SF宇宙生物の作り方

SF的科学技術解説。
架空生物をテーマにして言いたい放題の3話構成。

ページ数:32ページ
初版発行:2025年5月25日
第2版発行:2025年9月7日

内容一覧

○古典SFの火星人はタコではない
○地球にケンタウロスは存在しない
○身体のサイズは変えたらダメだ

妄想・天文学研究室物語 第3話「同期の桜」

妄想・天文学研究室物語の第3話。

ページ数:20ページ
初版発行:2025年1月25日

テーマ

「恒星とその形成年代」

「恒星だって久しぶりに会えば、思わず喫茶店に行ったり、飲み屋に行ったりして、積もる話もするだろう。場合によっては……」

妄想・天文学研究室物語 第2話「銀河の生態観察」

妄想・天文学研究室物語の第2話。

ページ数:20ページ
初版発行:2025年1月25日

テーマ

「銀河の形成と進化」

「銀河が生物ならば、お互いに意志を疎通しようと図るのではないかね? そして生物では意志疎通の目的は交尾のためである場合がほとんどだ。」

天文学言いたい放題

SF的科学技術解説。
天文学をテーマにして言いたい放題の3話構成。

ページ数:32ページ
初版発行:2025年1月25日

内容一覧

○宇宙戦艦ヤマト50周年でみる天文学50年の進歩
○「準惑星」はスジが悪い
○我々が観測しているのはあくまでも重力ポテンシャルの形だからね!

身体のサイズは変えたらダメだ

 とあるところで「重力がいきなり強くなったら既存の生物はどうなるか」について書いた際に、SF作品で良くある、生物が巨大化したり微小化したりする描写の問題点を軽く書きました。
「そういえば、これって真面目に計算して書けば、あの手のSF作品がいかにあり得ない話なのかを説明できるなぁ。」
 そんなふうに思ったので、今回真面目に書くこととしました。

●断面積と圧力

 実のところ、生物の姿はそのままにサイズだけを変更することを考えた場合、体重を支える足の太さがネックになります。というか架空の生物を考える場合でも、大変重要なのは足の太さです。大抵の場合、身長というか体長というか生物の大きさとその体重に目が向けられます。でもそれが陸上生物の場合、大きさと体重の重さに見合った足の太さがなければ身体を支えられず、ポッキリと折れてしまうことになるのです。

 例えば人間で考えてみます。直近ならば「進撃の巨人」、昔ならば「ドラえもん」に出て来たスモールライトやビッグライト、ガリバートンネルなんかも対象になるかな。人間がそのままのスタイルで巨大化したりミクロ化したりする作品というのは数多くあります。
 人間でなくて良いなら古くは「SF巨大生物の島」から新しいところだと「巨蟲列島」までいろいろですね。

 さて話が逸れましたが、人間をベースで巨大化を考えてみます。身長は何cmでも構いませんが、体重が重要です。例えば体重が70kgの人を例にして考えてみましょう。人間は二足歩行をしている関係上、その体重のほとんどが足の裏にかかっています。しかし可動部である膝や股関節にも相当の荷重がかかります。歳をとった場合に膝や股関節に痛みが出てくるのは、関節にある軟骨がすり減ってくることや、骨などの変形が理由です。そして、すり減ったり変形したりするのは、それだけの負荷がかかっているということを示しています。

 人間のそれぞれの部位の重量比は、出典によって少しずつ差がありますが、ざっくり次のようになっています。

【頭 部】 0.08
【上腕部】 0.08(左右合計)
【前腕部】 0.06(左右合計)
【手 部】 0.02(左右合計)
【胴体部】 0.46
【大腿部】 0.14(左右合計)
【下腿部】 0.12(左右合計)
【足 部】 0.04(左右合計)
【合 計】 1.00

 これで行けば膝にかかる重量は頭部から大腿部までの合計で、全体重の84%、体重70kgの場合は58.8kgです。股関節ならば全体重の70%、49kgということですね。これを人間は骨や関節、そしてそれを取り巻く筋肉で支えているということです。
 
 では骨にはどの程度の荷重がかかるのでしょうか。まず大腿骨の断面積はだいたい540mm^2だそうです。ということは、両足で1080mm^2。面倒なので1000mm^2で計算しましょう。これで体重の70%以上……ざっくり50kgを支えているとしましょう。もし大腿骨のみで全体重を支えているのだとすると、次のような計算になります。

 50kgf÷1000mm^2 = 500N÷1000mm^2 = 0.5N/mm^2

 思ったよりも荷重はかかっていませんね。例えば一般的なコンクリートの圧縮強度は18~36N/mm^2ですし、建材として使用されているスギやヒノキなどは圧縮強度が20~30N/mm^2ほどあります。骨は更に優秀で、圧縮強度は250MPa、つまり250N/mm^2くらいあります。
 ちなみに圧縮強度というのは、その部材に両端から力をかけて圧縮した場合に耐えられる圧力を示していますので、骨が支えられる体重は圧縮強度で考えるのが妥当です。
 ここから言えるのは、同じ面積で100倍の体重を支えようとすると、コンクリートやスギのような建材で使用されている材料では強度不足になるということです。骨は大丈夫。だけど、骨は大丈夫でも関節はそこまでの圧縮に耐えられません。膝の場合は場所によりますが、数Mpa~20Mpa、つまり数N/mm^2~20N/mm^2だという研究結果があります。体重が急激に重たくなると、大腿骨は潰れなくても膝が壊れるわけですね。

●巨大化することの問題点

 これまでの議論でなんとなくわかってきたと思います。巨大化するのは大変問題があります。人間の場合、例えば身長が10倍になったとしましょう。180cmの人は18mになりますので、ちょうどRX78ガンダムくらいの身長となります。
 身長は10倍ですが、縦だけではなく、横方向、厚み方向にも10倍になりますので、体積は1000倍となります。もし密度が同じだとすると体重も1000倍。一方、骨の断面積は100倍にしかなりませんから、同じ面積で支えなければならない圧力は10倍となります。
 先ほど、大腿骨にかかる圧力は0.5N/mm^2と計算結果が出ましたので、これが10倍になるなら5N/mm^2。大腿骨は耐えられますが、数N/mm^2~20N/mm^2しかない膝が保つかどうかはちょっとわからないことになります。膝の場所によっては破損が生じるということです。
 では、体重が同じままで身長だけ10倍になるというのはありえるでしょうか? この場合、密度が1000分の1ということになり、大体0.001g/cm^3程度となります。発泡スチロールの密度が0.01g/cm^3ですので、発泡スチロールの10分の1の密度。ちょっとでも風が吹けば飛んでいくレベルです。とてもではありませんが殴り合いができるような感じではありません。倒したければ強い風を吹かせるだけで何とかなります。
 つまり同じ密度で大きくすると膝が破壊されるかもしれず、体重を同じままとするなら風が吹くと飛んで行くということです。

 では、昆虫が巨大化する作品についても検証してみましょう。例えばアリ。日本にいるアリの中で少し大きめのオオクロアリを見てみると、働きアリの体重は大きい個体で35mgくらいだそうです。体長は7~12mm。これが巨大化して襲ってきたときに恐怖を感じるのは、せめて人間と同じ程度のサイズにはなってほしいものです。つまり100倍大きくなって120cmにまでならないと、怖くない。だとすると、体積は100×100×100で100万倍。

 35mgの100万倍ってことは……1000×1000でもあるので、1000倍で35g、さらに1000倍すれば35kg。地球上の生物は水が大半を占めますので、人間とほとんど密度というか比重は変わらないなぁという感想を抱いてしまいます。
 ただ、この体重をあの細い足で支えられるかどうかは話が別です。オオクロアリの写真から測定すると、足の太さは足の先端付近で0.16mm。簡単のために1辺0.16mmの正方形だとすると、断面積は次の計算で出ます。

 0.16mm×半径0.16mm = 0.26×10^-1mm^2

 元々はこの足6本で体重を支えていたとすれば、荷重からくる圧力は35mg÷(0.26×10^-1×6) = 0.22×10^-2N/mm^2となります。外骨格を形成しているクチクラ(キューティクルともいうそうです)という物質の剪断強度は30MPa、つまり30N/mm^2です。圧縮強度ではないので同じ比較はできませんが、ざっくり言えばコンクリートや木材と同程度の強度を持っています。圧力が100倍になったとしても十分に耐えられますが、関節が耐えられるのかは人間同様、不明です。

 ではどうすれば良いかと言えば、関節の強度を上げるしかありません。別の素材に置き換えて圧縮強度が高くなるようにするか、もしくは膝を含めた足の太さを太くすることです。同じ素材のまま10倍の圧力に耐えるのだとすると、太さを3倍程度にすれば良いわけです。プロポーションは大きく変わってしまいますが、巨大化しても同じ様に動く事ができるはずです。
 つまり、人間を10倍にした巨人は、足の太さを3倍にした超マッチョな脚部を持つプロポーションであれば、問題なく成り立ちます。昆虫を100倍の大きさにしたければ、足の太さを10倍にしたプロポーションにすれば問題なく動けるでしょう。ただし、飛べるかどうかは話が別ですが。

●縮小化することの問題点

 逆に小さくなることにも問題はあります。これは密度が同じまま小さくなる(つまり体重は軽くなる)のか、体重を保ったまま小さくなる(つまり密度が高くなる)のか、という2パターンに分けて考えられます。
 まず、密度が同じまま小さくなることを考えます。人間を10分の1のサイズにしてみましょう。すると体積は1000分の1。体重も1000分の1になります。身長170cmで体重が60kgという人がいたとすれば、身長17cm、体重60gとなります。ちなみに人間の脳は1200~1500gあるそうですが、体重が1000分の1になれば、脳の重さは1.2~1.5gです。他の生物と比較すると、ゴールデンハムスターの1g(体重は120g)とラットの2g(体重は400g)の間。体重比では脳の重さはかなりあるものの、齧歯類と同程度の重量の脳で、人間のような思考ができるとはちょっと思えません。高度な思考を諦める他なさそうです。

 一方、体重を保ったままだとどうでしょう? 身長が10分の1になると、密度が1000倍になるというものです。実のところ、こっちの方が行けるか? と思っていましたが、やっぱりダメな点を発見しました。というのも身長を100分の1にすると問題が生じます。
 身長を100分の1、つまり先ほどの人が慎重1.7cmになると、密度は100万倍になります。ざっくり10^6g/cm^3(1.0t/cm^3)です。これですね……宇宙にある白色矮星という、軽めの恒星が死を迎えたときになるとされている天体の密度とほぼ同じなのです。この密度だと自身の重力を支えるのに「電子の縮退圧」という、パウリの排他律を元にした力を使っていてですね……もう人間として存在できないのですよ……。
 そういえば「ミクロの決死圏」ではミクロサイズになって人間の血管内に侵入するという描写がありましたが、そんなに小さくなると中性子星の密度である10^9t/cm^3になっちゃうかもです。

 つまり、密度を一定のまま小さくなると高度な思考力を放棄する必要があり、体重を一定のまま小さくすると人間じゃなくなる、ということです。

●それでも作品上の設定で何とかする方法

 こういうサブタイトルを書いたものの、そんな方法はあるのか? と疑問に思ってしまいます。

 巨大化の方ですが、もしプロポーションを同じままで巨大化したいなら、重力が小さな惑星であれば良いということになります。重力が小さければ同じ体重でも受ける力が小さくなりますので、膝などの関節にかかる圧力も小さくなります。一方で圧縮強度などは物質の特性ですので、重力が小さな惑星でも変わりません。ですので、重力が地球の10分の1の惑星であれば、身長が10倍の巨人が人間と同じ様に動く事ができるはずです。
 もしくは巨大化する際に、主に股関節、膝関節、足首あたりの素材や内部構造を変更して、増える重量に耐えられるようにすれば、プロポーションを保ったままで行ける可能性はあります。例えば身長を10倍にするのであれば、関節の構造材の圧縮強度を10倍にするか、同じ構造材の場合は接触面積を10倍にするかです。ただ、接触面積を10倍にしてしまうと可動域が狭くなるか、もしくはそもそも膝が曲げられないなどの不都合が出る可能性もありますので、関節の構造自体も変えてしまった方が良さそうです。もちろん、構造材を変えたうえで関節構造も変えることで、無理なくプロポーションを保つという考え方もあるでしょう。

 縮小化の方は難しいですね。一番良いのは高度な思考力を保てる脳質量程度までしか小さくならない、という方法です。賢いと言われている犬でも72gはあります。いや、72gしかないのか? 170cmの大人が縮小した場合、脳がこの重量になるのは身長が60cmの時です。アデリーペンギンくらいですね。決して小さくはないか。
 もしくは何らかの技術で体重を保ったまま小さくなるとすると、やっぱり10分の1が限界かなぁ……電子の縮退圧で支えてる生物って、もう人間じゃないからねぇ……。いっそのこと、そういう生物を創造して、人間の思考パターンを移植するくらいの設定にしないといかんでしょう。というか、生物を作って良いのであれば、脳を何か別の素材で作ることとして、そこに記憶などを転写する仕掛けを準備する。同時に、人間のように見えるボディを何らかの素材で作ってしまうという方が良いでしょうね。
 つまりスモールライトやガリバートンネルは通っている間に同じ記憶と姿を持つ別の何かに生まれ変わらせる仕組みだということです。そういうのはダメかなぁ……。

●参考文献

・人工骨
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsao/45/3/45_183/_pdf/-char/ja

・健常者における大腿筋断面積の検討
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika1996/11/2/11_2_75/_pdf

・木材の種類と特性、強度(引張強度、圧縮強度、曲げ強度、せん断強度)、硬度について
 https://www.toishi.info/sozai/woods/

・ RA膝 の脛骨内顆関節面の力学的強度に関する研究
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnms1923/53/2/53_2_198/_pdf

・日本産アリ類生態情報(種別情報)クロオオアリ
 https://terayama.jimdofree.com/app/download/12674917190/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%AA%E3%82%AA%E3%82%A2%E3%83%AA%E7%94%9F%E6%85%8B%E6%83%85%E5%A0%B12016.pdf?t=1691550527

我々が観測しているのはあくまでも重力ポテンシャルの形だからね!

 前々から気になっている表現があります。

「ダークマターの分布を観測した」

 この言い方、間違いだと考えています。真実かもしれないけど、事実ではない、というのが筆者の意見です。どういうことか説明していきましょう。

●そもそも「ダークマター」とは

 1920~30年代にかけて、太陽系近傍の恒星の運動を分析した研究が行われていました。ヤコブス・カプタインやヤン・オールト(オールトの雲で有名な天文学者)は、恒星の運動を説明するためには、見えていない物質が大量に必要となることを指摘しました。
 また1930年代には銀河団の観測を行っていたフリッツ・ツヴィッキーも、銀河団中の銀河の軌道速度の研究から、やはり見えていない物質が必要だと考えたのです。これらは当時「ミッシング・マス(行方不明の質量)」と呼ばれていました。

 その後、1960年代になってX線の観測が始まると、1970年代には銀河団にX線を発する高温のガスが存在することも判明し、これを閉じ込めておくには銀河団中に存在する銀河の全質量が作る重力ポテンシャルでは不可能だとわかりました。
 また、多くの銀河の自転速度を調べる研究からも、本来であれば中心から外側に行くほど速度は落ちる(太陽系でも太陽から遠い惑星や天体は公転速度が遅い)はずなのに、どの銀河も外側まで一定の速度で回転していることがわかってきました。これは「銀河の回転曲線問題」として知られるようになりました。
 これらの現象を説明するには、観測で見えている天体の質量ではまったく足りず、10~100倍もの観測されていない質量が必要だとされました。これだけの量が見えていないとなるのであれば、もはや「行方不明」どころではありません。そこで「(暗くて)見えていない物質」ということで「Dark Matter(ダークマター)」という名称が使われるようになったのです。

●「重力ポテンシャル」ってなに?

 さて少し話を戻します。重力がどの様に働いているのかは、天体が作る重力の分布を調べることでわかります。例えばある天体からどれくらい離れた所では、どの程度の強さの重力(引力)が効いているのかを調べていきます。
 例えば太陽系の場合、太陽の重力が圧倒的に強いのですが、それでも太陽のそばからどんどん太陽系の果ての方に離れていくと、太陽からの重力はどんどん弱くなっていきます。太陽からどれくらいの距離であれば、重力の強さがどの程度なのかをグラフ化すると、ニュートンの万有引力の法則で想定されている逆二乗則の曲線となります。これが太陽の重力ポテンシャルというわけです。実際には空間は3次元ですので、グラフには描きづらいのですが、皆さんも天体のある場所が凹んでいる膜のイラストを見たことがあるでしょう。あれが重力ポテンシャルです。
 我々は天体の運動を観測することで、その場所にどれくらいの強さの重力が存在している必要があるかというのはわかります。その強さをマッピングするということは、つまり重力ポテンシャルを観測してマッピングしていると言い換えても良いでしょう。
 ですので「ダークマターの分布を観測」と言われると、個人的には違和感があるわけです。だって観測してマッピングしているのは、あくまでも「重力ポテンシャル」でしかありませんから。これが冒頭に書いた「真実かもしれないけど事実ではない」の意味です。

●「重力ポテンシャル」には物質が必要なのか?

 とはいえ、そこにそれだけの重力がかかっているということは、何らかの原因があるわけです。そして重力というのは物質が作るということになっています。もし物質が存在しなければ、そこには重力を及ぼすものはなく、従って重力ポテンシャルは、先の例で言えばどこにも凹みのない膜です。凹みを作るのは天体、そしてそれを作る物質だというのが現代物理学の基礎です。
 ということは、見えている天体がつくる重力ポテンシャルよりももっと深い、つまりもっと強い重力が存在しているのであれば「見えていない物質(ダークマター)」が存在するはずだ、というのは自然な流れなのです。
 ですが世の中には「それは本当か?」と考える人たちもいます。そのうちの大きな一派は「MOND」と呼ばれる理論を提唱しています。これは「MOdified Newtonian Dynamics(修正ニュートン力学)」の略です。つまり、天体の質量から重力の強さを求めるニュートンの万有引力の法則が間違っているのではないかという指摘です。もちろん、万有引力の法則は私たちの太陽系内では問題なく使えている理論ですので、大幅に変更する必要はありません。それでも「少し」修正することは可能だろう、というわけです。
 残念ながらこのMONDはなかなか上手く行っていません。相対性理論に対応しているわけではないというのもありますが、こちらについてはTeVeS (Tensor-Vector-Scalar gravity) という理論が提唱されています。
 他にも1990年頃には「銀河の回転曲線問題」には磁場の影響を持ち込んで説明する理論もありました。これは銀河内の物質はプラズマ化されている物が多く、プラズマは磁場の影響で一定の速度で回転するため、「銀河の回転曲線問題」を説明できるという物でした。とはいえ、これだけでは重力レンズ効果による重量ポテンシャルを説明することはできませんので、あまり良い解決方法ではないとみなされています。

●SF的に考えてみよう!

 では他には何か解決方法はないのでしょうか。ちょっとSF的に考えてみましょう。筆者であれば「物質が重力ポテンシャルを作る」という部分を外してしまいます。どういうことかと言えば、次のように考えるのです。

「物質も重力ポテンシャルを作るが、そもそも重力ポテンシャルは物質が存在しない空間でも存在しうる」

 つまり宇宙がビッグバンによって始まったときには既に強い重力ポテンシャルが存在していた。物質はその重力ポテンシャルに引き寄せられて集まり、銀河や銀河団、超銀河団といった天体を作ったと考えるわけです。そうすれば「ダークマターの正体」など考える必要はありません。だって物質が存在しなくても、そもそも空間は歪んでいて、重力ポテンシャルを持っているのですから。
 もっとSF的に考えましょう。万有引力を考えると重力ポテンシャルは凹みしか存在しません。凸部分は存在しないのです。もし凸部分が存在すれば、それは周囲の天体を遠ざける「万有斥力」として働きます。例えば超銀河団の間にはボイドと呼ばれるほとんど物質の存在しない空間があります。ここにもし凸な重力ポテンシャルがあったとしたら……そこに物質がない事の説明になるかも知れません。宇宙は卵パックのような重力ポテンシャルをしていて、出っ張りから凹みのところに物質を移動させているのかも知れません。
 もちろんこれは観測的に証明されたわけでもなければ、既存の観測結果をすべて説明する理論としても成立していません。でも「ダークマターが存在している」として研究されてきた研究結果をかなり転用できるはずだとも考えています。
 いずれにせよ、そういうSF作品を書いて世に出すのも面白いでしょうね。

宇宙戦艦ヤマト50周年でみる天文学50年の進歩

 今年、2024年は「宇宙戦艦ヤマト(旧作)」が放送されてから50年の節目の年です。2012年に始まった再解釈を交えたリメイクシリーズも順調に製作されており、今年は「ヤマトよ永遠に」のリメイクである「ヤマトよ永遠に REBEL3199」の上映を控えています。
 そこで今回は旧作とリメイクシリーズの差を見ながら、主に天文学の進歩について紹介していきましょう。

●2199-火星

 イスカンダルからの使者であるサーシャを古代進と島大介が回収する惑星です。旧作では現在と同じ赤い惑星でしたが、リメイクシリーズではテラフォーミングが行われています。それも元に戻りつつあるようですが、それでもテラフォーミングによる海が存在していました。
 この火星のテラフォーミングですが、SF作家の故アーサー・C・クラークがコンピューターシミュレーションによる海ができた場合の見え方などを研究していました。その結果は邦題「オリンポスの雪」という書籍にまとめられ、1994年(日本語版は1997年)に出版されています。それまではテラフォーミングの進め方についての研究を紹介する文章が多かったのですが、ここで初めて実際の画像が出て来ました。これは火星探査機による標高データが整備されたことによるものと言えるでしょう。
 ちなみに1974年当時はまだバイキング1号、2号の着陸前ですので、火星の表面に関する情報はマリナー探査機のシリーズによるものしかありませんでしたが、リメイクシリーズの際にはNASAを中心とした数多くの探査機が火星周回軌道上及び火星表面で活動していましたから、情報量がまったく異なる惑星でもあります。

●2199-「ゆきかぜ」との邂逅

 古代進の兄である古代守が艦長を務めていた宇宙駆逐艦「ゆきかぜ」。リメイクシリーズでは磯風型の1隻として描かれていました。
 この「ゆきかぜ」は冥王星沖海戦後行方不明になっていました。物語が進むと某天体に不時着しているのが発見されるのですが、旧作では土星の衛星タイタンで、リメイクシリーズでは同じく土星の衛星エンケラドスとなっていました。
 正直、これはどちらでも構わないと思いますが、タイタンがメタンやエタンの循環が着陸機ホイヘンスによって確定した衛星ですので、少し映像化に悩む点が出たのかも知れません。その点、エンケラドスは水の氷で覆われているのがわかっている上、間欠泉が吹き出し、地下に海がありそうだなどの新情報が得られている衛星でもあります。間欠泉についてはリメイクシリーズでも描かれていましたので、物語の進行上使い勝手が良かった可能性もあります。

●2199-冥王星

 大きな変更のあったのが、この冥王星です。実は1974年の旧作放送の際には直径が地球の約半分(6000km程度)という、金星に次ぐサイズの惑星だと考えられていました。当時の望遠鏡の能力では冥王星と衛星カロンの分離が行われていなかったため、両星が1つの天体であると誤認され、火星よりも大きな惑星だと考えられていたのです。そのためもあってか、冥王星には氷の下に海があり、現住生物もいるという設定がされていました。
 ところが1978年にカロンが発見されたため、冥王星はもっと小さな惑星であるということが判明しました。実際には直径2370km程度。そして2006年のIAU総会において「準惑星」に降格されてしまいました。
 リメイクシリーズでも「準惑星」という呼称が使われていましたが、正直、今から170年も先の2199年に「準惑星」というカテゴリが残っているかどうかはすごくアヤシイと思っています。その辺は『「準惑星」はスジが悪い(個人の感想です)』を読んで下さい。
 また2012年時点では冥王星探査機ニューホライズンズは到着していませんが、それでも数多くの衛星が発見されていますので、物語にも反映されていました。表面の様子については不明な点が多かったのですが、ガミラスによる惑星改造が行われているという設定が入っていましたので、ニューホライズンズの発見のことはあまり気にしなくても良いかも知れません。

●2199-太陽系の他の天体

 その他の太陽系の様子としては、リメイクシリーズの第1話で海王星の映像が出てくるなど、探査機やハッブル宇宙望遠鏡などによるデータが反映されています。遊星爆弾もエッジワース・カイパーベルト天体を利用して作っている描写が出て来ますので、太陽系の遠方天体についての知見が活かされています。
 また旧作では太陽系を離れる際には「どこまでが太陽系か」についてはあまり気にしておらず、地球との直接通信が切れる距離という話になっていましたが、リメイクシリーズではヘリオポーズを抜けるということで「太陽系赤道祭」を行い、その一環として地球との通話を行っていました。
 旧作では木星も出ていましたが、こちらについてはあまり大きな変更はありませんでした。実際には旧作以降に衛星イオの表面で火山の爆発が発見されていますが、イオが登場しなかったために作中の情報更新は行われていません。
 一方、土星についてはオーロラの発見があったため、リメイクシリーズでは極にオーロラの表現がされていました。環については特に触れるところはないのですが、「宇宙戦艦ヤマト2」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」では土星沖海戦が発生していますので、環から飛び出してくる演出などもありました。

●2199-グリーゼ581

 リメイクシリーズではエネルギーを吸収するガス生命体に追いかけられ、恒星表面に追いやられる回(第8話)に登場した恒星です。この恒星にはハビタブルゾーン内に惑星があると考えられているため、探査対象として接近することで罠にかかります。
 実は旧作では「オリオン座α星」とされていて、これはベテルギウスを指しています。グリーゼ581は赤色矮星、ベテルギウスは赤色巨星という違いはありますが、どちらも赤色の恒星で、それなりにフレアを吹き出していると考えられています。
 どちらの場合も恒星表面にまで近づき、旧作ではプロミネンスを波動砲で吹き飛ばしています。リメイクシリーズでは波動砲で吹き飛ばすのはフレアに変更されています。とはいえ、1990年代に解明された磁気リコネクションによって発生している現象としては同じものですので、新しい方に合わせたのかな、というところです。
 ちなみにリメイクシリーズではこの星系にワープする前、太陽系から8光年離れた場所で8年前の地球を見るという演出が加えられています。まだ遊星爆弾によって赤くなる前、青かったときの地球を見て「これを取り戻しに行くんだ」という沖田艦長のセリフにぐっと来たものです。

●2199-ビーメラ4(ハビタブルゾーン)

 旧作ではビーメラ星人の居住する惑星でした。リメイクシリーズではビーメラ星系の第4惑星ビーメラ4として紹介されます。ただし原住民は既に絶滅しているという設定です。
 ビーメラ4はハビタブルゾーン内に存在していて、地球と似た環境を持つ惑星として描かれています。この「ハビタブルゾーン」という概念は1964年にスティーヴン・H・ドールの著書「Habitable Planets for Man」で定義され広がっていきましたが、旧作では触れられていません。実際に惑星系における水が液体として存在するゾーンという定義は1993年に天文学者ジェームズ・カスティングが「惑星系のハビタブルゾーン」として再定義されたものですので、旧作時点ではリメイクシリーズでのような使い方がされる定義としては明確ではなかったと言えます。

●マゼラニック・ストリーム

 銀河系とマゼラン銀河との間に架かっている紐状のようになっているガス雲のことです。1972年に発見されていますので、旧作当時にはかなりホットな話題であり、使い勝手が良かった天体だったのだろうと思われます。
 その後の観測では薄いガス雲であることがわかっただけですので、リメイクシリーズでは触れられていません。一方、銀河系を外から見る演出が入り、第14話では古代進と森雪が100式空偵で偵察へと出た際に銀河系の姿を視認する演出がありました。
 また旧作で行われたマゼラニック・ストリームでの戦闘は、第15話の中性子星近辺での戦闘へと置き換えられました。

●2199-バラン星

 旧作では浮遊惑星とされ、地面のある惑星でかつガミラスの人工太陽が周辺を公転しているという設定でした。この人工太陽は「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」の第11番惑星に引き継がれます。
 一方、リメイクシリーズでは自由浮遊惑星とされていて、どちらかというと褐色矮星と言った方が良い扱いになっています。旧作時点ではこの手の褐色矮星は発見されていませんでしたが、1988年に初めての褐色矮星GD165Bが発見され、その後次々と似たようなサイズの天体が発見されています。
 また褐色矮星自体の研究は1960年代から行われていましたが、1963年に林忠四郎、中野武宣による「核融合を起こす天体の下限」についての研究があり、1980以降にその構造についての研究が行われました。1990年代には輻射輸送を取り入れることでそのスペクトルがどの様になるかが計算されるようになり、通常の恒星とは異なり黒体放射とは大きくずれたスペクトルを持っていると考えられるようになっています。
 ちなみに自由浮遊惑星は「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」にも「自由浮遊惑星カッパドギア」が出ています。こちらは褐色矮星ではなく、固い表面を持つ天体として表現されていました。

●2199-大マゼラン銀河-七色星団

 大マゼラン銀河について大きく変わったのは銀河系からの距離です。旧作の時には14万8000光年、往復29万6000光年の旅であると表現されていましたが、リメイクシリーズでは最新データから16万8000光年とされています。往復は33万6000光年ですから、1割は延びている感じですね。
 また七色星団についても旧作では「七色混成発光星域」としてドメル将軍との決戦が行われました。リメイクシリーズでも決戦の宙域となりましたが、大マゼラン銀河で存在を誇示しているタランチュラ星雲内にあると設定されました。
 ちなみにSF大会で故石黒昇監督がお話になった情報では、「七色星団」というのは故西崎義展プロデューサーが言い出した内容から端を発したそうで、当時「曜日ごとに毎日違う色のものへはきかえることを前提に、七色のパンツをセットにして売る」という「七色パンティ」に由来しているのだそうです。それを「異なる元素による発光現象によって七色になっている星団」という設定を作り出した当時の制作陣の苦労が偲ばれます。
 そういう意味ではタランチュラ星雲は様々な色に発色しているので、ちょうど良い天体だったと言えます。

●2202-第11番惑星

 ついでに2202からも1つだけ。実のところ「宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士達」「宇宙戦艦ヤマト2」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」以降、あまり天文学的な描写は出て来なくなります。第1作目がSF&天文学的な作品として良くできていたのに対し、2作目以降は天文学、SF的マインドは減少し、人間ドラマにガッツリ移行しました。
 その中でも唯一と言って良いかな? 出てくるのが第11番惑星です。旧作では冥王星が第9番惑星で、第10番惑星も「なれの果て」として出て来ていましたので、11番惑星が出てくること自体に問題はなかったのです。
 ところがリメイクシリーズでは冥王星は準惑星ですので、第11番惑星があると言うことはそれ以外に第9番惑星、第10番惑星が別に存在していることになります。準惑星自体も相当数発見されていると考えられますので、その辺を出してくれると良いのですけどね。この辺は「ヤマトよ永遠に REBEL3199」に出て来るのでしょうか?

「ヤマトよ永遠に」では小惑星イカロスなども出て来ますが、これはリメイクシリーズがもう少し進んだ際に検証してみたいと思います。