を目指す燃料はどうやって調達するのか?」
など様々な問題点が出た。さらにコンタクト時にも、こちらは肉体の物理的接触を嫌うという設定であったため、積極的な接触を好む相手側との摩擦が起こったりした。


4.総合学習としてのFCS

 1991年4月、当時のブッシュ大統領は教育改革を提言し、そのうちの一つとして次のような目標が挙げられている。
「2000年までにアメリカの生徒は4年・8年・12年の過程を終えるときに、英語・数学・科学・歴史・地理を含んだ問題に挑戦し、その能力を示さなけれ ばならない。また全てのアメリカの学校は、生徒全員が責任ある市民となり、さらなる学習をし、現在の社会経済で創造的な職業につく準備ができるように、自 分の知性を正しく使えるようになることを保証しなければならない。(※COTI Jr.邦訳版より)」
アメリカのCONTACTは、科学と数学を中心に様々の分野において重要な概念と技術を扱うカリキュラムとして、 FCSを提案している。このカリキュラムはCOTI jr.と呼ばれ、8年生、つまり中学2年生のレベルで行われるように設計されている。実際、すでに3章で述べたように、FCSを行うには様々な知識を、た だ持っているだけでなく活用することが要求される。また他人とディスカッションすることにより考え違いをしていた部分は是正されるであろうし、単にテスト を行うよりもより印象に残る学習が可能であろう。  この試みはすでにアメリカ国内ではバージニア州とメリーランド州の二つの学校やその他の教育現場でテスト的に運用されている。またオーストラリアの中学 校でも同様の試みが行われており、カリキュラムとして採用されているそうである。
日本国内に於いてもワールド・ビルド部分だけを大学の講義で行った例がある。現時点では琉球大学でCONTACT Japanメンバーの前野昌弘氏が授業でワールド・ビルドを行っている。内容は近々CONTACT Japanのニュースレターで発表される。また大阪教育大学の福江氏も同様の試みを行おうとしているようである。そのうち実践レポートが掲載されるものと 思われる。
さて、今回FCSを紹介したのは、日本でもこの試みを広めようという意図があったからだが、特に総合学習教材として適していると思われたからである。先 にも述べたが天文学を始め、生物学、物理学、数学、経済学、社会学など様々な範囲の知識を要求される上、それを実際に使用するという体験が出来、近年問題 となっているクラスメイトのことをあまりよく知らない、という問題にも力を発揮するであろう。さらには自分の意見を他人に伝えるというプレゼンテーション 能力の育成にも使えるだろう。
ワールド・ビルドでは天文学・地質学・生物学などが、プレ・コンタクトでは同じく天文学・物理学・数学・生物学・社会学など、そしてコンタクトでは文化 交流や国際理解など、様々なフェーズで様々な学習が可能である。もちろん全てをやらずに、ある程度限定したシチュエーション下で特定分野に偏った学習を行 うことも可能となるとは思われるが、FCSを取り込む最大のメリットを殺してしまいかねないので、特定分野に学習内容が限定されてしまうシナリオを作成す るのは意味がないと思われる。
さて、このようにして行われる授業では、具体的には先生がSVとなり、クラスから選出された議長及び書記の下、議論が展開されるだろう。チームはクラス 単位が望ましいかもしれない。同じ学年の2クラスで行うか、もし可能ならばクラスを半数に分けて実行するのも良いだろう。
また発展系として、同じ学校内のクラス同士だけでなく、電子メールやウェブなどを始め、インターネットをフルに活用し、他の学校のクラスとFCSを行う ことも可能となるであろう。英語さえ出来れば海外の学校とのやりとりも可能である。国際理解の一助にもなるのではなかろうか。
具体的な動きも出てきている。3月には西はりま天文台公園にて西はりまの職員とCJのスタッフとによるFCSが行われる。これは西はりまにおいてカリ キュラムとして採用することが出来るかどうかを判断するための予備調査的なものでありその如何によっては本格的に採用され、実例が出てくる可能性もある。

5.まとめ
 最後に述べておきたいのは、あくまでもこれは総合学習教材としての一つの可能性である。他にも優れた教材となりうるものは数多くあると思われる。しかし これだけ様々な知識を要求され、しかも各フェーズに於いて判断を下していかなければならない形態の学習はなかなかないのではないだろうか?
今後は海外の例を収集し、紹介していけたらと思う。
またこの場をお借りして、文章のチェックを快く引き受けてくださったCONTACT Japan代表である大迫公成氏、そして写真を提供していただいたCONTACT Japanに感謝の意を表したい。

2002年正月、映画「コンタクト」を観ながら。

参考文献
・CONTACT Japan2~4 アフターレポート
・CONTACT Japan ホームページ(http://www.ne.jp/asahi/contact/japan/)
・「World-Building」 Stephan L. Gillett (ISBN0-89879-707-1)
・COTI Jr.の邦訳版(http://mb113.moleng.kyoto-u.ac.jp/~cj/cj1/cj1_prog2/cj1_p2cotijr.html)
・「ファーストコンタクト」 金子隆一 文春新書
・「宇宙生物とET探査」 大島泰郎 朝日文庫
・「SETI@homeファンブック」 野尻抱介 ローカス