今年、2024年は「宇宙戦艦ヤマト(旧作)」が放送されてから50年の節目の年です。2012年に始まった再解釈を交えたリメイクシリーズも順調に製作されており、今年は「ヤマトよ永遠に」のリメイクである「ヤマトよ永遠に REBEL3199」の上映を控えています。
そこで今回は旧作とリメイクシリーズの差を見ながら、主に天文学の進歩について紹介していきましょう。
●2199-火星
イスカンダルからの使者であるサーシャを古代進と島大介が回収する惑星です。旧作では現在と同じ赤い惑星でしたが、リメイクシリーズではテラフォーミングが行われています。それも元に戻りつつあるようですが、それでもテラフォーミングによる海が存在していました。
この火星のテラフォーミングですが、SF作家の故アーサー・C・クラークがコンピューターシミュレーションによる海ができた場合の見え方などを研究していました。その結果は邦題「オリンポスの雪」という書籍にまとめられ、1994年(日本語版は1997年)に出版されています。それまではテラフォーミングの進め方についての研究を紹介する文章が多かったのですが、ここで初めて実際の画像が出て来ました。これは火星探査機による標高データが整備されたことによるものと言えるでしょう。
ちなみに1974年当時はまだバイキング1号、2号の着陸前ですので、火星の表面に関する情報はマリナー探査機のシリーズによるものしかありませんでしたが、リメイクシリーズの際にはNASAを中心とした数多くの探査機が火星周回軌道上及び火星表面で活動していましたから、情報量がまったく異なる惑星でもあります。
●2199-「ゆきかぜ」との邂逅
古代進の兄である古代守が艦長を務めていた宇宙駆逐艦「ゆきかぜ」。リメイクシリーズでは磯風型の1隻として描かれていました。
この「ゆきかぜ」は冥王星沖海戦後行方不明になっていました。物語が進むと某天体に不時着しているのが発見されるのですが、旧作では土星の衛星タイタンで、リメイクシリーズでは同じく土星の衛星エンケラドスとなっていました。
正直、これはどちらでも構わないと思いますが、タイタンがメタンやエタンの循環が着陸機ホイヘンスによって確定した衛星ですので、少し映像化に悩む点が出たのかも知れません。その点、エンケラドスは水の氷で覆われているのがわかっている上、間欠泉が吹き出し、地下に海がありそうだなどの新情報が得られている衛星でもあります。間欠泉についてはリメイクシリーズでも描かれていましたので、物語の進行上使い勝手が良かった可能性もあります。
●2199-冥王星
大きな変更のあったのが、この冥王星です。実は1974年の旧作放送の際には直径が地球の約半分(6000km程度)という、金星に次ぐサイズの惑星だと考えられていました。当時の望遠鏡の能力では冥王星と衛星カロンの分離が行われていなかったため、両星が1つの天体であると誤認され、火星よりも大きな惑星だと考えられていたのです。そのためもあってか、冥王星には氷の下に海があり、現住生物もいるという設定がされていました。
ところが1978年にカロンが発見されたため、冥王星はもっと小さな惑星であるということが判明しました。実際には直径2370km程度。そして2006年のIAU総会において「準惑星」に降格されてしまいました。
リメイクシリーズでも「準惑星」という呼称が使われていましたが、正直、今から170年も先の2199年に「準惑星」というカテゴリが残っているかどうかはすごくアヤシイと思っています。その辺は『「準惑星」はスジが悪い(個人の感想です)』を読んで下さい。
また2012年時点では冥王星探査機ニューホライズンズは到着していませんが、それでも数多くの衛星が発見されていますので、物語にも反映されていました。表面の様子については不明な点が多かったのですが、ガミラスによる惑星改造が行われているという設定が入っていましたので、ニューホライズンズの発見のことはあまり気にしなくても良いかも知れません。
●2199-太陽系の他の天体
その他の太陽系の様子としては、リメイクシリーズの第1話で海王星の映像が出てくるなど、探査機やハッブル宇宙望遠鏡などによるデータが反映されています。遊星爆弾もエッジワース・カイパーベルト天体を利用して作っている描写が出て来ますので、太陽系の遠方天体についての知見が活かされています。
また旧作では太陽系を離れる際には「どこまでが太陽系か」についてはあまり気にしておらず、地球との直接通信が切れる距離という話になっていましたが、リメイクシリーズではヘリオポーズを抜けるということで「太陽系赤道祭」を行い、その一環として地球との通話を行っていました。
旧作では木星も出ていましたが、こちらについてはあまり大きな変更はありませんでした。実際には旧作以降に衛星イオの表面で火山の爆発が発見されていますが、イオが登場しなかったために作中の情報更新は行われていません。
一方、土星についてはオーロラの発見があったため、リメイクシリーズでは極にオーロラの表現がされていました。環については特に触れるところはないのですが、「宇宙戦艦ヤマト2」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」では土星沖海戦が発生していますので、環から飛び出してくる演出などもありました。
●2199-グリーゼ581
リメイクシリーズではエネルギーを吸収するガス生命体に追いかけられ、恒星表面に追いやられる回(第8話)に登場した恒星です。この恒星にはハビタブルゾーン内に惑星があると考えられているため、探査対象として接近することで罠にかかります。
実は旧作では「オリオン座α星」とされていて、これはベテルギウスを指しています。グリーゼ581は赤色矮星、ベテルギウスは赤色巨星という違いはありますが、どちらも赤色の恒星で、それなりにフレアを吹き出していると考えられています。
どちらの場合も恒星表面にまで近づき、旧作ではプロミネンスを波動砲で吹き飛ばしています。リメイクシリーズでは波動砲で吹き飛ばすのはフレアに変更されています。とはいえ、1990年代に解明された磁気リコネクションによって発生している現象としては同じものですので、新しい方に合わせたのかな、というところです。
ちなみにリメイクシリーズではこの星系にワープする前、太陽系から8光年離れた場所で8年前の地球を見るという演出が加えられています。まだ遊星爆弾によって赤くなる前、青かったときの地球を見て「これを取り戻しに行くんだ」という沖田艦長のセリフにぐっと来たものです。
●2199-ビーメラ4(ハビタブルゾーン)
旧作ではビーメラ星人の居住する惑星でした。リメイクシリーズではビーメラ星系の第4惑星ビーメラ4として紹介されます。ただし原住民は既に絶滅しているという設定です。
ビーメラ4はハビタブルゾーン内に存在していて、地球と似た環境を持つ惑星として描かれています。この「ハビタブルゾーン」という概念は1964年にスティーヴン・H・ドールの著書「Habitable Planets for Man」で定義され広がっていきましたが、旧作では触れられていません。実際に惑星系における水が液体として存在するゾーンという定義は1993年に天文学者ジェームズ・カスティングが「惑星系のハビタブルゾーン」として再定義されたものですので、旧作時点ではリメイクシリーズでのような使い方がされる定義としては明確ではなかったと言えます。
●マゼラニック・ストリーム
銀河系とマゼラン銀河との間に架かっている紐状のようになっているガス雲のことです。1972年に発見されていますので、旧作当時にはかなりホットな話題であり、使い勝手が良かった天体だったのだろうと思われます。
その後の観測では薄いガス雲であることがわかっただけですので、リメイクシリーズでは触れられていません。一方、銀河系を外から見る演出が入り、第14話では古代進と森雪が100式空偵で偵察へと出た際に銀河系の姿を視認する演出がありました。
また旧作で行われたマゼラニック・ストリームでの戦闘は、第15話の中性子星近辺での戦闘へと置き換えられました。
●2199-バラン星
旧作では浮遊惑星とされ、地面のある惑星でかつガミラスの人工太陽が周辺を公転しているという設定でした。この人工太陽は「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」の第11番惑星に引き継がれます。
一方、リメイクシリーズでは自由浮遊惑星とされていて、どちらかというと褐色矮星と言った方が良い扱いになっています。旧作時点ではこの手の褐色矮星は発見されていませんでしたが、1988年に初めての褐色矮星GD165Bが発見され、その後次々と似たようなサイズの天体が発見されています。
また褐色矮星自体の研究は1960年代から行われていましたが、1963年に林忠四郎、中野武宣による「核融合を起こす天体の下限」についての研究があり、1980以降にその構造についての研究が行われました。1990年代には輻射輸送を取り入れることでそのスペクトルがどの様になるかが計算されるようになり、通常の恒星とは異なり黒体放射とは大きくずれたスペクトルを持っていると考えられるようになっています。
ちなみに自由浮遊惑星は「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る方舟」にも「自由浮遊惑星カッパドギア」が出ています。こちらは褐色矮星ではなく、固い表面を持つ天体として表現されていました。
●2199-大マゼラン銀河-七色星団
大マゼラン銀河について大きく変わったのは銀河系からの距離です。旧作の時には14万8000光年、往復29万6000光年の旅であると表現されていましたが、リメイクシリーズでは最新データから16万8000光年とされています。往復は33万6000光年ですから、1割は延びている感じですね。
また七色星団についても旧作では「七色混成発光星域」としてドメル将軍との決戦が行われました。リメイクシリーズでも決戦の宙域となりましたが、大マゼラン銀河で存在を誇示しているタランチュラ星雲内にあると設定されました。
ちなみにSF大会で故石黒昇監督がお話になった情報では、「七色星団」というのは故西崎義展プロデューサーが言い出した内容から端を発したそうで、当時「曜日ごとに毎日違う色のものへはきかえることを前提に、七色のパンツをセットにして売る」という「七色パンティ」に由来しているのだそうです。それを「異なる元素による発光現象によって七色になっている星団」という設定を作り出した当時の制作陣の苦労が偲ばれます。
そういう意味ではタランチュラ星雲は様々な色に発色しているので、ちょうど良い天体だったと言えます。
●2202-第11番惑星
ついでに2202からも1つだけ。実のところ「宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士達」「宇宙戦艦ヤマト2」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士達」以降、あまり天文学的な描写は出て来なくなります。第1作目がSF&天文学的な作品として良くできていたのに対し、2作目以降は天文学、SF的マインドは減少し、人間ドラマにガッツリ移行しました。
その中でも唯一と言って良いかな? 出てくるのが第11番惑星です。旧作では冥王星が第9番惑星で、第10番惑星も「なれの果て」として出て来ていましたので、11番惑星が出てくること自体に問題はなかったのです。
ところがリメイクシリーズでは冥王星は準惑星ですので、第11番惑星があると言うことはそれ以外に第9番惑星、第10番惑星が別に存在していることになります。準惑星自体も相当数発見されていると考えられますので、その辺を出してくれると良いのですけどね。この辺は「ヤマトよ永遠に REBEL3199」に出て来るのでしょうか?
「ヤマトよ永遠に」では小惑星イカロスなども出て来ますが、これはリメイクシリーズがもう少し進んだ際に検証してみたいと思います。